68 最終話 エピローグ
68 最終話 エピローグ
俺たちが拠点を構えてから1年が過ぎようとしていた。
拠点、と言っても、何かあったら逃げるつもりだ。
そこそこ険しい山中、木々が生い茂る中、石とロープと木の枝で作った野性味溢れる小屋が寝床。
これが案外住み心地良くて助かっている。
たまに虫除けで煙を焚くとしばらく使えないが、それはそれで、星空の下ハンモックで眠れて良い。
ゾンビは寒いのも苦手だったが、急な山も苦手だったらしい。
二足歩行に進化した故か、山登りが苦手になってしまった。
機動性がどうというより、キツイし、バランス取りにくいから。
たまに麓に降りるとゾンビを見かけるが、山の上にはいない。下の方で稀に見かける程度。
以前から鹿が広がって増えていたが、最近はよくウサギを見かける。
良く罠にかかるし、妹達が投石で仕留めている。50m先でも一発だ。
どんなコントロールだよ。ウサギもびっくりだろう。
妹達には少し変化があった。
髪の色が少し赤っぽくなり、眉毛が薄くなって、肌がなんだかサラサラで滑らかになった。
少しずつ変化していたが、この2ヶ月程それ以上の変化はしていないので、ここまでだろう。
たったそれだけの事ではあるが、これが『次の人類』というやつかと感心した。
「肌が綺麗になったのはいいけど、眉毛薄いのはちょっとなぁ…… お兄ちゃん、どう思う?」
「別にいいんじゃないか?」
「本当に? ホントにそう思う?」
なんだよ。
今の答え間違ってた?
干し肉も最近はほとんど失敗しなくなってきた。
肉がこれだけあるんだから上手くもなる。
野草もたべれるものを手近に植え直して、群生地を作った。
この人数なら畑もいらない。
4人とも少食気味だし。
俺の右手小指と薬指は治った。
少し太くなってしまったし、少し動きが鈍くなってしまったが、大きな後遺症は無い。
□
ある日の午後。
早朝狩った鹿のステーキを食べていると、気配を感じた。
「どしたの? お兄ちゃん」
俺の様子にまず気付くのは妹だ。
もっちもっちと鹿ステーキを食べながら、妹も俺に続いて気付いた様だ。
ナツリンと委員長も気付いて、気配の方に顔を向ける。
すると、カラカラと音が鳴った。
俺がそこら中に仕掛けてあった鳴子だ。
先に気配がわかるなら必要ないかもしれないが、あれはある程度の大きさ、重量が無ければ鳴らない。
気配と合わせて確定。
「音聴いても逃げないね。ゆっくりこっちに来るよ」
ゾンビという感じはしない。
追っ手という感じも無い。
獣なら音を聴いたらだいたい逃げてる。餌に困る様な環境でもないし。
一応銃も銃弾もほとんど使わずに置いてある。
1年ぐらい経ってるので、まともに使えるかはわからないが。
しかし、どうもそれを使うまでも無い様だ。
一応、委員長が弓矢を手にした。
ガサガサと茂みが揺れ、人影がでてきた。
それは、男女のカップルだった。
弓を構えた委員長の姿を既にとらえていたのか、両手を挙げている。
「すみません、どうか食べ物を…… わけてもらえないでしょうか……」
鹿ステーキの匂いにつられてきたのか。
そのカップルは一見してすぐにわかる特徴があった。
髪の色、薄い眉毛、手首から先と顔ぐらいしか露出していないものの、その肌が滑らかなのは遠目でもちゃんとわかった。
□
□
俺たちはこの2人を迎え入れた。
話をしてみると男の方が、
「え? 血の繋がらない妹? それはヤバイですね」
と言った。
よくわからんが、こいつは信用できる気がした。
女の子の方は妹達にカワイイ攻撃を受けている。
俺が知っている新人類がこの3人だけだったので、なんとなーく体格が良くて強そうなイメージがあったけれど、この女の子は小柄で細く、可愛い系だった。
でもやっぱり腕力があった。
このカップルは避難所から逃げ出して来たらしい。
既に内部がガタガタで、脱出する人がちらほらいるという。
発見された因子持ちは東北各地にある避難所でしばらく教育されてから北海道に送られるらしいが、その前に逃げてきたらしい。
まだ南の方にいた内に逃げてきた妹達より苦労したんじゃなかろうか。寒いところは大変だ。
だとすれば、きっと色々あったんだろう。
彼らも自分たちと同じように覚醒した人に会うのは初めてだったらしい。
結構驚いていた。
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□
それからさらに1年が経った。
俺たちの所帯は13人になっていた。
なお、旧人類は俺1人。
合流した人達によれば、そもそも旧人類が1人で3年もさまよっていた方がおかしいらしい。
「ほら。やっぱお兄ちゃんの方がチート主人公じゃん」
という妹は置いといて。
旧人類の生き残りもまだまだいるらしい。
最新の情報では、コミュニティ毎に自給自足を始め、そこそこ安定しているようだ。
妹が言っていた薬が抜けたんだろうか。
だが、逃げてきた新人類によれば石を投げてきたとかなんとか。
まぁ、大した差ではないけど、見て直ぐに分かる特徴ではあるし。
新種のゾンビとか思われたんだろうか。
最近小走りできるゾンビも見かけたし。
今は引き篭もり段階なんだろう。
俺たちが知らないだけで、コミュニティ内でうまくやってる新人類もいるはずだ。
□
そのうち事態は収まるだろうと思っている。
何年かかるか分からないが、そう長くはないだろう。
新人類達が隔離施設から逃げだせたのも、管理がガタガタだったからだ。
北海道でも色々ダメになっていると聞いた。
実際に北海道から逃げてきた人はいないので、噂という程度だが。
人間は色んな事をしてきた。
だが、自然のことや、特に生物の事ではあまり上手くやれてない。
特定のウイルスや病原菌を根絶できるほどの人類が、そんなバカなという失態を繰り返していた。
人間を御そうという試みだって何度もあったが、上手くいった試しが無い。
生まれてくる新しい人類をどうこうできる力なんて、そもそも無いのだ。
自然にはほとんど存在しなかった新人類を、ゾンビ虫をばらまいて人為的に増やしてしまった。
それを管理しようなんて、失敗する未来しか見えない。
たいそうな計画を立てて、それを実行して、最初はうまくいったのかもしれないけど、全て思い通りにはいかない。
…… なんて、大勢の事はどうでもいい。
そんな事より、
「お兄ちゃん、ナツリンの事好き?」
「え? 好きだけど」
「委員長の事は?」
「好きだけど」
「どっちがいいの?」
「…… またそういう話かよ。だから、俺はそういうつもりじゃ……」
「カタブツー」
「ほっとけよ」
「…… じゃあさ、私の事は? 好き?」
「ああ、大好きだよ」
「ならば良し!」
「むむむ! ラブコメのにおいがするっす!」
「だーっ! ナツリン、もう!」
ともかく、俺のやる事は決まっている。
妹のそばにいる。
妹達を助けていく。
そうして俺も生きていく。
□
おしまい。
読んで頂いて有難う御座いました。
m(_ _)m




