67 決着
67 決着
都市迷彩はバタバタと暴れ、今にもひっくり返されそうだ。
「お前には、自分以外に大切なものはあるか?」
俺の問いに、
「うああああああああああ」
都市迷彩は喚き声で答えた。
「お前にも色々あるのかもしれない。
でも、お前は、俺を殺しに、妹達を酷い目に合わせるために来た。
お前は、ここで殺す」
俺の言葉に、都市迷彩は命乞いを喚き散らした。
そのズタボロの腕じゃどうせ死ぬ。
厄介なのは、この図体のデカい男が、失血で気を失うか死ぬ前に俺を殺す事ができるかもしれないという事だ。
「俺には、いるんだ。大切な人が。守るべき人達が。
だから……」
俺は、右手を引き込み、右肘を都市迷彩の首にねじ込んだ。
まだ無事な左手で、右手首を握る。
目の前にある都市迷彩の顔が歪んだ。
「んおっ」
と、野太い声を漏らし、えづいて、吐きそうになっている。
「…… 俺の、勝ちだ」
体を丸める様にして、全体重を右肘に込めた。
この体勢からできる事は少ない。右手もやられた。
もしかすると他にも手があったのかもしれないが、悩むのはやめだ。
都市迷彩の顔が真っ赤になっていく。
俺の体に回していた腕を外し、俺を突きとばそうとしているが、上手く動かないようで、密着している体の隙間に手をいれられずにバタバタと俺を叩くだけだった。
やがてその腕からも力が抜けていった。
どれだけそうしていたかわらないが、いつのまにか都市迷彩は動かなくなっていた。
「お兄ちゃん」
「…… ああ」
後ろから声がかかって、俺は立ち上がった。
「ゾンビは?」
「全部始末したよ。他のは多分2人がやってると思う」
スポーツ施設に入り込んだゾンビは全部で20体。
この運動場に入ってきたのは7体。
妹は、運動場裏手に隠れていたナツリン、委員長と合流し、様子を見て、逃げるか加勢するかしてもらう予定だった。
妹はどうやら一人で戻ってきて、運動場内のゾンビを始末したらしい。
手にはククリンとやらが握られている。
どんなネーミングセンスだよ。しかも、1号2号って。雑なのか愛着があるのかわからん。
今度は運動場入り口から、
「おー、ゾネ兄さんやったっすか」
と、元気な声が聞こえてくる。
「ゾンビは?」
俺の問いに、委員長が、メガネを光らせ、全部やったわ。と答えた。
何でメガネ語がわかるのか自分でもわからん。
委員長は右手首に怪我。
ナツリンは左肩に怪我。
どっちも本調子じゃないものの、ナツリンの右手にはハンドメイドNAGINATA(近くで見たらやっぱり長巻だった)委員長の左手には、鉈。
どっちにもべったりと血が付いている。
戦闘には参加させなかったが、事後処理は余裕でこなしたみたいだ。
怪我人とはいえ、彼女達の方が俺よりだいぶ戦えたんじゃないだろうか。
俺はいったいどれだけの時間ここで戦っていたんだ?
というか、俺が戦う必要あったんだろうか。
ゾンビは確かに鈍いが、それでも病み上がりの状態で数体を簡単に処理してしまう様な女の子達に助けなんているんだろうか。
「あー、お兄ちゃん、その顔は、またくだらない事で悩んでるね」
「……すまん。最近ずっとそうだったから癖で」
「まぁ、よろしい」
「むむむ…… やっぱりゾネ兄さん、最初に会った時と違う感じがするっす……
昨夜、何かが…… ゾネさんとアツイ何かがあったんすか?」
というナツリンにギャーギャー突っかかっている妹は置いといて、俺は右手の手袋を脱いだ。
「うわ……」
小さな声を漏らす。
右手の小指と薬指はちぎれていなかった。
傷も出血もない。
だが、パンパンに腫れ上がっていた。
妹も心配そうに俺の手を見ている。
「多分折れてるね」
「ああ」
利き手だし、しばらく戦うのは無理だろう。
この程度の怪我で済んで良かった。
「すまん。俺、足手まといになるかも」
「もう、そんな事でも悩むの? お兄ちゃんホント悩むの好きだね」
「大丈夫っす! ゾネ兄さんはアッシが守るっす!」
と、元気良くナツリンが応え、委員長もメガネをクイっと上げて同意した。
「それに、アッシも委員長もゾネ兄さんに助けてもらったようなものっす。
私達の体の中には、ゾネ兄さんの血が流れているっす」
などと言ったナツリンに妹が絡んでいた。
俺は、猟銃を拾い上げる。
委員長も拾っていた。
ナツリンと妹はなんか遊んでいる。楽しそうで良い。
□
猟銃3、マチェット3、ナイフもある。その他色んなものが出てきた。
結構装備整ってたのか。
黒スエットは服装の関係で猟銃とマチェットだけだったが。
特に釣り人の装備が豪華で、先に殺しておいて良かったと思う。
弾はポケットと、リュックにもあった。
細かいのが31発。
箱入りが3箱。
結構な量…… なんだろうか? よくわからんが。
今更になって銃を手に入れるとは。
俺はやっぱり主人公ではないようだ。
「なぁ、もし俺がやられてたらちゃんと逃げてくれてたか?」
という俺の問いに、
「え? そんなの考えてなかったなぁ。
お兄ちゃんならやれるって思ってたし」
そしてそれは的中したわけだ。
「俺さ、一生お前に付いていくよ」
「え? えええ? 何突然! 私達、確かに血はつながってないけど…… えっと…… ええええええ」
「むむむ、ラブコメのにおいがするっす!」
と、飛び込んでくるナツリン。
妹はまたナツリンに飛びかかり、ワーワー何か言いながら追い回している。
妹をかわすナツリンの動きすげぇ。
「武道か? 俺もおぼえたいなぁ……」
思わず声が漏れてしまう。
妹の蹴りをかわせるようになりたい。大事なスキンシップだったけど、今の妹の蹴りは冗談じゃ済まないぐらい痛い。せめて3回に1回はかわしたい。
じゃれあう妹とナツリンを見ていると、
「よければ私が教えましょうか?」
「…………………… 委員長?」
俺と妹、それに、ナツリンと委員長。
たった4人だけれど、何度も失敗して、何年もかかったけれど、俺はやっと落ち着ける場所を見つけた。
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