表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/72

07 世界崩壊・下

07世界崩壊・下

 

 散々煽った自称有識者達は謝罪どころか悪びれた様子も無くテレビに出続けた。

 悲痛な表情を作ってニュースを読むキャスター。さも自分が人類の代表のかのように熱弁を振るうパネラー。

 少なくとも、日本のテレビはいつも通りだった。

 

 ネタは海外からやってきた。

 海外の研究機関の資料が流出した。

 

 この寄生虫はテロ後の『ゾンビ事件』の3日後には発見されていた。

 それがマスメディアに油を注いだ。

 連日連夜国連軍に参加した国々、そしてお金だけ出した日本国政府もやり玉に上がった。

 いや、自国の政府批判はいつもの事だが。

 

 そして、その中、重要な部分はどのテレビ番組も報道しなかった。

 キャスターもパネラーもインターネットを通して知っているはずなのに、誰も口を開かなかった。

 

 既に多くの人間がこの『ゾンビ虫』に寄生されているかもしれないという事を。

 

 

 ■

 

 

 このゾンビ虫の発見は、平時なら医療技術のブレイクスルーたり得るものだった。

 

 ゾンビ虫は卵の状態で血液を巡っている。増えるらしいが、俺はその辺の詳しい事は知らない。ともかく、この状態では見つけることが困難だという。

 

 宿主の体が生命維持に関わるダメージを受けると、孵化し、体中、そして特に脳に寄生し、増える。

 卵の状態で脳関門を抜けてしまううえ、特に脳細胞に多く居る為、発症しだしたらもう手の施しようがない。

 超常的な再生力と生命維持力を発揮し、肉体を蘇らせるが、その頃には脳が虫の巣になってしまっている。

 ゾンビ虫自体目に見えないほど小さな虫だが、複数のゾンビ虫がどうやって人間の脳に指令を出し操っているのか全くの謎。

 

 脳や筋肉をどう刺激して動かしているのかの情報は知らない。その前にインフラが死んだ。

 ともかく、そうやって、死にゆく体を操り、健康な人間を襲う。

 血液と傷口や粘膜の接触で感染するため、感染力は低いとされていた。

 

 しかし、検査の結果、健康な人間からもこの『ゾンビ虫』が発見された。

 

 日本では最後までこの報道をしなかった。

 しかし、インターネットでは各国の資料の流出、もちろん日本の資料も流出し、国民はそれを知った。

 

 ■

 

 まずアフリカが荒れた。

 いつも民族浄化や民族紛争をしているイメージがあるが、もちろん争っていない地域もある。

 そんな地域に、武装した連中がなだれ込んだ。

 『悪魔に取り憑かれた人間を地上から消し去る神の軍隊』という組織を筆頭に、大小様々な組織がジェノサイドを実行していった。

 自分達の中にもゾンビ虫がいるかもしれないのに、他人を殺す事によって自分が安心する道を選んだ。

 ヨーロッパでは、小規模な魔女刈りが各地で多発した。

 田舎では病人がことごとく殺され、首を落とされ、焼かれた。

 自殺者も増えたが、自殺と報告されている死者の内何割が本当に自殺したのかわからない。

 

 だんだん海外のニュースが減り、国内の政治批判のニュースが増えていったのもこの頃だ。

 

 やがて情報開示のための大規模なデモが起こった。

 この時は左巻き頑張れと俺でさえ思った。

 

 

 ■

 

 

 気付けば各地が戦火にまみれていた。

 主に内戦だが。特定国では政府主導によるジェノサイドが国内で行われた。

 

 この事態になって、なぜか各国の結束が逆に強まった。

 俺が知っている限りでは、2、3週間に一度はいろんな国の代表が集まって会議をしていたと思う。

 会議に参加した要人から『連中は次の世界の事について話し合っている』というリークがあったらしいが、本当かどうか分からない。

 この時既にいくつものサイトが使えなくなっていた。アメリカが外国からのアクセスを遮断し始めたのだ。アメリカのサーバーを使っているサイトは多い。

 

 

 ■

 

 

 デモ運動をしていた連中がとうとう本性を表して暴れだした。

 略奪や暴行が相次ぎ、機動隊どころか自衛隊まで出てくる事態になった。

 

 負傷者が増え、そして、とうとう日本でも起き上がる連中が増えてきた。

 

 まず病院が地獄になった。

 厄介な事に、ゾンビになったりならなかったりするものだから、身内を信じた者から先にゾンビに襲われていった。

 

 普段からは考えられない程政府の動きは早く、各主用施設、特定の都市を封鎖し、検疫を行い、寄生虫がいる者と居ない者を分けた。

 民意の反発はあった。

 だがここに至っては、寄生虫が居ない人間の民意が反映された。

 

 各避難所で寄生虫の検査が行われ、俺は感染している事がわかった。

 

 感染者達は『とりあえず大怪我しなきゃ大丈夫』だというのに、恐怖から避難所内で争いを繰り返し、各地でゾンビを沸かせた。

 

 やがて、各施設がそれぞれの代表を出し、管理するシステムができたら警察も自衛隊も去った。

 彼らの中にも感染者はいるが、彼らは彼らで別の隔離施設があるらしい。

 

 このゾンビ虫の卵を排出するための薬ができるまでの辛抱であり、それはすぐにできるはずだった。

 

 いや、もうできているのかもしれない。

 

 しかし、多くの人々がそれを待てなかった。

 絶対権力、絶対戦力の統治が無くなった施設では、犯罪が横行した。

 

 こんな事目に見えていたはずなのに、どうして警察も自衛官も去ったのか。

 普通に手が足りないからというのもあるかもしれないが、わざとこの状況になる様に仕組まれた様な気がしないでもない。

 

 

 そんなこんなで俺は逃げ出して、今、一人でさまよっている。

 この生活があと何年の続くのかわからないが……

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ちょっと書いてみた。

 後の人類への世紀末からの手紙。みたいな

感じで。

 でも、ここまで来て手が止まった。

 なにやってんだか。

 と心の中で呟く。

 世界は崩壊してないし、しない。

 俺達は見捨てられただけだ。

  

 文章を書いたノートのページを、音を立てない様に裂いた。

 机の引き出しの中にそれを入れる。

 

 部屋を見回す。

 女の子の部屋だったんだろう。

 写真から、父親、母親、長女、長男の四人家族だった事が推測できる。

 金もってたんだろう。高級マンションだし。

 

 ここに住んでいた4人の住人はどこに行ったのだろうか。鍵も開けっ放しで。


 ここにたどり着くまで、いくつも非感染者たちの街を見た。

 柵や有刺鉄線が張り巡らされていて、警官も自衛官もいた。近付くと撃たれる。

 とはいえ、問答無用というわけでもない。

 警告のあと、パンフレットと僅かな携帯食料が投げ渡される。

 パンフレットには近くの感染者用指定避難地域の場所が書いてある。

 後、何か『皆なかよくしましょう』的なルールの箇条書き。

 ソレに従った連中がどうなったか俺は知らない。

 俺が見てきた中では小規模なグループはだいたい世紀末状態だったし、大きなグループは排他的だった。

 

 多分、ゾンビ騒動はいつか収まる。

 だけどそれまで人々はどうやって生きていくのだろうか。




 ■


 

 なんとなくだが、俺達は何かの実験をされている様な気がする。

 


 ■

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ