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63 開戦

63 開戦


ちゃんと見つけてくれるまで時間がかかったが、武道棟屋上で突っ立っている俺を、連中はちゃんと発見した。


そして撃ってきた。

200m程度なら射程内だが、上向きの射撃だし、元の腕も悪い。もちろん外れた。

とはいえ、当たってもたまらん。

俺はさっさと退避した。


妹に手投げ弾でも投げ込んで貰おうかと思ったが、逃げられる可能性があったのでやめた。


このスポーツ施設に誘い込んで、確実に殺す。






「あ、お兄ちゃん」

「来たぞ。時間かかるかもしれないけど我慢してくれ」

「了解!」





奴らがスポーツ施設に入って来て15分ぐらいだろうか。

やっと武道棟にたどり着いた。

どうもゾンビを追い込む装置とやらはそこまで細かい指示ができるものでも無いらしく、四苦八苦しながらゾンビを武道棟に入れて居た。

それからしばらくして、奴らも入っていった。

妹達の生活跡を見つけただろう。


俺と妹はそれを運動場の客席最上段から見ていた。

武道棟とは近い。100m無い。

俺は伏せて、妹は普通に立って見ていた。

連中には妹の姿を発見してもらわなければいけない。

俺の格好を妹が笑いまくっていたので、それで気付かれるんじゃないかとヒヤヒヤしたけど。



「あっ! いた!」


と黒スエットが叫んだ。

妹はすぐに姿を隠して、所定の位置に移動した。

女を手に入れたいらしいあの男どもは撃ってこないだろうと思っていたが、もし撃たれた場合、この距離なら万が一という事もある。

隠れた後も発砲は無かった。

思い過ごしだったけれど、警戒していないよりは良い。


あの連中、だいぶ警戒していた。


そらあんだけゾンビ焼かれたりしたらな。


最初、1000体程のゾンビを処理されてもなお、俺たちを甘く見ていた様だが、ホームセンターの爆発を目の前で見たら意識が変わったらしい。

自分の命が危険に晒されてやっと危機を感じたか。

でもそれで良い。



運動場にゾンビが入って来た。

7体。

このスポーツ施設に入った時は20体ぐらいいたはずなのだが。

武道棟の中にも何体か残して来ていた。

いかんせん、追い込み装置のため、細かい道に入っていってしまったり、どん詰まりとかに入ると出すのが面倒らしい。


ゾンビが早速こけたため、入り口外から小さな声が上がった。

何かあったと思ったんだろう。



この運動場は現在、成人男性の胸程も育ったススキ畑になっている。

200mトラックがすっぽり収まる範囲がススキでぎゅうぎゅう詰め。これはこれで情緒がある様な気もする。


現在入れる入り口は運動場のグラウンドに抜ける場所のみ。

裏口も2つあるのだが、そっちは鎖ぐるぐる巻いて南京錠掛けてあった。単純なものだが、サビだらけで数年放置されていても全く無事だった。というか、蔦やらなんやらが絡まって余計頑丈になっている。

妹ならともかく、破壊するには時間がかかる。


幸い、男達は開いている入り口を最初に発見して、そこからゾンビを入れてきた。

こっちの入り口は開いたまま。格子扉は錆びついて蔦まみれになっていて逆に閉める事ができない。


そこからグラウンドのススキ畑に入ってきたゾンビの1体が転んで、ススキ畑の中にすっぽり隠れてしまった。


罠か何かと思った男達が小さな声を上げたが、転んだゾンビはまたゆっくりと、フラつきながら立ち上がった。


後ろから押される様にゾンビ達はグラウンドの中に入っていった。


続いて入ってきた男3人。猟銃を構えて観客席を見回している。

男達が妹を発見したのは、観客席だ。

まだいるか、隠れていると思ったのだろう。


「おっ、おおっ?」


男の一人が転びそうになる。


連日の雨で、今運動場はドロドロになっていた。

ススキが密生しているため、水はけも悪くなっている。

踵ぐらいはどっぷり埋まってしまう泥の中、踏ん張りがうまく効かない。

ゾンビが転んだのもこれだ。

見れば男達はスニーカーを履いていた。

なんか高そうなやつ。

あんなものじゃ泥の中は歩けないだろう。一つ幸運。


「いだっ!! なんだこれ?」


釣り人が、躓いて転びそうになる。

黒スエットと都市迷彩は、慌てて銃を向けた。同士討ちでもするつもりだろうか。


「いてーなくそ!! ちゃんと片付けとけよ!」

と悪態をつく釣り人の足元には砲丸が転がっていた。



「いやがった!」


黒スエットが叫んだ。

妹は、入り口の丁度反対側の観客席に立っていた。


「女ぁあ! 手間かけさせやがって! 死にたくなきゃ降りてこい!」

などと叫んでいる。

100m以上離れているが、妹には十分聴こえているだろう。


釣り人が、ぱん、と威嚇射撃をした。


ススキ畑をノロノロを進んでいたゾンビ達が、一瞬動きを止めて振り返るが、また、ノロノロと前に進み始める。何度も転びながら、男達から離れていく。


「なんだ? ありゃ」


妹が何かを振り回していた。

長い紐の様なものが回転している。


「あっ?」


次の瞬間、肉肉しい重低音が響き、水音を撒き散らしながら黒スエットが地面に倒れた。


「なっ、なんだ?」

釣り人と都市迷彩は慌てふためき、妹の方に銃を向けならが、倒れた黒スエットを見る。


砲丸だ。

黒スエットの左胸に砲丸がめり込んでいる。


妹が使ったのは、登山ロープで編んだ投石スリングだった。

飛距離は銃に負けるが、威力は十分。

一般女子用4kgの鉄の塊。

妹の異常な腕力でぶん回し、飛ばされたそれは、黒スエットの胸骨や肋骨ごと肺を潰した。


練習をしてもらったが、下手投げは最初の1回だけで、後は綺麗なサイドスローだった。

元々の運動神経が良い。かなりの遠心力が発生しているはずだが、引っ張られる体も含めてうまくコントロールしている。

しかし、最大筋力が出せるとはいえ、本当にそれだけでこんな重いものをぶん回せるのだろうか。

いや、チート主人公の事なんて考えてもしょうがない。


男子用砲丸は紐がもつか心配だったので女子用を使ってもらった。

それでも威力は十分。



黒スエットはガボガボと血泡を吐きながら痙攣している。

一瞬目があったが、黒スエットは喋る事も体を動かす事もできない。


心臓かその付近の血管も切れたのだろうか。凄まじい量の血泡を垂れ流している。

窒息死より失血性ショック死が先かもしれない。


「くそが!!」


叫んだ都市迷彩が発砲。

ここが一番怖かったが、妹は既に観客席から外へひらりと飛び降りている。

にもかかわらず、釣り人も都市迷彩も撃ちまくった。

やっとススキ畑の中頃に辿り着いたゾンビが立ち止まって頭をぐるぐる回していた。

男2人は興奮して撃つのをやめられない。

釣り人は威嚇射撃も合わせて5発。

都市迷彩も5発。

装弾数いっぱいだ。実際に弾を取り出そうとしているので予想は当たっていたらしい。


でも、弾込めはさせない。


妹が1で、兄が2。

良い事を分け合うなら逆だが、面倒ごとを分け合うなら妥当な数字だろう。


俺は立ち上がった。





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