44 都市の生存者達2
44 都市の生存者達2
男達から話を聞いた。
「あいつら、リーダーを殺したんだ」
元々このグループは37人いたそうだ。大きめの学校の1クラス分程になる。
リーダーは素性を決して言わなかったが、体付きや所作から、自衛官か警察官か、何か訓練を受けた人間に見えたらしい。
ゾンビの話をしていると、途中で口を噤む事が多く、何か言いたそうな、しかし結局言わずに話をそらす、そういう人だった。
上のDQN連中は当時からDQNで、よくリーダーに叱られては逆恨みしていたという。
ある日、寝込みを襲われ、リーダーは死んだ。
鉄パイプにナイフを針金で固定した対ゾンビ用の槍で滅多刺しだった。
リーダーが死ぬ所を見たのはDQN3人だけなので、実際はどうだったか知らない。
DQN達は「戦って勝った」「命乞いをしていた。ダッセェ」「しゃぶるから許してくれと言っていた」などなど、その時々で適当な事を言うので、男達の認識としては、寝込みを襲われて殺された、という事らしい。
しかし、寝所は別だったので、よく訓練されていたらしいリーダーが自分の部屋に侵入する人間がいて気付かなかったのかという疑問がある。男達もそれは分かっているらしく、「結局のところ、上の3人しかあの夜何があったのかは知らないんだよ」と言った。
それからDQN連中はやりたい放題だった。
リーダーの後ろから付いて回って、良く働いていた少年がいたそうだが、彼は公開処刑された。
泣きながら命乞いをする少年を、DQN3人は鉄パイプでボコボコにして撲殺した。
少しずつ死んでいく少年に、他のメンバーは恐怖した。
少年がとうとう動かなくなると「コイツ死にやがったw ダッセェw」と言ってDQN3人は大笑いしていたらしい。
他のメンバーは恐怖で動けなかった。
話によれば既に脳が損傷していたと思われるが、ゾンビにならない様になのか、ただの楽しみのためになのか、DQN連中は笑いながらさらに死体を嬲り、捨てた。
次に殺されたのはオッサン達。理由は良くわからない。目障りだから、とか、そんな事を言っていたらしい。
そんな状況になっても、いや、そんな状況だから、誰も反抗できなかった。
誰だって死ぬのは嫌だ。ゾンビまみれの世界でなんとか拾った命は実感として以前よりずっと大切に思えるだろう。
それからチラホラと男が殺され、とうとう現在の7人だけが残った。
女はまだ残っていたが、ここから女達も殺されていく。
お年寄り、おばさん、理由は何なのか知らないが、殺された。
その頃には既にDQN連中に取り入る女がいた。上にいる5人の女がそれだ。
彼女達はリーダーが殺された辺りからべったりで「女は怖い。あの女連中がDQNに何か吹き込んでいるかもしれない」と男は震える唇で言った。
実際、若い女性の中では、DQNにくっついている女と仲が悪い女から順に殺された。
最終的には上の5人が残っているが、その5人も別に仲が良かった訳ではないらしい。生き残るために、あるいは、人殺し簡単にできちゃう男マジすげー、とか、そんなアホな理由で張り付いている可能性もある。バカそうだし。
人間なんて簡単に死ぬ。そんな簡単な事をやってみせて自分は凄いんだと証明しようとする。
良心の呵責というのは人間として必要な感情だ。社会性の動物であるから、仕事をせずに報酬を貰う事、誰かの命を奪って社会の歯車が狂う事、そういったものは人間としてやってはいけないと、理性を超えた感情という本能で理解している。
それを無視して、あるいは元から備わっていなかったのか、他人を殺したり他人の報酬を奪う行為を見せびらかすのは、自分は人間じゃないと言っている様なものだ。
人間は、害虫駆除に熱心だ。害獣にも容赦はしない。
人の形をしていて人間のふりをしている危険動物なんぞ処理した方が良いに決まっている。
幸い、動物愛護法は機能していない。
上のDQN連中を殺すのにためらいはない。
この男達が本当の事を言っているかは知らないが、どう見ても働いていないDQNが良い様にしているのを許しておけない。
それは、俺が放置してきてしまった失敗の償いかもしれないけど。
最後まで生き残っていた女は、一番可愛かったらしい。
だから、最後まで生きていた。
もしも彼女がDQN達に惚れる様な女だったら今でも生き残っていたはずだ。
しかし、彼女はDQN達の接触をずっと避けていて、DQNべったりの女達とは仲が悪かった。
彼女は最終的に、度重なる強姦の上で死亡した。
「おっ、俺達…… 命令されて、っ、うあああ……」
話をしていた男の言葉が詰まり、狂った呻き声を漏らした。
怖い。
と、さっきまで小説や漫画に視線を落としていた男達が、皆んな俺を見ていた。
じっとりとした視線が俺の体に絡みつく。重い。
息が詰まる。
身の危険を感じ、腰に手を伸ばしかけたが、今斧はそこに無い。それらの荷物は部屋の隅に置いてある。DQN連中に武器持って会いにいくのはまずいと回収されたからだ。
今から部屋の隅に移動して武器をとったらさすがにもうこの男達とも敵対するしか無いかもしれない。
かと言って、服やブーツの下に隠してあるナイフを抜くのも躊躇われた。この状況で服やブーツに手を突っ込むなんて怪しすぎる。
おれは視線を受けながら冷や汗を流した。
だが、彼らが俺に敵意を抱いている訳じゃ無いのはすぐにわかった。
眼球が震えている。恐怖、不安、そして、まるで許しを請う様な。
「命令で、命令だったんだ…… あいつらが…… もう、何も喋らなくなってたし…… ほとんど動かなかったし…… そんな状態でこっちに…… 俺たち…… 俺たちは……」
ブツブツと言う男に、
「わかったよ」
と俺は声を掛けて、話を終わらせた。
だいたい分かった。
たまに犯罪組織が似た様な事をやると聞いた。
上のDQN連中は、自分達が散々楽しんだ後、この男達に女を強姦させた。
やらなければ殺すと脅されたのもあるだろうし、ずっと続いていた禁欲的な生活、命の危険を常に感じる異常な状態、そして相手はグループで一番可愛い娘。男達は強姦し、女は死んだ。
死んだのは彼らだけのせいだけでは無いが、目の前で死体に変わった女を見たのは彼らだ。
それに、ただ死ぬのを見て居ただけではないはずだ。
ゾンビにならない様に、ちゃんとトドメを刺す必要がある。
それを、彼らはやったのだろう。
正常な判断ができない状況で、狂って犯罪を犯し、止める者もいない。
恐怖、罪悪感。
他人を縛るために無理矢理背負わせる有効なモノだ。
犯罪を強要し、罪悪感で相手を縛る。犯罪者がたまにやる手だ。
DQN連中がそこまで考えてやったとは思えない。
だが、結果として彼等はDQN連中に縛られ、奴隷となっている。
それを責める人間や警察官が居ない世の中でも律儀に縛られ、怯えるとは、もしかしてこの7人は真面目だから残されたのかもしれない。
目の前で公開処刑を受けた人々が惨めに殺される姿を見ていた。
それによって本当に殺されるかもしれないという恐怖があるだろう。
だが、それよりも、自分達が罪を犯してしまったという罪悪感の方がもっと厄介だ。解決策が無い。
殺されるかもしれないという恐怖は、自分を殺そうとする人間を殺すなり、逃げるなりすればいい。
だが、罪悪感は自分で自分に課すものだ。それを解決するには、償うか忘れるか自殺するしかない。最初から感じない人間もいるが、彼らはそうではないらしい。
償うべき相手は死んだ。情報量の少ないこの生活では、忘れるのはずっと先だろう。自殺が一番手っ取り早いが、それもできないでいる。
俺は正直、この男達はさっさと死ねば良かったのにと思う。
強姦が自分の命を守るための行為だったとしても、やはり、殺さなくても良い女を殺してしまったとしか思えない。女を殺してしまう前にDQN連中を殺すべきだった。
俺はビビリだが、鈍感でもある。空気読めないのはこういう時には役立つ。
どちらにしても、殺す。
上の3人は邪魔だ。
ああいうのが居るから世の中おかしくなるし、俺の事もおかしいと言われる。
ふと、昔の事を思い出した。
掃除時間、俺しかいなかった。
俺が真面目に掃除をするから、他の連中は遊んでいた。
それを担任に見つかり、叱られると、俺に八つ当たりしてきた。
なぜか俺まで担任に叱られた。
何でそんな昔の事を思い出したのかわからない。
ただ、上のDQNは殺す。
それは俺の使命の様に思えた。
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