43 都市の生存者達1
43 都市の生存者達1
スポーツショップで服を漁っている時だった。
わずかな物音と気配を感じ、振り返ると、そこには人が立っていた。
俺は腰の斧に手を伸ばしたが、相手はどうやら人間だ。
向こうも気付き、こっちをじっと見ている。
相手は3人。見た所、鉄パイプで武装している。殴られたら無事では済まない。
しばらく無言で睨み合っていたが、やがて、
「……ドウモ」
「はい……ドウモ」
なんとなーく挨拶して、話をした。
3人はなんというか、ボロボロな感じで、目も怯えに震えていた。
変に刺激して飛びかかられると厄介だし、かと言って自分たちから先に襲いかかってくる様な感じでも無かったので、とりあえず話が通じるのではないかと。
それは成功した。
物は大量にあったので、話をしながら物色した。
俺と合わせて4人もいる。数の力があるので、建物の奥にゾンビが居ない事を確認した。いざとなったら俺逃げるつもりだったけども。
それから、安心して服の物色と世間話をした。
彼らはこの都市に住んでいるグループのメンバーらしい。彼らは物資調達のために出て来て、俺と遭遇した。
ここに住んでいるのはだいたい1年ちょっとぐらい。それ以前は転々としていたそうだ。
ここは物資も大量に残っているので住み着いているという。
これから冬という事で、俺と同じ様に冬用ウェアを探しに来たそうだ。
でかいデパートとかスーパーとかあるし、保存食ならディスカウントショップにも大量に置いてある。その他日用品や服、大きなホテルだっていくつもあるから、ゾンビが巣にしていないなら、居住している場所が汚れて来たら引っ越す事も可能だろう。
俺が保存食をあまりとらないせいで知らなかったのだが、ネズミが大量に発生してカップやスナック菓子類を食い尽くす時があるらしい。
一気に来て一気に去っていくが、うっかり手を出して反撃されてしまうと、ネズミが人間を食い物と認識してしまうらしい。
彼らもだいぶハードな避難生活を送っていたようだ。
彼らは女性物の服も物色していた。
このオドオドした少年3人が女をさらってどうこうできる様には見えない。
あのショッピングモールの連中はもっと目がイッていた。
彼らは、恐怖と、絶望、そういう負の感情を思わせる目をしている。
やがて、一人の男が、
「一緒に来ませんか? 人手は多い方がいいですし」
と俺に問いかけてきた。
後ろの2人は鉄パイプを握る手を震わせている。
ああ、そうか。
仲間になるならば良し。そうでないなら殺せと。そういう事か。
彼らの意思とは思えない。
お願いしたら逃してもらえそうな感じもする。
だが、ここで好奇心が湧いてしまった。
ずっと遠くからゾンビを見るばかりで人間が恋しかったのかもしれない。
とりあえず様子見のつもりで彼らについて行った。
□
「んん? なんだ? 新入りか? おめーらちゃんと教育しろよ」
と言った奴は明らかにDQNだった。
同じ様なDQN3人が、ホテルのスートルームで女をはべらせて俺と物資調達の3人を見下ろしていた。
郷に入っては郷に従えというつもりで資材調達3人と同じ様に膝をついたのだが、流石にイライラする。
この物資難の中、髪を染め、ヒゲも剃り、ファッションヒゲの奴までいる。
アクセサリーも何の呪術的意味があるのかジャラジャラと。
奪い放題ではあるけど、今更価値が無いものを身につけている辺り、何か勘違いしている連中だというのはよくわかった。
女の方も同じ様に染めた髪や濃い化粧、アーティスティックな服を着ている。
物資調達3人は、ボロボロではあるけどもっと機能性のある服を着ていて、なんというか、俺みたいだった。だから親近感が湧くのはしょうがない。
しかし、目だ。この諦めた目だけはどうも許せなかった。
姿が似ているからこそ、許せない。
俺の隣にいた物資調達係が突然後ろに転げた。
DQNの一人が蹴ったのだ。
「新入りよー、おめーもちゃんと働かねーとこうだから」
と言っているが、蹴られた物資調達係は特に責められる様な事は無いはずだし、そんな問い詰めも無かった。突然蹴られた。
多分俺への脅しだろうけど、お粗末すぎる。
もうさっさとこのグループから離れたくなった。
人恋しさからから、余計な事に首を突っ込んでしまっている。
物資調達係と出会ったときに何とか説得して逃してもらった方が良かったのではないだろうか。
いや、戦闘になっていた可能性があるのだからとりあえず付いていくというのは判断ミスではなかったはずだ。
□
物資調達係の部屋はスイートの一階下の大きめの部屋。
ちょっと臭い。
物資調達は全員で7人。上のDQNが3人と、女が5人。合わせて15人のグループという事か。
「おかえり」
という声がポツポツと聞こえる。
電気が止まっているので、部屋にいた連中は大きな窓の近くに皆んな寄り添って漫画や小説を読みふけっている。
ページをめくる音と、時折お菓子を齧る音。明るい窓辺に集まっているボロボロの男達。
その光景が恐怖心を湧き立たせる。
女を含めればあっちの方が数は多いが、男の数だけならこっちの方が圧倒的に多い。
あの女達が戦力になるとは思えない。独立している女がいなかった。男に寄りかかってニヤニヤしていた。いかにも虎の威を借る狐という風。あれはいざとなったら逃げ出すと思う。キャーキャーわめき散らして何もできないタイプ…… というのはバカにしすぎかもしれないが。
まず奇襲で1人殺してしまえば、あとは7対2、次は7対1。
そもそも部屋に引きこもっているんだから、外から閉じ込めてしまえば外に出れず勝手に死ぬだろう。
都市部のホテルでベランダも無いから、左右の部屋の窓から監視をしていればいい。
そこらじゅうから集めた発煙殺虫剤を大量に投げ込むだけでもやれそうな気がする。
窓を開けても無理だ。物量には勝てない。
住むところを変えてもいいのだから、ガソリン投げ込んで閉じ込めて普通に焼き殺すという手もある。
気取って最上階スートルームを占拠したんだろうけど、窓を割って飛び降りる事もできない。いや、煙に巻かれて苦しんで死ぬより飛び降りて即死の方がマシかもしれんが。
勝てないはずは無いのだが、彼らにはその意思が無いみたいだ。
この部屋にある物資の量と、ちらりと見えたあのDQN連中のスイートルームに積み上げられていた物資の量の差は、彼らと奴らの差を明確にしている。
人間は時にこういう心理状態に陥る。
洗脳による犯罪は近年でも発生し、報道されている。実際にはもっと多くの似た様な事件が起こっているのかもしれない。
どういうわけか、妄執に取り憑かれ、他人に操られ、殺人までやらかしてしまう。
恐怖というのは危険である。
常に自分の心理状態に気を配るべきだ。それが判断の正しさをはかる基準になる。
□
「あいつら…… リーダーを殺したんだ」
彼らに、このグループの話を聞いた。
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