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外伝1

41 外伝1


 アッシ、ほんと何やってんだろう。

 避難所のアッシの担当医、ニヤニヤしながらオッパイ揉むし、ゼッタイ診察じゃ無いしアレ。

 だから『ゾネさん』出てくって聞いてアッシも付いてきたけど。

 

「ホント、世界かわってたんだぁ……」

 やっべ、声出しちゃった。

 小さな声だし別に良いかな? 良いよね。

 ゾンビとか全部『ゾネさん』に夢中だし。

 つか、マジやる事無い。

 なんか『ゾネさん』に申し訳ないっス。

 

 ホントは周りを警戒しなきゃいけないんだけどさ、しょうがないよ。

 だって『ゾネさん』まじスゲーし。

 アッシは左、『委員長いいんちょ』は右。

 他のゾンビの警戒とか全然しないで、『ゾネさん』見てる。

 

 アレやべーわ。

 まじ惚れる。

 

 □

 

「ッシ!」

 ちょっと唾飛んじゃった。

 振りかぶったククリンが唾より先にゾンビに届く。

 昔やったスイカ割りに少し似た手応えで、ゾンビの頭がグシャリと潰れながら頭蓋骨やら脳味噌(寄生虫入り)の破片を撒き散らす。

 右側頭から入った刃が左耳の下から抜けた。

 振り抜いてしまい、体勢を崩してしまった。

 ゾンビは目が悪いみたいだから、別にその隙を突いたわけじゃないと思うけど、次のゾンビが飛びかかってきた。

 足を踏ん張り、左手に持っていた未開封チール缶飲料を思いっきりぶつけた。

 めこっとスチール缶が凹み、ゾンビは首を変な方向に曲げて地面に落ちた。

 まだ動いている。ククリンで頭をかち割ってトドメを刺した。

 左手のグローブがびしゃびしゃに濡れている。

 せっかくゲットしたミルクティーがぼたぼたと溢れ、民家の庭に甘い匂いが広がった。

 もうあまり血のニオイとか感じない。

 ってか、ホント良い匂い……

「ああ…… せっかく見つけたのに……」

 うっかり声に出てしまったけど、熱い心の叫びだ。しょうがない。

 

 全部で9体。

 ゲットしたミルクティーを飲もうとしていたら襲ってきた。

 最後の1体が……


「ゾネさん、大丈夫っすか?」

「え? うん。大丈夫だよ。ナツリンと委員長は?」

「アッシらも大丈夫っす。まじゾネさんスゲーっす」

 ふにゃふにゃと返事をするナツリンと、眼鏡クイっで返事をする委員長。

 無事で何より。

 

 しょうがない。ミルクティーはまたどっかで探そう。

 

 

 □

 

 

 なぜか私は『ゾネさん』と呼ばれている。

 委員長まで最近はそう呼ぶ。別にいいんだけど。

 命名はナツリンで、語源はアマゾネスだそうだ。

 

 さん付けで呼ばれるけれど、一応私たち三人同級生。

 ナツリン的には『まじリスペクトっス』って事らしい。

 

 ナツリンは完全にギャルだ。

 おっぱい大きい。

 私はあんましギャルの人と接点がなかったけど、勝手に嫌なイメージを持っていた。

 おっぱい大きいし。

 でも、話してみるとナツリンはいいコだった。色々アレだけど、かなり良いコ。

 おっぱい大きいし。

 勝手にヤリマンとか思っててごめんなさい。

 おっぱい大きいのは許せない。

 身長高いし、スタイルめっちゃいいし、顔も綺麗だし。おまけに性格も良いとか。ちょっとアレだけど。

 その上おっぱいまで大きいなんて人生なめてる。

 

 なぜナツ『リン』なのかというと、『エヴァンゲリオン』的なノリとかなんとか。

 それなら『ナツリオン』じゃないんだろうかと思うんだけど、そんな事より問題は、ナツリンが意外にアニメとか映画とか好きだって事だ。

 あと、おっぱい大きいし。

 これは非常にマズイ。

 お兄ちゃんと気が合ってしまうかもしれない。

 

 

 委員長は超クールビューティー。眼鏡美人。

 言葉数は少ないけど、冷たい瞳がゾクゾクする。

 体つきは私と変わらないはずなんだけど、纏っている空気が違う。

 これもマズイ。

 多分お兄ちゃんの好きなタイプだよコレ。非常にマズイ。


 委員長は元弓道部だったので、うちのパーティ遠距離担当だ。

 とってきた(お店の人ごめんなさい)コンパウンドボウを装備している。

 ナツリンは薙刀部だったらしい。あのおっぱいで。

 鉄パイプと鉈で作った薙刀を使っている。すごく戦闘力高い。胸の戦闘力も高い。

 

 

 □

 

 

 私たちは良さそうな民家を見つけて、外から二階に侵入。机とかタンスとか動かして入り口のドアを塞いだ。

 まだ午後だが、今日は早めに休むことにした。

 お菓子も結構見つけたので、明日も一日休もうかなと思う。

 

「今日マジやばかったっス」

 ふにゃふにゃとボヤきながら、ナツリンはハンドメイド薙刀の手入れをしている。

 かなりドロドロになってしまっていて、粉洗剤がすぐダマになる。

 それをゴシゴシとタワシでこする。

 私も同じ様にククリンを拭いた。

 委員長は新しい矢を作っている。今日は結構戦ったから。

 

 早朝移動を始めて、コンビニの前でサラリーマンゾンビに出遇ってしまった。

 残業でもしていたのか、5体もいた。

 委員長が先制攻撃でまず1体倒して、それから私2体、ナツリン1体。最後の1体も委員長が倒した。この時点で結構矢を使ってしまっていた。

 それから午前中、というかさっき、食料調達のために民家に入った。

 中にゾンビは居なくて、結構いっぱいゲットして外に出たら、子供のゾンビとでくわした。

 ゾンビが変な声で鳴いたかと思ったらお隣さん家からどんどんゾンビが出てきて乱戦になった。

 全9体。

 委員長は1体倒して矢が尽きてしまったのでそこから両手で2本の手斧装備になったんだけど、凄くカッコよかった。

 弓道の他にも武道をちょいちょいやっていたらしく、流れる様な動きでさらに1体倒した。

 残りを私とナツリンでズタボロにして倒した。

 最後の2体は私の正面にいたから私が倒したけど、そのせいでミルクティーが……

 

 なんていうか、私とナツリンがヤッた死体は色々飛び散っててグロい。委員長のスマートさに憧れる。

 

 ククリンの掃除が終わって、私も矢を作り始めた。

 少ししてナツリンもハンドメイドNAGINATAの掃除が終わって、矢を作り始めた。

 

 接近戦では私とナツリンが戦うけど、今日が異常だっただけで、委員長の見敵必殺が基本だ。

 通りの先を確認して、ゾンビが居たら処理して進む。

 そして何より、ゾンビは回避すべきであって、戦うなんて最後の手段。

 実際、ゾンビと戦うなんて3日に1度も無い。

 たまに連日ゾンビに遭遇したりするけど。

 やっぱり時間とか人口ゾンビ密度と関係するんだろうか。


 

 最近は昼間外に出ているゾンビも増えている。

 そういうゾンビが増えたのか、それとも、この辺はゾンビが多いから分母の問題で昼間のゾンビが多いのか。

 

 ホームセンターで大量にとって来たアルミ製の細い筒の先を金属ノコギリで縦にごりごり切り目を入れる。

 以前は100均の園芸ポールとか指示棒とか自撮り棒とか色々バラして使っていた。

 ホームセンターでコレ見つけた時は嬉しかったりショックだったりした。

 以前は2回切り込みを入れる、つまり4つ分割できる程度だったけど、私達3人とも手先が器用な方だったので、すぐに8分割できる様になった。

 もちろん削り出たアルミ粉末はとっておく。紙の上で削って、集まったアルミ粉末をさらさらとボトルに注ぐ。

 350mlステンレスボトルには『アルミ粉入れ』と可愛い文字で書いてある。ナツリン作。文字だけでも女子力高い。おっぱい力も高い。

 

 羽は委員長にしか付けられない。なんか微妙な角度があるらしくて、その加減が難しい。

 最初は紙とかプラスチックとか色々使っていたけど、後ろに切り込みを入れて、ペンチで捻って立てれば羽になったので以降そうやって作っている。

 こういうのに気付いていくのもなかなか楽しい。今まで何やっていたんだっていうショックも大きいけど。


 金属の羽だから弓に当たりそうなのに、委員長は手首を返していとも簡単に避けている。技術力が高すぎてよくわからない。


 変に手の込んだ矢を作っているのは理由がある。

 ゾンビは頭に矢を食らっても半分ぐらいは止まらなかった。

 多分脳の運動中枢の場所とか関係しているのかもしれない。

 それで、頭の中で広がる様にこの形の矢になった。

 でもコレ飛距離無いし安定性も無い。貫通力も低い。

 まともに当てるのは委員長しかできない。

 長距離は普通の矢を使うけど、それもやっぱり委員長にしか上手くできない。

 勉強できるし美人だなーとは思っていたけど、さらに達人っぽくて委員長の評価爆上。

 頭に当てるの自体難しいので、基本は胴体。それでも中で広がって内臓ズタズタにしてかなり出血する。パイプだからドバドバ血が出てくるし。

 狙えそうなら頭という無理の無い攻撃をしているが、その分矢の消費は激しい。

 

 でも、これはこれで良い。

 やる事があるってのは大事だ。

 何もせずいるのは精神衛生上よろしく無い。


「おっし! 見て見て、12分割できたっス!」

 スキルアップもあるし。

 

 □

 

 

 早朝起きて、水と重曹でうがいをする。

 私と委員長はともかく、ナツリンはもともと夜更かし気味のコだった。

 早寝早起きする様になって、

「ムムム? 肌がプルプルになってるっスよ?」

 と、無駄に女子力上げる手伝いをしてしまった。そのおっぱいで十分なのに。

 私が化粧をなるべくしない様に言い聞かせると、

「こんな生活しているのに肌荒れが減ったっスよ?」

 などとまた無駄に手伝いをしてしまった。

 だけど、肌荒れを含めて体調不良はこの世界で大敵だ。気を付けるに越したことは無い。

 

「肌って何も付けなくても平気なんスね。大量に使ってた化粧水代とか戻って来て欲しいっス。それもゾネ兄さんから聞いた話っスか?」

「うん。お兄ちゃん、ずっと湯シャン湯洗顔でね。食べ物とか体質もあるんだろうけど、全然肌荒れした事なかったのよ。まさか役に立つ時が来るなんてね」

「でも髪は厳しいっすね。かゆみは無くなったっスけど、汚れとか凄いっす」

「だよねー。お兄ちゃんみたいに五分刈りってわけにもいかないし」

「一応アッシら女子っスからねー」

 委員長も眼鏡を光らせて同意した。

 

「ところで、ゾネ兄さんって、何か好きなアニメとかあったっすか?」

「え? ええっと…… お兄ちゃんそういうの1人で観るタイプだったからわかんないなぁ……」

 最近ナツリンのお兄ちゃんに対する追求がキツイ。興味を持たれると困る。

 

 でも、ナツリンがお兄ちゃんの話を振る回数が増えてきたのには理由がある。

「そろそろゾナ兄さんの避難所なんスよね」

「うん。インターネット切れてから移動してなければだけど」

 そう、もう2、3日でお兄ちゃんが収容されているはずの避難所に辿り着く。

 

 ナツリンはそれ以上言わなかった。

 ナツリンはふにゃふにゃしているけど、頭は良い。

 

 最近ゾンビが増えている。

 お兄ちゃんの避難所には3000人がいたという。

 この辺りで避難所はあそこだけだ。

 

 まさか……

 

 いや、あのお兄ちゃんがそう簡単に死んだりゾンビになるとは思えない。

 とにかく、進むだけだ。

 お兄ちゃんが避難所に収容されてもう2年以上経っている。

 心配しなくても無事だろうけど、とにかく早く会いたい。

 

 

 

「早く会いたいっすね。ゾネ兄さんとは何か話が会いそうな気がするっス」

「え…… そうかなぁ…… すっごい地味だし、無愛想だよ?」

「またまたー。 ゾネさんのお兄ちゃんがそんなわけ無いっすよ」

 一体何が彼女をそう思わせるのか。

 隣の委員長も眼鏡でニヤリと笑って追随した。

 

 

 ○

 




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