41 ナイフどうした
41ナイフどうした
リュックサックの中にはロープや調理用ナイフ、レインコートや調味料などなど入っている。
リュックサック自体がショッピングモールでとってきた登山用の少し頑丈めのものだし、なんとかこれで盾になるだろうか。
ゾンビはじっとこちらを見ている。
出遭ってまだ1分経つかどうかというところだろうけど、もう何時間も見つめ合っていた気がする。
眉毛に溜まった汗が落ちてきそうだ。
ふと、リュックを動かした。
左手で持ったまま、すいっと左側へ。
すると、ゾンビはそちらを見た。
……あれ?
ただの思い付きだったけど、これはまさか。
俺は右手の斧をグッと握りしめた。
DIYコーナーで斧と一緒にとってきた作業用手袋のグリップ力で斧と手が一体化した様な感覚になっているけど、それでもまだ不安だ。
スポーツコーナーにあったアルミバットは軽いけどかさばるなぁと思ってとってこなかった。あのリーチが恋しい。
リュックサックを揺らすと、ゾンビの反応が激しくなった。
たいしたものは入ってないけど片手で持つには重いのでなかなかキツイが、その甲斐あった。
俺がさらに激しくリュックを揺らすと、ゾンビが身を屈めた。飛び掛かる前動作だ。
俺はリュックサックを投げた。
ぶわっ、とゾンビが飛び上がり、リュックサックを捕らえた。
ほとんど俺の足元に飛んできたのでビビって一拍動けなかった。
一瞬の時間だが、何事も、ただの恐怖で無駄な時間を使ってしまうのはだめだ。
全て整っているというのに、ただの感情で。
くそ!
心の中で叫び、
「ッシ!」
歯の間から息を吐く。
振りかぶった斧がゾンビの頭に吸い込まれた。
それ程手応えが無かった。
だから焦った。
「おおおおっ!?」
思わず声が出てしまったのにも焦って、素早く斧を引き抜いた。
そして、もう一度、二度、三度、ゾンビの頭を叩く。
そういえば大根を切る時こんな感覚だった。
サクサクとゾンビの頭を斧の刃で切り刻んだ。
□□
ゾンビの血が辺りに飛び散っている。
リュックサックはびちょびちょだ。
防水なので中は無事だろうけど、洗うわけにもいかない。水は貴重だ。
ゾンビ虫は死ななきゃ平気だが、このドロドロした赤黒い液体を放置していると雑菌が繁殖する。ゾンビ以外の理由で命に関わる。
とはいえ、このまま置いていくわけにもいかないので、手に持って移動した。
もう背負うとか抱くとか無理。
そしたら今度は服が二次被害に遭う。
ボタボタと血痕を残しながら進む。
ニオイでゾンビが追ってきそうで怖かったが、空が明るくなってくると恐怖が薄らいできた。
代わりに、ショッピングモールの連中が追って来るのかどうかが気になった。
この辺は多少田舎だけど、それでもコンクリートジャングル8割だ。
入り組んだ路地、立ち並ぶ建物、逃げる人間1人を探すのは難しい。
連中がそれで諦めてくれればいいが。
暫く歩き、太陽がキツくなってきた頃、俺は近くのアパートの最上階を目指した。
法改正前の建物で、エレベーター無しの5階。
ゾンビは階段を登るのが下手だ。
□
部屋の中で良さそうなバッグを見つけた。大きめのビジネスバッグだ。
ロープは出して体に巻き、他の荷物を詰めたらパンパンになったけど、一応入った。
連中が追って来るかもしれない。
俺はさっさと離れ、北を目指した。
□
「ゾンビが死んでるぜ」
「あいつがやったのか? 見ろよ、血痕が続いてる。すごい量だ」
「もう帰るぞ。この出血じゃあいつも助からんだろう。死んでなくてもゾンビだ」
おっさん三人はショッピングモールに戻ることにした。
彼らは、自分達がゾンビの巣の隣で生活している事をまだ知らない。
□
夕暮れ前に良さそうな民家を探しあて、二階によじ登った。
窓から中の部屋を確認し、窓を少しだけ割って鍵を開けて侵入。部屋に入ったら階下からの侵入を防ぐためにドアの前にバリケードを作る。
2回目だが、だいぶ慣れてた感じがする。
リュックサックは捨てたが、少し汚れた服にはまだニオイが残っているだろうか。
ゾンビが二階によじ登ってくる事ができるとは思えないけど、それでも追跡されるのは嫌だ。
ペットボトルに汲んであった水を飲んで息を吐く。
一階の確認はしないつもりだ。
食料とかあるかもしれないけど、ゾンビが眠っていたら困る。もう今日はゾンビを見たく無い。
ベルトループで腰に付けたままのナイフは戦闘用のはずだった。
でも、全くナイフの事なんて忘れていた。
まず手に取ったのは、武器として掴んだのは斧だった。
枝切りどころかゾンビの頭を割っていた。
そんなつもりで斧を取ってきたわけじゃないのに、本能でこれを武器に選んだ。思い通りにいかないものだ。
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いつもの習慣通り、夜中に何度も目を覚ました。
外の路地をちらほらとさまよっているゾンビを見て、その後眠った。
朝になったら空き家を出た。
二階の部屋の隅にうんこした。外でするのは危険だ。水分不足か、やたら乾いたウンコに不安を覚える。
明るくなってから民家を出た。コンパス片手に北へ向かう。
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