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39 ゲームや漫画の知識

39ゲームや漫画の知識


 空はまだ暗い。

 遠くが白み始めているけど、明るくなるのはまだ1時間ぐらいかかるだろう。

 その間、ゾンビに見つからない様にしないと。

 だけど、日が昇ったら今度は上の連中に見つかる。

 すぐに目の前のフェンスを越えてしまいたいけど、フェンスの向こう、暗い中で輪郭を浮かせている小洒落たカフェ、こじんまりした企業ビル、アパート、マンション、全部ゾンビの巣なんじゃないかという気がしてくる。

 

 ゾンビはもう帰ったのか?

 まだ街を徘徊しているのか?

 建物の輪郭はうっすら見える。

 あの空き家から外を覗いた時は、ゾンビの肌が白く光っていた。

 思わず周りを見回した。どうせたいして見えないのに。

 そのせいでまた不安になる。見えないと認識する範囲を自分で増やしてどうすんだよ。

 いるのか? ゾンビの肌が白く見えたのは、あの日の月とか星とかがいつもより輝いていたとかで、今日はそうでもなくて、実は結構近くまでゾンビが来ているんじゃないのか?

 

 自分の呼吸音がやたら大きく聞こえる。

 心臓が脈打つ振動で体が震えた。

 

 

 □

 

 

 ニオイで気付かれない様に連中が上から撒き散らした糞尿の近くに潜んでいた。

 とりあえず隠れているつもりだったが、もうだいぶ風景がはっきりしてきた頃になって、これが失策だったかもしれないと気づいた。

 例えばある種の肉食動物は、アンモニアのニオイを感知して獲物を追う。猛禽に至っては、アンモニアが紫外線を反射するのを見て、獲物を追跡するという。

 猛禽の目の性能はともかく、ゾンビの鼻が人間が並だとしてもこのニオイには気付くだろう。

 我ながら運がいい。

 命に関わる判断ミスをしていたかもしれないのにまだ生きている。

 

 そろそろ行こうかという時に、上の方が騒がしくなった。

 気付かれた。

 

 ロープはロープワークで(某漫画を読んで興味を持った)下からうまく引っ張って外してある。ロープは持って行きたいし。

 しかし、階段から下りて来なかったんだからどうにかして外に降りたのは予想付くだろう。

 

 ほら、頭を出した。

 

 屋上からおっさんが下を見ている。

 

 おっさんが頭を引っ込め、女の悲鳴が聞こえた。

 何を言っているのかは聞かない様にした。

 

 騒がしい。

 まだ朝焼け中だ。

 残業頑張ったゾンビが帰宅途中かもしれないというのに。

 

 糞尿のニオイ、そして悲鳴。

 建物に反響してやたらと響く。

 

 この感じだと上からは見つかっていない。

 

 俺はダンボールに隠れていた。

 某ゲームで、そんなとこにダンボールあったら気付くだろとか思ったけど、抜群の効果だった。

 

 

 □

 

 

 そのままゆっくりとフェンスの前まで移動。

 ここはショッピングモールの横。トラックも入るので道幅は広いが、正面の駐車場程ではない。

 ちょうどフェンスにたどり着いたところで、また屋上からから頭が一つ、二つ。

 

 ダンボールの中は湿度が増している。

 隠れられているなら別にいい。

 だがバレたら銃はわからないが、クロスボウとコンパウンドボウでザクザクやられる。

 連中の悪行を知った俺を生かして避難所に逃すわけにはいかないはずだ。

 実際は避難所に戻る気なんてないけど。

 弓矢って下の方狙う時は命中率悪いんだっけか? などと希望的観測をしてしまいそうになる自分を抑えた。

 トイレットペーパーのダンボールにすっぽり入ったまま、リュックサックを抱いて息を潜めていた。

 隙間から漏れる光が汗でずぶ濡れの指先に反射している。

 

 連中はさっき頭を引っ込めたけど、またすぐに戻ってきそうで、なかなか動き出せずにいた。

 次は、ダンボールから出て、フェンスに飛びつき、よじ登って越える予定。

 死体運びと穴掘りでだいぶ体力は付いている。2m程度のフェンスなんてどうということは無い。

 だが、出た瞬間見つかるんじゃないかと思うと、なかなか行動に移せない。

 特にクロスボウは矢を装填済みで持ち歩いているのをよく見た。弦が弱らないかと思って見ていたけど、つまり、見つけて一発目はすぐに撃ってくるって事だ。

 フェンスを越えた後見つかるならまだなんとかなるかもしれないが、フェンスによじ登っているところを見つかれば良い的になってしまう。

 

 ……ふがっ!

 気付き、思わず叫びそうになった。

 屋上から頭を出さない。戻って来ない。

 じゃあ、どこへ行ったのか。

 下りてきている! ここへ!

 

 俺はダンボールから飛び出し、フェンスに張り付いた。

 がしゃがしゃと音が立つのも構わず、フェンスにの頂上に股を掛けた。

 その時、ふっと、屋上を見上げた。

 目が合った。

「てんんめぇええええええええ!」

 うるせええええ!

 静かな朝におっさんがの叫び声が響く。

 そして、ガキンと音がして、アスファルトの地面から何か跳ね上がった。

 空中に舞うそれは曲がった矢だった。

 クロスボウ撃ってきやがった。

 幸い、再装填には時間がかかる。

 俺はさっさとフェンスを越えて、植木や街路樹を背にする様にして走った。

 おっさんがの怒号がまだ響いている。朝から元気だな。

 オサレなカフェの影に入った。もう矢は大丈夫だろう。

 あの後1度風切り音が聞こえた。合計で2回撃ってきた。

 どっちも外れた。

 2回も命が助かるなんて、運が良い。

 銃声や他のおっさんの声は聞こえなかった。やっぱり分かれて下に降りてきているところだったのだろうか。

 

 だとしたら、逃げないと。

 

 俺はさらに走り、企業ビルを過ぎ、アパートの角を曲がった所で、


「……まじか……」


 ゾンビに出くわした。

 

 ○

 


 

 

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