36 ショッピングモールで数日
36ショッピングモールで数日
この先、生存者を探すために準備が要る。
とか大嘘ついて、ショッピングモール内の道具を物色した。
彼らより先に来ていた人がいても、こんな不気味なところさっさと撤退していたのかもしれない。
ゾンビ作品と言えばショッピングモールは定番だが、それは外の光を採り入れるタイプの建物限定かもしれない。
電気が切れている今、このショッピングモールの中は真っ暗だ。
外側に位置している飲食店は外縁の大きなガラスの恩恵で明るい。机とテーブルを使って取ってきたお菓子やジュースを並べ、なんちゃって喫茶店的な事をしてみた。
でも、お菓子は元々食べないしジュースよりも水を飲みたい。
飾るだけ飾って放置するという「食べ物を粗末にしてはいけません」と叱られそうな遊びをしつつ、太陽の光を浴びた。ついでに便利そうなものを物色した。
□
アウトドア用品コーナーは楽しい。
暗いせいでいちいち懐中電灯で照らして商品棚を確認しないといけないが、これはこれで探索っぽくて楽しい。
気になっていた携帯式浄水器を発見した。
これはゲットだ。
安い空気入れみたいな外観だが、説明書によれば有害物質をかなり除去できるらしい。ホントか知らんが。
余裕があるなら、これで浄化した後の水を煮沸して使いたい。
そして、ナイフだ。
まだ残っていた。
マチェットを振ってみたのだが、足を切りそうで怖い。
それに重い。
ぶら下げる状態なら持っていられるが、構えていると何分も保たない。
長物の武器については学校でよく考えた。
リーチ外から攻撃できるというのは魅力だが、開けた場所じゃないとあまり役にたたない。
狭い場所で切っ先より内側に入られたらアウトだ。
マチェットは刺す事もできるけど、即死じゃなきゃ殺せない。チャンスも多分1度あるか無いか。体に刺さる距離なら、ゾンビの手が俺の手に届く。それで終わりだ。槍の様なものも同じ理由でダメだ。ゾンビは怖がらない。ダメージを受けても間合いの中に入って来られたらアウト。
狭いと振りかぶる事もできないし。
長らく学校にいたからか、通路を歩いていると学校の廊下や階段、トイレなんかをイメージしてしまう。
……トイレちゃんと掘ってるだろうか。そろそろ新しいの掘らないと駄目だったはずだが。
いや、知らん。
槍は槍衾じゃないと意味がない。当てるのは点。ゾンビ、つまり人間一人分が抜ける隙間は広い。先を掴まれる危険だってある。連中は目が悪いらしいので上手く避けられるかは分からないが、こっちが上手く点で当てられるかも分からない。
それでもパイプ槍を用意したのは他に武器が無かったからでもある。
最初から当たるつもりでシールドを用意した方がまだ戦えそうだが、このショッピングモールには無い。
ともかく、ヒルト(ツバみたいなでっぱり)が高くて、フルタング(刀身がグリップまでみっちり詰まっているやつ)で、紐を通す穴が開いているやつを選んだ。
刃渡りは20cmぐらいか? 手首から指先までより長い。
強度がよくわからなかったのでとりあえず厚手のやつを。
これを3つ。
食べ物用と草刈り用は分けた方がいいかなと思ったので。
もう一つは戦闘用。使う機会が無いといいが。
柄のデザインが違うけど、一応マジックで用途を書いておかないと。
同じタイプ、刃渡りまでほぼ同じなのは、慣れの問題があるからだ。
多分戦闘より普段使いの方が多い。それと違うサイズのたまにしか使わない戦闘用ナイフなんて、とっさに上手く使えるとは思えなかった。
それ以前に、なるべく使う事が無い様にしたい。
ステーキハウスとかで見るような、棒状の刃物研ぎがあった。
ずっしり重い。
これロープ付けて振り回したら十分武器になるんじゃないだろうか。
持っていくか悩んだけど止めた。
そこまで切れ味が無くても別にいい。
それに、どこかの家に入れば砥石か陶器皿ぐらいあるだろう。
ナイフより嬉しかったのは、ブーツがあった事だ。
登山用らしいが、しっかりしている。
欲を言えば鉄板入りの安全靴が欲しかったけど、今履いているスニーカーに比べれば十分だ。
このスニーカーはゾンビ騒動前から履いていて2年以上経つ。ボロボロで、避難所を出る時に粘着テープを撒いて補強したけど不安だった。
登山ブーツは足首をひねるのも予防できそうな感じに硬い。
スゴく良い。
吸湿速乾性の高い衣類がいっぱい置いてあったのも非常に助かった。
さっさとサイズを探してゲット。
後は頑丈なフック、カラビナ、アウトドア用のフライパンなどを物色して、駐車場キャンプに戻った。
ショッピングモールの彼らは別のところから来たものの、ここにアウトドアコーナーがあるのは知らなかったらしい。
とにかく食品コーナーばかり入っていたという。
背筋が寒くなった。
つまり俺は未探索の所に入っていた。
ゾンビが居なくて良かった。
知らない建物に来たら普通、案内図を見ないか? 俺がおかしいのか?
少なくとも彼らはそういうタイプでは無かったらしい。
登山ブーツや衣類、鍋を除けば俺の荷物は二リットルペットボトルに詰められる程度だったが、俺の監視役のおっさんはカートに詰めまくっていた。マチェットも装備している。
これを持ち帰ると、入れ替わりで他のオッサン達がアウトドアコーナーへ行った。
やっぱり男は好きだよなこういうの。
□
パイプ槍は持ってきた。
空き家に置いてくるかどうか悩んだけども、無手で生存者の探索というのも嘘くさいので一応持ってきてはいたが、持ち歩くと警戒している様に見られそうで、普段は放置してある。
これで油断してくれればいいが。
コンパウンドボウ、クロスボウ、どこで取って来たんだろうか。
このショッピングモールのスポーツコーナーにも無い。
そして、銃。
どうすればやれるだろうか。
□
ショッピングモールに来る前は、もしかして力を合わせて頑張れるかも、と少しは思っていた。
だが、実際に接触して、それは無理だと悟った。
こいつらは男だけの集団ではなかった。
女性も連れている。
最初来た時はテントの中にいたので気付かなかった。
そりゃあ、不審者が来たら女を隠すだろう。
でも、それ意外の理由もあって、こいつらは女を隠していた。
いや、閉じ込めていた。
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