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35 ショッピングモールの人々

35ショッピングモールの人々

 

「中学校? 近いのか?」

「はい。半日あれば移動できます。あっちの林になってるところです」

 俺が指差す先をちらりと眺め、

「武器はあるのか?」

「……」

「いや、俺達のいた避難所はゾンビにやられてな。防衛力が気になるんだ。安全かどうかね」


 一気に胡散臭くなった。


「マンモス校でして。広い敷地に剣道場、弓道場、野球部にテニス部に薙刀部、それに調理室も理科室もありますから。武器はたっぷりありますよ」

「そうか」


 リーダーの顔色は読めない。

 ずっと難しい顔をしたままだ。

 最初から表情を作って固定してしまえばこの様に表情を読み取ることができないんだなと知った。

 元々相手の表情なんて読めないが。

 読めたら人生もう少しマシだっただろうか。

 

「人数はどれぐらいだ?」

「3000人弱います」

「それは……」

 リーダーの表情に少し変化があった。

「……多いな」

 

 

 □

 

 

 俺は逃げてきた身だが、虎の威を借りる事にした。

 武器、そして人数。

 これならすぐに殺されるという事はないだろうと。

 後ろ盾があるのは大事だ。

 

 相手がイカれていたらその範疇ではないけど。

 

 

 □

 

 

 とりあえず2、3日はここに滞在する事になった。

 


 懐中電灯で照らしながら、暗いフロアを進む。

 

 ここゾンビの巣にもってこいなんだが。

 しかしゾンビの姿は無い。

 外観もガラスが割られていなかった。

 侵入者は彼らだけなのだろう。

 

 避難所近くのコンビニが荒らされていたけど、あそこを荒らした人達はどこへ行ったんだろうか。

 

 ここにたどり着く前にゾンビにやられたのか、それとも別の方向へ行ったのか。

 

 ゾンビ騒動は、多くのゾンビ作品であるように『ある日突然』というわけではなかった。

 じわじわと患者数が増え、国民皆検査が行われ、感染者と非感染者が分けられ、なんとなーく避難所に入った。

 逃げ遅れや暴徒化するタイミングのない経過だった。

 

 コンビの状態や民家の窓が割られていたのを見ると調子こいた連中がいたのは間違いない。

 デパートが無事だったのは数が少なかったのか、ここまでたどり着けなかったのか。

 

 彼らはつい最近ここに来たと言っていた。

 それを証明する方法は無い。

 

 救援物資を投下する飛行機を見ながら、何かの理由があってここにずっといたという可能性もある。

 

 彼らの様に、一度デパートに入って、その後また別の所に移動した人達もいたのかもしれない。

 立てこもるつもりならわざわざ派手にガラスを割るとも思えないし。

 

「お、あった」

 俺の付き添いというか監視のおっさんが酒を取り、カートに乗せた。

 食品コーナーはとんでもない腐臭がする。

 1年以上経ってもニオイが抜けていない。空調設備が止まってしまえばこのザマだ。

 そういえばゾンビは鼻がいいんだった。

 この腐臭で巣にならなかったんじゃないのだろうか。

 

 現在おれは物資回収の手伝い中。

 と言っても、カートを押す係だが。

 俺の監視役らしいおっさん以外の2人はバラバラに探索していて、フロアのあちこちで懐中電灯の光がフラフラと揺れている。

 

 避難所に合流するつもりはあるが、その前にデパートの物資を回収してから、という事だ。

 避難所には食料が余るほど落ちてくるけど、その他は微妙だ。

 そして、酒やタバコは救援物資には入っていない。必然的に皆禁煙していたが、このデパートに来たグループは普通に吸っていた。

 これを持ち込んだら避難所の元喫煙者はどうするだろうか。

 せっかく禁煙できたんだからもう吸わないのか、それとも喜んで吸うのか。

 

 カラカラとカートを押し、荷物を回収。

 

 それをキャンプ中の4階駐車場へ運ぶ。

 重労働だが、これはいったい何をやっているのか。

 このデパートを出る気があるならこれは一部だけでも一階に運ぶんじゃないのか?

 

 多分、こいつらはここを出る気が無い。

 少なくとも、物資があるうちは立て籠もるつもりだろう。

 人数に対して大量の物資があるのでかなりの間もつはずだ。

 

 しかしリーダーは、

「準備もあるから、もう2、3日してから避難所に合流する」

 と言っていた。

 

 今俺をどうするか考えている所だろう。

 

 俺がいなくなったら避難所の人間が不審がると思っているから、今生かされている。

 

 

 ○

 

 

 

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