31 空き家
31空き家
警戒しながら進んだら凄い時間がかかった。
通りに全くゾンビはいなくて、窓ガラスが割れた民家やアパートが立ち並ぶばかり。
黒く焦げている家もあった。
もうだいぶ昔の事だが、俺がこの街に運ばれてきた時はどんなだっただろうか。
暴動の様な事は起こっていなかったはずだが。
自衛官は去ったけど、彼らは思い知らぬところで俺達の事を守ってくれていたのかもしれない。
俺はよく事件の口止めをする立場だったけれど、もしかするとこういった状態の街の話を止められていた人もいるのかもしれない。
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全くゾンビに出遭わなかったので、なんだか警戒して進んだ時間が無駄に思えたけども気を抜いてはいけない。
ショッピングモールはでかいので遠くからでもよく見える。
4、5、6階が駐車場で1、2、3階はたくさんお店が入っている。屋上もフードコートやイベント用の舞台があって、アイドルのライブもあった。
彼女達はいまごろどうしているんだろうか。
いや、暴動が起きるような中にアイドルがいたらどうなるかなんて……
はっとして俺は身を隠した。
まず電柱に隠れて、いや、何やってんだよと通りの角に隠れ直した。
全く動いて居ないから気付かなかったが、ショッピングモールの屋上に人がいた。
俺がシルエットに気付いたぐらいなので、あっちが双眼鏡でも持っていたらもうとっくに気付かれているかもしれない。
ショッピングモールに人がいる。
いつからいるのかは分からない。
俺が避難所に入った頃からとしたら1年半以上という事になる。それなりに安定しているのだろうか?
逆に、流れ者が最近辿り着いたという可能性もある。
気になったのは、屋上の奴が抱えているものだ。
ここからのシルエットでは棒に見えたが、あれは銃ではないのか?
今日はショッピングモールに近付くのをやめた。
突然撃たれる可能性も考えなければならない。こんな状況だから助け合う、なんてのが妄想だというのは避難所で学んだ。
あの犯罪者グループと同じ様な連中だったら、面白半分で俺なんか殺されるだろう。
でも、それでも、受け入れられたなら協力して上手くやれるかもしれない。
なんて、そんな事を少し考えた。
希望的観測はしないつもりだったが、俺もまだ甘い。
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寝床を探す事にした。
これ以上移動するのはもう無理だった。
また警戒して、移動して……考えるだけで面倒だ。
周りの家を見回す。
なるべく日当たりが良いところが良い。
ゾンビは暗い所で眠り、暗い時間に起きて活動する。
そう考えると、窓ガラスが割られまくっている民家は全て良さそうに見えてくる。
できれば二階以上で、窓が2箇所以上の角部屋。
多分ゾンビは住処にしないだろう。
アニメではよく見る間取りだったが、下から観察しているとなかなか無い。
やっと見つける頃には遠くの空が少し赤くなっていた。
全くゾンビに出くわさないのに警戒しすぎなんじゃないかと自分でも思うが、警戒が足りなかったせいで後悔しながら死ぬのは嫌だ。
パイプやら室外機やら色々経由してなんとか二階に登った。
これはゾンビには上がって来れないだろう。油断は禁物だけど。
目標の部屋の窓ガラスは割れていた。
内側にガラスの破片が飛び散っている。
外から割られたみたいだが、部屋は特に荒らされた感じも無い。窓の鍵も閉まっている。
部屋の隅に結構大きな石が転がっている。侵入されたのではなく、多分調子こいた連中に投石で割られたんだろう。
女の子の部屋の様だった。
ピンク色が少し多いし、ファッション系の雑誌ばかりある。
女子に対する偏見があるわけではないけど、本棚も小さいし詰まっているのはなんか統一性の無いラインナップの本。
恋愛ものが多い。
タンスの服も女ものだったが、あまり残っていない。持ち出したんだろう。
スカートを一枚取り出して、少し水を含ませ、タオル代わりに顔や体を拭いた。
タオルは持っているけど、洗濯するアテが無い。
すまないけど、使い捨てにさせてもらう。
特に物色するものは無い。女子の部屋というのはもっとワクワクするものかと思っていたが。
階下を調べようかと思ったがやめた。
確かに安全確認は大事かもしれないが、一人でなんて無理だ。
1階の方が広いし、暗い所もあるだろう。
ゾンビとはちあわせたらたまらん。
タンスや本棚、テーブルなどを動かして、ドアにバリケードを作る。
連中は階段登るのは下手だが、這えば登れるし、登って来られたらドアの鍵なんて関係なく蹴破ってくるだろう。
音を立てない様に、慎重に家具を動かした。
外が暗くなってきた。
暗くなったら寝る。
寝込みを襲われたら逃げ場も無いが、眠っている間に襲われるなんて、そこまで自分で自分の面倒見切れない。できないことはしない。
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少し前から1、2時間おきに目が覚める様になっていた。
今回もそうだった。
果たしてその習慣が良いものか悪いものかは判断付かないが、少なくとも、気分のいいものではないと分かった。
いつも通りふと目覚めた俺は、奇妙な音が聞こえる事に気付いた。
それとも、その音で起きたんだろうか。
俺は音を立てない様に体を起こし、ゆっくりと窓に近付いた。
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