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30 林を抜けて

30林を抜けて

 

 うちの母校、つまり避難所は、大通りにある門から入って100m程林の中を突っ切る道になっている。

 その林も含めて敷地内だ。

 まだ周りが発展していなかった頃、空いている土地をまとめて購入した結果、自然との調和をなんたらかんたらの美しい学校ができた。

 その後も拡張を繰り返した。

 街が発展していなかった頃に建てられた学校なので、この周りが住宅街になっていくと生徒数がどんどん増え、現在は生徒数1000人前後のマンモス校となっている。

 昔の話だ。

 今では3000人弱を収容する避難所となっている。

 

 俺はそこから離れた。

 

 □

 

 100mの幅がある林。木々の隙間から向こう側の道路も見えている。

 道に迷うような場所ではないが、いざ抜け出すとなるとかなりの時間林の中に居る様な気がする。

 

 以前はこの中に自衛官が居て、交代で見回っていた。

 この中にゾンビが入ってきていたら、もし今襲いかかってきたら。

 そう考えると、足がすくんだ。

 木々は障害物だ。視界が悪い。

 でも、じゃあ見晴らしが良い場所なら勝てるかというと微妙だ。

 

 ゾンビは人間の形をしている。

 そのくせ二足歩行が苦手で、走る時は四つん這いだ。

 人間の体のバランスでは四足歩行は難しい。人間も四足で走ると意外に早いらしいのだが、それでも元から四足で人間サイズの動物よりはずっと遅い。なんとか走って逃げられる。

 

 動画やネット記事の内容を頭で反芻し、ぎゅっとパイプ槍を握りしめて林を進んだ。

 

 

 □

 

 

 林を抜けるとフェンスがある。

 有刺鉄線があるわけでもないし、高さも2m程度だ。よじ登って超えられる。

 ふと、横を見てみると、遠くの方のフェンスに破られた跡がある。

 近付いて見ると、内側から外側に切られ、押し広げられている。

 逃亡組の中に、工作室にあったかもしれないワイヤーカッターを持ち出したグループがいるって事か。

 俺は死体処理場のすぐ後ろの林から入ってここに来た。つまりここは死体処理場がそんなに離れていない場所だ。

 俺が仕事しているところの近くから脱走していった奴がいるなんて気付かなかった。

 位置的に、死体処理場からこっちは遠すぎて見えなかったとは思うが、それでも衝撃的だった。

 

 校門や裏門は警備員がいる。

 だから逃げ出すのは難しい。

 

 フェンスの穴は人間が通るには十分な大きさがある。それはゾンビにとってもそうだろう。

 こんな穴があと幾つ開いているんだろうか。

 ゾンビはフェンスを登れるのかどうか分からない。二足歩行が難しいし、多分靴や靴下を履いたままではゾンビにフェンス登りは難しいと思うが、こうやって穴が開いていたら簡単に侵入できるだろう。

 

 いったいいつから開いているのかわからないが、ここからゾンビが入ってきて、死体処理場近くで生活していた俺に襲いかかっていたのかもしれないと思うと、少し、手が震えた。

 

 

 □

 

 

 先人が開いてくれたフェンス穴をくぐり、大通りに出た。

 道の反対側は、学生の集客を見込んでなのかコンビニやオサレなカフェなどがある。

 企業の見込み通り、かなりの集客があった。大手コンビニチェーンが各社ズラリと並んでいるが、客の奪い合いにはならなかった。

 学生の客もいるし、教師の客もいる、それに住宅街なので普通に主婦とかがランチを楽しんだりもしていた。

 

 その通りが、今はガランとしている。

 コンビニの窓ガラスは全て割られていた。

 別に入り口だけ割っとけば入れるだろうに、どうしてあんなに徹底的に割ったのか。

 ちょっと楽しくなっちゃった奴らがいたんだろう。

 

 警戒しながらコンビニに入ってみたが、ゾンビの姿は無い。棚はほとんど空だった。

 サプリメントが少し残っていたので、取ってポケットに入れる。粘着テープも取っておいた。

 俺の荷物自体そうだけど、これは明確な窃盗だ。

 災害時には自販機が全て無料で取り出せる様になると聞いた事がある。

 でも、このコンビニの商品は無料ではない。

 

 ヤードに入ると水のペットボトルが残っていたので罪を重ねた。

 

 ここには多分脱走組も来たと思うんだが。

 サプリメントは人によって全く抵抗がない俺みたいなのと、サプリメントなにそれ? というのがいるので、残っているのはまだわかるが、水が残っているのが不思議だった。

 

 ゾンビも居ないので、少しくつろいでいると、逆に、水以外の飲料がほとんど無い事に気付いた。

 そういや脱走宣言しに来た連中は若い人が多かった。

 皆ジュースとかスポーツドリンクとかとっていったんだろう。

 正直どうかと思う。スポーツドリンクは電解質補給のためのものであって、水分補給として考えると濃すぎる。日常的に飲む様なものではない。実際にスポーツドリンク飲み過ぎで病院送りになった人のニュースを見た。

 脱走宣言組には若い人の次におっさんが多かったはずだが。むくんで体痛めるぞ。

 体を壊しても病院に行くことはできないというのに。

 

 マルチビタミンサプリを飲み、とってきた小松菜を齧る。

 元々美食家じゃなくて良かったと思う。

 どんなに体に良くても美味しくないと駄目っていう連中が不思議だった。

 注射が痛いから嫌いっていう人達とか。

 必要ならソレ以外の感情は別にいらない。

 だから俺は孤立したんだろうけど。


 別の事で楽しめばいいのに。

 

 □

 

 学校のインフラが止まっていたのを考えると、この先水の補給はこうやって奪うしか無いかもしれない。

 川はいくつか通っているが、そんなにキレイでもなかったはずだ。

 ろ過装置の作り方は分かる。作った事もある。でも作っても飲めるかわからないし、そんなものを持ち歩くのは重い。

 サバイバル用の携帯ろ過装置とかあったと思うが、俺は持っていないし、どこにあるのか。

 

 ……ショッピングモールに…… 行った方がいいんだろうか……

 

 正直行きたくない。

 

 ショッピングモールと言えばゾンビものの定番だ。

 人が集まって、防衛し、だいたい崩壊して地獄絵図になる。

 国道を少し行くとショッピングモールがある。

 ファミレスとか飲食店も多く入っていて、この辺のデートスポットだ。

 俺は家電コーナー浴のためによく行っていた。

 ホームセンターも入っていたはずだ。

 

 ゾンビ騒動で避難が始まって1年以上経つ。もうあと数ヶ月で2年か。最近カレンダーとか見てないからよくわからん。

 ショッピングモールに人がいたとして、もう崩壊しているんじゃないだろうか。

 

 いや、崩壊していたほうがいい。

 もう人付き合いは面倒だ。

 

 荷物チェックをして、コンビニを出た。

 昼過ぎにはショッピングモールに着くだろう。

 

 もしショッピングモールに入れなかったら近くの民家に入って夜を明かす。

 

 ここまでゾンビに出遭っていない。

 連中は本当に夜行性みたいだ。

 

 夜を明かすために入った民家がゾンビの巣だったら……嫌だなぁ……

 

 ○

 

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