28 逃げ出したい3
28逃げ出したい3
管理員としての権力を失っても、別にそんなに困らないと思っていた。
実際生活はほとんど変わっていない。
寝床が無い事と、食料の配給がもらえたりもらえなかったりする事ぐらいだ。
どっちも問題ない。
食料はまだ潤沢にもらえた頃の備蓄がある。というか、援助物資の中の食料は大量にあるのにもらえる数は少ないって普通にイジメだよな。別にいいけど。
それに、実はこっそり葉野菜を育てていた。
死体処理場の近くに。
種が園芸部にあった。
サバイバル系の小説では畑を作ったりするのだが、食物が十分にある現在、誰もその危機感が無い。
皆ストレスや不安で少しおかしくなっているのに、先の事を考えていない。いや、逆におかしくなっているから考えることができないんだろうか。
あの救援物資がいつか降ってこなくなるかもしれないとは考えない。考えたくない。
植えたのは小松菜。
1、2ヶ月で育つし、シュウ酸が少なくて生で食べれるから。ぱっと見、死体処理場近くの雑草と変わらない。
誰も気付いていないみたいだ。
死体を燃やした近くで取れた野菜をむしゃむしゃ食べている。たまに虫がついているが、その時は洗って、焼いて食べる。
火葬場だし、火の扱いにも慣れた。
半年ぐらい続けているけど全然平気だ。
図書室から食べられる野草の本を借りてきて読み込んでいる。実際に見つけて食べたりしていたので、配給食料は貯まる一方だった。
俺は元々電子書籍ばかり買っていたけど、紙の本も好きだった。
もう電子書籍は読めない。だからやっぱり紙の本が一番! とは言えなかった。
やっぱり色褪せるし、保存状態が悪ければすぐに駄目になる。
図書室の小説関係の本は全部無いのに、こういった本はほとんど残っていた。
元々どれだけあったのか知らないから、実は持って行かれている本もあるかもしれない。
脱走した人達がちゃんと考えてこれらの本を持っていったのならいいんだけど。
寝床は最近死体処理場の近くだ。
昼間は俺が通りかかると背後で嘲笑とコソコソ小声で話す連中もここには近寄らない。
でも、死体を捨てに来る犯罪者集団とかち合うかもしれないので、少し離れた草むらに伏せて眠っている。
面白半分でギリースーツもどきを作った。夜中では区別つかんだろう。
噂がここまで酷いと夜中に寝込みを襲いに来る奴がいるかもしれないし。
犯罪者集団からの接触は無い。
俺が普通に死体処理をしているからだろう。
□
隔離棟の見回りにいくと、話し声が聞こえてきた。
あのDQN連中だ。
俺の事を言っている。
「同じ学校だったけどさーアイツまじでヤバかった」
「猫とか殺してたよな」
「目つきとかまじやばくてさ」
「クラスメイトの女子とか殺したいって言ってたし」
俺はとんでもない人物像になっていた。
俺が現れると、DQN連中が絡んできた。
べしべしと叩いたり蹴ったりしてくる。
ボクシング部でもないくせにボクシング風の構えでジャブを繰り出してくる。
他の連中もこっちを見ている。
俺は凶悪な変態殺人犯。
その俺にからんでちょいちょい叩ける自分すげーだろ。っていうアピールか?
わからん。
このDQN連中はここに収監された当初は酷い荒れ様だった。
それから、意外にストレスの無い生活で多少おだやかになっていた。
いや、今も多分避難所の連中よりストレス無く生活しているだろう。
で、慣れすぎてまた俺にちょっかい出し始めた。
ここにいる連中は暴行や窃盗で捕まった連中だ。
こんな奴らでも、正義という考え方はある。
犯罪者のくせに、正義のために悪を駆逐する。
例えば俺だ。
ただでさえ暴力的な連中が俺にちょっかいを出し始めたらたまらん。
DQN連中が手を出してきたので、他の連中も、俺を殴っていいモノだと認識しただろう。
よし、明日には出ていこう。
すぐにでも出ていきたいが、昼を過ぎている。夜は連中が動き出すから危険だ。
明日の朝一番に避難所を出て行く。
DQN連中に叩かれたのが決定打とはなんとも締まらない。
思えば、こいつらヘタレDQNが少年をボコった時に逃げるべきだったのかもしれない。あの狂いっぷりは、この避難所の未来の姿だ。
俺が偏差値の高い大学を受けようと思った理由の一部もこいつらが原因だ。バカのいない所に進学しよう
っていう。
そう考えると、コイツらは人生の節目を教えてくれているみたいだ。
こいつら俺が居なくなってこの後どうなるだろうか。
まぁ、知ったことではないが。
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