23 ゾンビ4
23ゾンビ4
「お前、囮やれよ」
と、小さな声で、しかしはっきりした口調で言われた。
俺は無手だし、体格でも劣る。
確かに適材適所かもしれないが、全く相談が無かった。
責めはしない。半ばパニック状態で、他人を犠牲にするのに躊躇いがなくなっている。
ギラついた目で睨まれ、俺は頷くしかなかった。
下手に抵抗して喚かれたらゾンビに気付かれる。そしたら俺は逃げ遅れてアウトだ。
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教室
壁壁入窓窓窓窓窓入壁
壁俺←←←←←←←警備2
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俺は奥の方から回り込む事になった。
全開の教室入り口を横切るのが一番危なかったが、なんとかゾンビに気付かれずに移動できた。
その後も音を立てない様に、窓の下に身をかがめて這う様に移動した。
ここでゾンビに気付かれたら立ち上がる手間もあって絶対逃げ切れない。
慎重に、慎重に進んだ。
入り口を横切る際に、むわっとした空気が顔に当たった。
鉄臭いニオイ、そして汚物のニオイ。
モノの話によれば、肉食動物は草食動物の内臓から植物や植物由来の栄養、酵素や腸内細菌などを摂取しているらしい。
とある話で「家畜は草食なのだから肉を食べるのは間接的に草食なのだよ」という話があったが、実際はそれよりもっと直接的に植物由来の栄養を摂取している。
ゾンビは動くものに敏感。
肉食動物と同じようにああやって食物由来の栄養を摂取しているのかもしれない。
吸ったのは一瞬だったが、鼻の奥に汚物のニオイがこびりついている。
だが、これだけニオイが充満しているなら俺達のニオイには気付いていないだろう。
教室の後ろの入り口。
つまり廊下の突き当りの方の入り口も全開だった。
それもさっと横切って、廊下突き当りの壁に背を預けた。
警備員2人と目が合う。
2人とも立ち上がって、両手でサスマタを握り、抱きしめている。
一応、俺のタイミングで、という事になっている。
まず俺が入り、気を引いて、後ろから2人が押さえ込むという事だ。
しかし、ゾンビが一気に飛びかかってきたらマズイ。2人も素早く動いてほしいのだが…… 正直期待できない。
出遅れた上に俺が襲われても何もできないような気がする。下手するとビビって教室の中に入って来もしないかもしれない。
他人と組むのはいつぐらいぶりだろうか。
以前はもっと信じられたと思うのだが、今ここで全く信用できない。
他人が変わったのか、俺が変わったのか。
……悩んでいてもしょうがない。
どのみちこのゾンビはなんとかしないといけない。ここでなんとかできなければ、また被害者が出る。
今回は食われているが、襲われて大怪我をした人間がゾンビになるという事もあるだろう。
3000人弱が詰まっているこの避難所では、被害を押さえ込むのは難しい。
今だ。
今が絶好のチャンスだ。
たとえ怪我をしても直ぐにゾンビになるわけじゃない。起き上がる前に始末を付ければいい。
ここに居る3人とも生き残れればいいが、誰か1人でも残れば、後の2人を始末すればいい。それで終わりだ。
自分に言い聞かせ、一歩、もう一歩、じりじりと移動し、入り口の前に立った。
臭くて生ぬるい空気が顔にまとわりつく。
俺が入り口に立ってもゾンビは気付かず食事中だ。
影が届いたら気付かれたのかもしれないが、太陽は向こう側で、こっちの方が暗い。
どうすればいいんだろうか。
声を上げればいいのか?
ただ気付かれればいいだけなのに、どうすればいいのか分からない。
俺は声を出す事にした。
それで気付くだろう。
俺が口を開けた瞬間、がん、と派手な音が鳴った。
俺は口を開いたまま、声も出せずに音のした方を見た。
あの2人だ
警備員のもっているサスマタが、壁に当たったのだ。
多分構え直そうとしたんだろうけど、周りへの注意が足りなかった。
静かな中で、しかも結構勢い良くぶち当ててしまった音はよく響いた。
ゾンビも警備員の方を向いた。
マズイ。
マズイ、マズイ、マズイ。
死ぬ。俺死ぬ。死んだ。
このままゾンビが警備員の方へ向かったとしよう。
戦ってくれればいいのだが、あの顔を見れば分かる。このままでは2人は逃げる。
それでゾンビが追いかければ良いが、もし俺に気付かれたら。
こっち側に退路は無い。廊下の突き当たりだ。教室に入ったり出たりで上手く避けるのも無理。ゾンビの方が遥かに俊敏。
俺は袋の鼠で、ゾンビの獲物。
痩せた女のゾンビだが、それでも素手で勝てる気がしない。
取っ組み合い、殴り合いならまだしも、ゾンビは噛み付いてくる。腕を掴まれてガブリ。抱きつかれてガブリ。押し倒されてガブリ。
肉を食いちぎられたらこの避難所の設備ではもう助からない。
どうする。
って、一つしか方法は無い。
「うぉおあああああああ!」
俺は叫んだ。
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