9.俺の妹が魔導師なわけがない!
マリアは吉田の服を買いに行くとのことで途中で別れてショッピングモールへと向かった。
2人が迷子にならないか少し心配ではあったが、マリアが手慣れた手付きでスマホのマップを開くと場所を確認していたので俺は安心して家へと帰った。
可愛くて、巨乳で勉強もできて、スマホまで悠々と使いこなす。さっきマリアは運動は苦手と言っていたがきっとそれなりにできるのだろう。
なんでもできてしまうヤツもいて、なんにもできない俺みたいなヤツもいる。
僻むわけではないが、一言言わせて欲しい。『神様、3発殴らせろ』と。
家に着き、リビングに入ると妹の桃奈が台所でポニーテールを揺らしながら急かせかと夕食の準備をしていた。
母が滅多に帰ってこない俺の家では家事全般は桃奈が担当している。
我が妹ながら実によくできた女であり、不満や文句も言わない。
たまに悪いかなと思って何か手伝おうとすると『邪魔だからあっち行って。消えて』と俺を疲れさせないように気遣いまでしてくれたりする。
お陰で唯一俺がやれることはリモコンの電池交換ぐらいだ。
「ただいま。なんか忙しそうだな?」
「おかえり。今日は腕によりをかけてご飯作ってるからね。マリアさんは一緒じゃないの? 今日久しぶりに会えるから楽しみ」
「マリアは吉田とショッピング──」
ん? なぜ桃奈がマリアのこと知ってるんだ?
しかも久しぶりって、ドユコト?
「お、おい桃奈。マリアと会ったことあるのか? てかなんで知ってんの?」
「獅童は今日初めて会ったんだよね? 私は昔から知ってたよ。1年くらい前にもお家遊びに行ったし」
何それお兄ちゃん全然知らないんだけど。
てかこの家族俺のことはぶりすぎじゃない? ひどくない? しかもお家に遊びに行ったということは異世界に行ったってことになる。
驚いて言葉の出ない俺を桃奈は一瞥すると、トントンとリズムよく刻んでいた包丁の動きを止めた。
「実は私ね、魔導師なんだよね」
魔導師。それは魔術を極めしものに送られし名前。俺はよく分かってないが多分そうだろう。
そういえば親父が母さんは大魔導師だって言ってたっけ。
なら妹が魔導師でもおかしくないよね? お兄ちゃん! ってなるか!
なんかもうむちゃくちゃだ。
「それ親父から聞いてないんだが……」
「あぁ、私が直接言うって伝えといたからね。たまにお母さんのとこ行って手伝ったりしてるんだよ」
「左様ですか。てかなんで俺には秘密で桃奈には伝えてるんだよ」
「それにはちょっと事情があってね」
桃奈はそう言うと、付けていたエプロンを脱いでダイニングテーブルの椅子に腰掛けて話を続けた。
どうやら両親は元々桃奈に勇者と魔導師の娘だということをこんなに早く伝えようとは思っていなかったらしい。
俺同様にしばらくは普通の人間として暮らしてもらおうと思っていたが、6才の時、偶然母さんが異世界に行くところを見てしまい、こっそりと着いていってしまったそうだ。
それから親の事や異世界の事、そして魔術の事を知っていった。
元々母の力を大きく引き継いでいた桃奈は魔術の才能に恵まれ、すぐに魔導師となり天才少女としてもてはやされた。
それで今は異世界の学校でたまに臨時講師として生徒に魔術を教えているらしい。
「なんか桃奈さんスゲーっす。パネェっす。サイン下さい」
「褒めてもなんも出ないよ。それに獅童のほうがもっと凄い力持ってるって聞いたよ」
「そうなの? でも封印されてんじゃん。そんなもんないのと同じじゃねーか」
「まあ確かにそうだけど、すごい才能があるってことには変わりないでしょ」
桃奈は両手で頬杖をつきながら小首を傾げてにこりと笑った。