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7.許嫁バレました

 昼休みとなり、俺は律儀に咲葉のジュースを買いに行った。

 勝手に押し付けられた勝負ではあるが、買わないとあいつは子供のように駄々をこねる。

 

 前に一度だけジュースを買うことを拒否したら咲葉は床に寝転び、独楽のようにスピンしながら泣き叫んだことがあった。

 通称『涙のベイブレード事件』だ。

 流石にもうあのような出来事は勘弁なので俺は渋々言うことを聞くことにしている。

 だがさすがにちょっとムカつくので、ジュースはおしるこにしといてやろう。


 おしるこを手に教室へ戻ってくると何やら室内はどんよりと重たい雰囲気に包まれていた。それに何故かみんなが俺に向けて冷たい視線を送っているように感じる。

 不思議に感じ、教室の後ろで立ち竦んでいる晴人に声をかけた。


「晴人、咲葉はどこいったんだ? なんか雰囲気良くないけど、どうしたんだ?」


「獅童のバカ!」


「なんだよ、いきなり!」


「マリアちゃんが許嫁ってのは本当なの?」


 いきなりバレてる!

 さっき約束したのにどう言うことだってばよ。

 俺は席で俯いているマリアの元に向かった。


「おい、マリア。言ってしまったのか……」


「ご、ごめんなさい……。ついカッとなってしまって……」


 反省した様子を見せる彼女をこれ以上責めるのは心苦しい。

 とりあえず事態の飲み込めない俺は晴人の元に駆け寄り、何故こうなったのか聞くことにした。

 


 昼休みに入った直後、マリアは転校初日ということもあり、彼女の周りには興味を持った人達で溢れ返っていたそうだ。

 当然の如くいろいろな質問をされたのだろう。


 そのうちの一つに『マリアちゃんはどんな人がタイプなの?』という質問があったらしい。

 マリアは頬を朱に染めて俺の席を見つめたそうだ。

 するとひとりの女子が、


「えっ! マジ? なんで聖くんなの? 勉強も運動もできないし顔も普通の中途半端なのに! マリアちゃんならもっといい人いるって、あはは」


 と言ったそうだ。

 確かに正論ではある。しかしなんかムカつくので、今夜この女子がタンスに小指をぶつけることを俺は願っている。

 

 女子の発言を聞いたマリアは机を叩いて立ち上がると、


「私の許嫁である獅童くんを悪く言うのは許せません!」


 そう大きな声で言ったらしい。

 凍ったように静まり返る教室。まあ確かに許嫁なんて言ったらみんなよく分からないだろうし、返しにも困るだろう。


 問題はここからだった。その場にいた咲葉はマリアの言葉を聞いて突然走って教室を出ていってしまったそうだ。

 なぜあいつが出て行ったのかよく分からないが晴人曰く、「緊急避難警報が発令された」とのことだった。まったく意味が分からん。



 話し終えた晴人は俺を廊下の隅に連れ出すとすごい剣幕で問い詰めてきた。


「さっきも聞いたけどマリアさんの許嫁ってのは本当なの?」


「ああ、そうらしい。俺も今日の朝知ったからよく分かってないんだ。ただ親父が勝手に決めたことで、結婚するかしないかは自由って言ってた」


「獅童は結婚する気あるの?」


「いやいや、俺はマリアのことまだ良く知らないし、親父が決めたことなんかに従いたくないからな」


「じゃあしないってこと?」


「多分そうだと、……思う」


「そうなんだね! うんうん」


 晴人は嬉しそうに頷くと俺の持っていたおしるこを取り、咲葉に渡してくると言って去っていった。

 

 再び俺が教室へと戻るとマリアが申し訳なさそうに平謝りしてきた。

 まあ彼女もワザとバラしてしまったわけではないので怒っているわけではないが、これからが大変そうだ。


 現に今こうしてマリアと話しているだけで男子からは嫉妬の女子からは疑念の眼差しが送られてくる。

 人の噂も七十五日、そのうち落ち着くまで待つしかないのだろう。


 そうこうしているうちに昼休みも終わりに差し掛かると、晴人に連れられて咲葉が戻って来た。


「お前どこ行ってたんだよ?」


「そりゃもちろん体育館だよぉ! 緊急避難警報がビビビッと聞こえてきんだから」


 言ってること全く分からんがいつも通りの咲葉だ。

 彼女は手に持ったハンカチをそっと胸ポケットに仕舞うとにひひっと笑みを浮かべた。


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