5.転校生はもちろん……
チャイムがなり、一斉にみんな席に着き始める。
先生が入ってくると先程のがやがやと喧騒感漂う教室から一気に水を打ったように静かになった。
俺は一番後ろの窓際の席だ。
目の前には先程職員室から戻ってきた咲葉がいる。
咲葉は振り返ると小声で「転校生来るらしいよぉ! 宇宙人かな? そうだといいなぁ! わはぁ」とか訳のわからないことを言っていたが、マリアが魔王の娘なだけに俺はツッコむ気すら起きなかった。
「みんなおはよう! 今日はこのクラスにお友達が増えることになりました。じゃあ入ってきて」
教室の戸が開き、案の定マリアが入ってきた。
金色の美しい髪の毛が歩くたびに大きくたゆたう。先程の浴衣姿もかなり魅力的だったがセーラ服姿もかなりかわいい。前髪にはキラリと光る小さい星型の髪飾りをしている。
そんなマリアの見た目にクラスのみんなも感嘆の声を上げた。
しかし忘れてはいけない。彼女には小さいが角が生えているということを。
みんなそれに気付き、大いに驚くに違いない。
……ってあれ? 角が生えてない。生えないぞ!
逆に驚いている俺を見て、マリアは小さく手を振った。
彼女は教壇に立つと自己紹介を始める。
「みなさん、初めまして。外国から来ましたマリア=サタミニアと言います。まだまだ日本には不慣れなので仲良くしていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
完璧な見た目に完璧な自己紹介。
魔王の娘恐るべし。
クラスの男子はすでに彼女に夢中になっていそうだ。
「マリアさんは海外生活が長かったそうなので、みなさんいろいろ助けてあげてくださいね。席は聖君の隣で」
「はい。もちろん」
なんだこのテンプレ的な展開は。
数ある席の中でなんで俺の隣に……。
闇の力を感じる、感じるぞ。『もちろん』って言ったし。
マリアはにこやかに微笑みながら俺の隣の席に座った。
「獅童くん先程ぶりです」
「マリア、角はどうした? お、折ったのか?」
「あぁ! それで驚いていたのですね。人間界では目立ちすぎるので魔法で見えないようにしました」
「なんでもありなんだな魔法ってやつは」
「ふふっ、そうですね。でもここに来たからにはなるべく使わないように頑張るつもりです」
「何を話しているのかね二人とも! 私も混ぜなさーい! ってマリアちゃんとシドは知り合いなの!?」
小声で話していた俺達に咲葉が大声で割って入った。
当然振り返るみんなとねめつける先生。
「コホン。佐山さん。静かにしてくださいね」
「へ、へい。すいません」
咲葉はそう言って謝るとそのまま1限目の英語がスタートした。