4.幼馴染は変わった子
急ぎ身支度を整えると俺は家を飛び出し学校に向かった。
温々と温かい春の向かい風を全身に受けながら全力で走る。
勇者の息子だと言うのに俺は運動が得意ではなかった。
並以下の体力と言っても過言ではない。
これも封印のせいなのだろうか?
そんなことを考えながら膝に手を付き、肩で息をしながらどこか霞んで見える朧気な春空を見上げた。
「あれれ? シドがギリギリに登校するなんて珍しいね」
「あん? なんだ咲葉か。お前は相変わらずギリギリなんだな」
茶色いショートヘアー、前髪に太陽を模った髪留めをしている彼女の名は佐山咲葉。
小学校からの幼馴染で、常に笑顔を絶やさない運動バカの元気少女だ。
俺は小さい時からのあだ名でシド呼ばれている。
「ここで会ったが百年目! どっちが学校に早くつくか勝負だぁ!」
「同じクラスなんだしほぼ毎日会ってるだろうが。だいたい俺が足の速さでお前に勝てるわけないだろ。って人の話しを聞けよ!」
咲葉は俺の話を聞くこともなく、バビューンと言いながら勢い良く走り出した。
彼女は途中チラリと振り返り、
「いつも通り負けたらジュース奢りね」
と言ってまた駆け出した。
ぜぇぜぇと息を切らしながら走る俺と遠ざかっていく咲葉。
こいつは昔からこんな性格で小さい時から俺は振り回されていた。
雪男を探すと言って無理矢理冬山を一緒に登らされたり、プロレスラーになると言って技の実験台にさせられたりしていた。
咲葉に遅れること数分。
校門前に到着すると息一つ切れていない彼女が仁王立ちしながらカップラーメンを啜って待っていた。
「遅いぞシド! カップラーメン食べる? なんと豚骨スープだよぉ!」
「いらねーよ! てかどっから取り出したんだよ、そのラーメン。まったく少しは手加減しろよ」
「昔のことわざでもあるようにライオンは兎を狩るときが一番楽しいんだよ!」
「ただの弱い者イジメじゃねーか! 全力を尽くすだろ。まあお陰でなんとか間に合ったな」
「でしょー、ジュースよろしくー」
「へいへーい」
俺と咲葉が教室に到着するとなにやらみんな騒がしい。特に男子が。
教室をキョロキョロと見渡していると親友の高山晴人に声を掛けられた。
晴人は俺と咲葉の幼馴染だ。
中性的で落ち着いた見た目と性格の彼は、暴走する咲葉のブレーキ役でもあり、俺の性格をよく知る理解者でもある。
「おはようシド、咲葉。シドが咲葉と一緒に来るなんて珍しいね」
「おはよう晴人。ちょっといろいろあって遅れそうになった時にこいつがいてな」
「ハルちゃんおっはよぉ! 早速だけど豚骨ラーメン食べる?」
「ホントに早速だね、あはは。それより咲葉、今日日直だから職員室行かなきゃだよ」
「わぁ、そうだった! シド、ラーメンよろしくー!」
のびかけのラーメンを渡された俺は捨てるのも、もったいないので食べることにした。
パンチの効いたドロドロスープが胃にのしかかる。
朝からこのラーメンはやばい……。
ラベルを見ると『特濃! ドロドロの極み! ドロドロは正義だ!』と書いてあった。
「なんか頭悪くなりそうなラーメンだな」
「確かになんかやばそうだね。それよりシド。今日このクラスに美人な転校生が来るらしいよ」
「それでみんなざわざわしてるのか」
転校生は恐らくマリアのことだろう。
もう情報が流れてるとはこの学校の管理体制はどうなってるんだか……。
それにしてもいくら美人な見た目をしていても頭には角が生えてるんだぞ。
みんなが普通に接することができるとは思わないのだが。
「どんな人なんだろうねぇ? ちょっと僕も楽しみだな」
魔王の娘なんだよねぇー、と言えるはずもなく俺は苦笑いした。