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31.赤の魔術集団との戦い〜聖剣の力を舐めるなよ〜

「まったく、あいつどこに行ったんだよ」


 地理感覚のまったくわからない土地では見失ったキリカを探すことなど不可能に近い。

 ましてやあいつは空を飛んでる可能性すらある。


 打つ手のない俺は壁にもたれ掛かるとポケットからスマホを取り出す。

 連絡帳を開くと母さんの番号をタップした。

 もちろんスマホの画面に映っている電波のアイコンは圏外になっている。

 それでも縋るしかない。もしキリカが呟いていたのがさっき聞いた赤の魔術集団のことであれば、あいつは戦いに行ったってことだ。


 キリカの戦闘能力は分からないが、これまでの魔法を使っている姿から言ってかなり弱いのは確実だろう。

 早く見つけなければ……。頼む、なんでもいいから繋がってくれ!


──プップップ、プルプルプル、ガチャ


「どうしたの獅童?」


「つ、繋がった!」


「ああ、この世界同士なら──」


「説明は後でいい母さん! キリカがいなくなった!」


「いなくなったって?」


「多分だが赤い魔術集団を見かけて、追って行ったんだと思う」


「なんですって! あいつらがなんでルーゼン共和国に……。獅童、私もすぐ向かうからあんたは大人しく」


「俺も探す! キリカの母さんを殺したヤバいやつらなんだろ。なら早く助けなきゃ」


「バカ言ってんじゃないの! あんたの封印が解けたからって容易く勝てる相手じゃないのよ」


 そんなに強い集団なのか……。

 ならより一層問題だろ。戦わなくてもキリカを連れ帰ることだってできる。

 母さんが殺されて、娘も殺されたんじゃ……そんなの浮かばれねーだろ。


「ごめん! 母さん! たまにはわがままくらい聞いてくれ。じゃ」


「し、獅童」


 俺は通話を切ると聖剣を取り出し無我夢中で走り出した。

 路地裏という路地裏を見回り、石畳を強く踏みしめて駆け抜けていく。

 くそっ。もっと早く、もっと早く走れれば。

 焦る気持ちに全身から汗が吹き出す。


──バゴォーン


 何かが爆発したような轟音が西の方角から聞こえてきた。

 民家から人も一斉に飛び出てきて、一気に街中は騒然となった。

 

 まさか……。


 サーッと体から血の気が引いていく。

 とにかく今は向かうしかない。バクバクと心臓が早鐘を打ち、早くなる呼気を抑えるために一回大きく深呼吸すると全力で音がなった方向に駆け出した。



 音が鳴った場所は魔法学校のすぐ側だった。

 地面は大きくえぐられており、爆発の大きさが目にみて分かる。

 

 先に進むと外堀の外壁に向かって列を成している赤いローブを着た集団が見えてきた。

 やはりキリカの言っていた赤の魔術集団だろう。


 俺は背を見せる彼等に後ろから思いっ切り蹴りを入れた。

 これが間違いだったら土下座ものではあるが、倒れた男から見えて来た彼女の姿に俺は安堵する。


「キリカ! 大丈夫か!?」


「し、獅童! なんで!?」


 相手は軽く見積もって12人はいる。

 ただ剣などの武器を持っているものはいない。

 魔術には術式を組み上げる間の多少タイムロスがある。

 もしかしたらいけるかもしれない。

 

 驚いて目を見開く左右の魔術師を殴り飛ばすと俺はキリカの手を取って包囲網から抜け出した。


 しかし事は上手く行かない。

 魔法学校からぞろぞろと赤いローブを纏った者たちが次々にでてくる。


「ちっ、どうすればいい……」


「ごめん。こんな事に巻き込んで……」


「謝る暇があったら逃げる方法を考えてくれ。さすがこの人数を倒すのは無理そうだ」


(汝は聖剣の力を舐めているのか?)


「久しぶりに喋ったな聖剣。別に舐めてないが、さすがに奴らに魔法打ち込まれたら死ぬだろ」


(聖なる力は魔をも凌駕する。すべて切り崩せ)


「剣で受け止めろっていうのか。どうせそれしかないんだ、やってやるよ」


「獅童、なに独り言言ってるの? って火炎魔法撃ってきた!」


 渦を巻いて迫りくる炎を聖剣を構えて待つ。

 目前に迫りくる灼熱の炎に俺は思いっ切り聖剣を振りかざすとタイミングを合わせて振り下ろした。


 真っ二つになった火炎魔法は俺と背後にピッタリとくっつくキリカを避けて後方に飛んでいく。


 これが聖剣の力か。

 もしかするとなんとかなるかもしれない。


 驚きおののく赤の魔術達。

 ただ問題はキリカだ。

 この人数をすべて倒すのはかなり時間がかかる。

 それは彼女を庇いながらできる事ではない。


「キリカ、俺に乗れ!」


「へっ? 負ぶさるってこと?」


「ああ、しっかり捕まれ」


「ええ! でも、そうゆうの、私、恥ずかしいというか……なんというか」


 人差し指をクリクリといじり頬を朱に染めるキリカ。

 

「そんな事を言ってる余裕ないだろ。早くっ!」


「ええいっ! 胸だってこれから大きくなるんだからね」


 フニュっと小ぶりで柔らかな感触が背中に伝わる。

 まぁ……。これはこれでなんかいい感じだ。うん。


「さー、やってやるよ、魔術師風情がぁぁ!」


 剣を鷹揚に構えると集団目掛けて突っ込んだ。

 

「殺さない程度にできるか?」


(わからんが、やってみよう)


 まずは1人! 2人! 3人! よにーんっ!

 術式構築が終わる前に順調に敵を倒していく。

 陣形が崩れた赤の魔術集団はバラバラと散らばると、体制を整えるため外壁に集まりだした。

 

「んー、その聖剣、君は勇者の息子かなんかなのかな? 実に見事だ」


 その声に振り返ると、赤髪の男が手を叩きながら近づいてきた。


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