3.どうやら俺は勇者の息子らしい
「さあ親父、すべて話してもらおうじゃないか。そもそも許嫁ってなんだよ」
「その前にお前に知ってもらわなければいけないことがある」
普段チャラチャラと適当な表情しか見せない親父が少し真剣な表情になり、俺は息を呑んだ。
「俺、実は異世界で勇者って呼ばれててな。だからお前は勇者の息子だ」
いきなり告げられた勇者の息子宣言。それに俺は困惑の表情を隠せなかった。
ごく普通の家庭で生まれ育ったと思っていたのに勇者の息子と言われて信じることができるだろうか。いやできるはずがない。
「いや、ちょっと待て、俺が勇者の息子だって!? そもそも親父が勇者って証拠はあるのかよ」
「証拠? んじゃ俺の右手を見てろ」
そう言うと親父の手が閃光を放ち、光に包まれた。
徐々に光は長細くなっていき剣の形を成していく。
そして光が晴れると手には大剣が握られていたのだ。
「どうだ、カッコイイだろ! 聖剣デュランダルだ。これは勇者に与えられし聖剣であり、俺が勇者である証拠だ。ほしいか? ほしいか? やらんぞ〜」
クソうぜぇ。
自信満々にドヤ顔する親父はムカつくが、この不思議な光景を見たら信じざるを得ない。
「っていうか圭吾。獅童くんには勇者であることも話してなかったのか」
「お前達が来る前に伝えようと思ってたんだが、小説の締め切りが近くて忘れてた。あはは」
「あははじゃねーよ親父! それでなんで勇者の息子の俺と魔王の娘のこの子が許嫁なんだ? 普通勇者と魔王って戦うものだろ?」
「ちょっと色々事情があってな」
親父はそう言うと話を続けた。
勇者と魔王。戦うことが宿命づけられた2人は当初異世界で長きに渡り戦っていたらしい。
5年ものなかったの長い歳月を費やしたが結局決着が着くことはなかったそうだ。
適当な性格の2人は徐々に戦いに飽きていき戦うことを辞めた。
そして月日が経ちそれぞれ嫁と子供を授かった時に再び再会したのだ。
意気投合した親父とサタンは人族と魔族が今後争うことがないように自分達の息子と娘が年頃になった時に再び会わせて、結婚させようと画策した。
それが俺、聖獅童と彼女、マリア=サタミニアだ。
「もし俺とこの子が結婚しなかったら異世界はまた戦争が起きるというのか?」
「いや、それはない。俺達が戦う気がないからな。何かあっても暴走した一部過激派が小競り合いするくらいだろうよ。だからまあお前達2人がどうするか最終的に決めればいい。ただ……」
「ただ?」
「勇者の息子と魔王の娘の子供が生まれたらどれくらい強いのか興味はある!」
そんな意味のわからん興味のために結婚なんかできるか!
それにこれだけかわいい子だ。俺のことを好きになってくれるなんてことはないだろさ。
「君も俺と結婚なんて嫌だろ?」
「獅童くん。私のことは昔みたいにマリアと呼んでください。私は……」
顔を紅潮させ、恥ずかしそうに肩を竦めてもじもじするマリア。
なんだこの反応は。
こんな俺でもいいということなのだろうか……?
それに昔みたいって、会ったことない筈なのに。
「あぁ、これも言い忘れてた。お前の昔の記憶は偽りの記憶だ」
「おい、なんだよそれ」
「実は母さんは大魔導師でな。お前がこの世界で普通に暮らしていけるように本来の力とスキルを封印したんだ。それの副作用でお前の小さい時の記憶が、ちょっとおかしくなっちまったって訳だ。あはは」
自分の息子の記憶がおかしくなったって事を笑いながら話す親がいるだろうか? こいつ後でぶん殴る。
「そんなに怖い顔するなよ獅童。封印って言っても完璧じゃあない。お前が力を欲したら解除されるようになってる。そしたら記憶も少しは戻るだろうよ」
「それで今封印を施した母さんはどこにいるんだよ? 滅多に帰ってこないけど」
「母さんは異世界で魔法学校の校長やってて忙しいから、なかなか帰って来れないんだよ。とりあえず話してなかったことはすべて話した。あとはどうするかは2人が決めてくれ。じゃ、父さんとサタンはまた飲みに行ってくるから学校遅れるなよ」
親父の言葉で時計を見るとすでに家を出る時刻を回っていた。
「やべぇ。学校遅れる!」
「わ、私もです! 獅童くん、また学校で」
「へっ? 学校で?」
学校で、ということはもしやマリアは……。
「あーすまねえ獅童。これも伝え忘れてたが、マリアちゃんは今日から隣の家に引っ越してきて、お前と同じ学校に通うことになったからよろしくな」
まだまだ起きそうな波乱に俺は深くため息をついた。