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29.無事に着陸できた獅童は命の大切さを知りました

「獅童久しぶりね。元気にしてた? まあ募る話はあるけど……。キリカ、あなた飛行魔術ってちゃんと試験合格してたっけ?」


「いや、あの……着陸はまだで」


「そう、構内規則で試験を合格していない者はその魔術の使用を禁ずるということは覚えているわよね」


「そ、それはもちろんですよ。私もこの魔法学校の生徒なんだし。あはは」


「そうよねー。この魔法学校の生徒だものねー」


 母さんの顔がどんどんと曇っていき、最終的には般若の形相に進化した。

 やっぱこの人めちゃ怖い。

 

「じゃあ、術式変換して着陸してもらえる? もちろん呪文詠唱はありでいいから」


「お、おい俺が乗ってるんだぞ」


「お黙り獅童! そんなの百の承知よ。キリカ、早くやりなさい!」


 おいおいちょっと待てよ。

 マジかよ。

 失敗したら死ぬぞ。本気で死んじゃうって。


「し、獅童、私たち運命共同体ということでよろしくね」


 震える声で半泣きになりながらキリカはこちらを振り返った。

 これはもう失敗は目に見えてるだろ。


「落ち着けキリカ。お前ならできる! 俺がいるんだぞ、いや俺がついてるんだぞ。大丈夫だ」


「なにを根拠にそんなことを」


 あーくそ。

 魔法のことなどさっぱりわからんがこいつの不安を取り除くことくらいできるだろ。

 俺は箒を持つキリカの両手を上から握り締めると、わざとらしく褒め称え少しでも自身を持ってもらおうと言葉紡いだ。


「よし、行けるか?」


「う、うん。やってみる」


 キリカはゆっくりと落ち着いて呪文を詠唱すると術式に変化を加えた。

 どうやら魔術というのは数学に似ているらしく、基礎となる術式公式がたくさんあってそれらに応用の変化を加えることで様々な魔術を体現できるらしい。

 頭の悪い俺には到底使えそうにない代物だ。


 詠唱を終えたキリカは箒に手を当てると、フリーフォールのように地面に向かって落ちていく。

 

「ぐあぁぁぁ、し失敗なのか」


「まだっ! 獅童。手を握って!」


 言われた通りにキリカの手を握ると彼女は再び詠唱を初めて再構築した術式を箒にタッチした。

 その直後、落下速度は弱まり、パラシュートがついたみたいにゆっくりと下落してく。

 そして無事地面に着陸した。

 助かった……。


 ホッとしたのもつかの間、先に地面に降りていた母さんはキリカの頭をゲンコツで強く叩いた。

 

「い、痛ーっ」


「まったく、何かあったらどうするのよ!」


「すいませんでした」


「まあ、母さんそれくらいにして」


「獅童あなたも乗ってたのだから同罪よ。頭出しなさい」


 母さんはそう言うと俺の頭を思いっきり叩いた。

 正直キリカより力がこもってたきがするぞ。

 理不尽すぎる……。


「キリカ、あなたはちゃんと落ち着いてやればできるのよ。だから急いで術式を作り上げることをしないで冷静に、一呼吸置いてからやりなさい」


「は、はいっ」


「じゃ、獅童校長室に案内するからついて来なさい」



 広い構内を抜け、一軒ポツリと佇んでいる小屋に到着すると俺とキリカは中に入った。

 学校はめちゃくちゃ洋風の雰囲気なのに、この小屋はなぜが和風で掛け軸や骨董品みたいな壺、囲炉裏まである。


「こ、これ校長室なの?」


「そうよ。私和風なものが好きでね。ってあんた知ってるでしょ」


「ああ、まあ知ってるけど。なんか魔法学校に似合わないな」


「そう? まあ二人とも座って頂戴」


 俺たちは囲炉裏の前に座ると佇まいを正して、改めて母さんと対面した。

 

「キリカ、獅童を連れて来てくれてありがとう」


「いえいえ、ちょっと強引でしたが」


「いや、だいぶ強引だっただろ。多分今頃みんな心配しているぞ」


「大丈夫よ。桃奈に連絡してマリアちゃんに伝えてもらったから」


「そっか、なら良かった。それで俺をわざわざ異世界にまで連れて来てなんの用だよ」


 そう言うと母さんはより姿勢を正して──土下座した。

 初めてみるその姿に俺は思わず狼狽える。


「なんだ! なんなんだよ一体」


「私は獅童に謝らなければいけないことが二つあるわ。一つは封印のこと。もう一つは許嫁のこと」


「いや、まあ封印のことは確かに驚いたし、不満もあったが今はいいって。それにマリアのことはちゃんと親父に聞いてるし、どうするかは俺で決めるから」


「いや、あのね。許嫁はマリアちゃんもだけど、その……」


 母さんは言いにくそうに視線を逸らすとキリカを指差した。

 まさか、キリカも俺の許嫁、なのか。


「私ね、キリカのお母さんと昔から仲良くてね。彼女が亡くなる前に約束したのよ。息子と娘を結婚させようって」


「おい、マジかよ。てかキリカはそれでいいのかよ? 本人の意思が大切だろ」


「わ、私は、その昔獅童にプロポーズされたし、別に構わないわよ。……私のママが決めたことだし」


「そ、そうゆうわけでよろしくね獅童! あんたなら立派な種馬、いや立派な旦那になれるわよ」


「今母さん、種馬って言っただろ! はぁ……。とりあえず高校卒業までにどうするか、どうしたいかってのを決めるからそれでもいいかな? マリアにもそう言ってあるし」


「わかったわ。それともう一つお願いがあるんだけど、キリカと一緒に隣国に行って、そこの魔法学校にこの書類を渡して来てもらいたいの」


 ついでにお使いというやつですか。

 まあ、まだまだ異世界を堪能してないし色々見てみるのはいい機会かもな。


「わかったよ。じゃあ早速行こうぜキリカ」


「はぁ、獅童ってあんだけ歩いたのにまだ元気なのね」


「そりゃ、封印も解けて体力だけはあるからな。じゃ、母さん行ってくるよ」


「気をつけて行くのよ。後渡して来たらまたここに戻って来て。日本に戻れるゲート開けてあげるから」


 こうして俺たちは隣国のルーゼン共和国に書類を渡しに向かったのだった。

 

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