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27.サキュバスの娘は恥ずかしがり屋なのです

「だ、誰だよお前は?」


「やっぱり覚えてないんだ。あんたのお母さんが言ってたこと本当だったのね」


 そう言って漆黒の黒色のビキニに身を包んだ女はイスに座りながら気取った様子で脚をゆっくりと組み替えた。

 その姿は先程のマリアではなく、まったく別人の姿をしている。

 特徴的なのは背中に小ぶりな、コウモリに似た羽が生えていることだ。

 

「俺の母さん? 一体どうゆうことなんだよ」


「まあそれは後々話すとして、覚えてないなら自己紹介させてもらうわ。私はサキュバス族のキリカ=サキュソバス」


「サキュバス? サキュバスってあの、その、ちょっといやらしいやつか」


「な、何言ってんのよ! そりゃ、まあちょっと吸い取ったりするかもしれないけど誰でもすると思ったら大間違いなんだからねっ!」

 

 キリカは顔を真っ赤にしてそう言うと本を棚から取り出した。

 ゆるく、ふわりとした銀色の巻髪に三日月の装飾がされた青色のカチューシャ。

 少し幼さを感じさせる顔立ちと未発育なスタイル。

 セクシーさはまったくなく、サキュバスというのにこれでは完全に名前負けである。


「獅童、ちょっと一緒にこの本を呼んでほしいの」


「本? なんでいきなり本なんだよ」


「いいから読んでよ! ちゃんと日本語で書いてあるから大丈夫」


 こうして俺達は何故か音読することとなった。



「あ……あっ、すごくいい。もっと舐めて……」


「もうこんなになってるじゃないかキリカ……。舐めるよりほしいものがあるだろ?」


「もうっ、獅童の意地悪。それはも·ち·ろ·ん──」


「あー! なんだよこの三流作家が書いたみたいなベタなエロシーンわ!」


「なっ! なんですって! 人が丹精込めて書いたかんのうひょうせつを」


 噛んだぞこいつ。

 よっぽど動揺してるんだな。

 それにしてもなんで俺がこんなよく分からんことに付き合わなきゃならんのだ。


「こんなことして楽しいのか?」


「しょ、しょうがないでしょ! 私サキュバスだけど実践とか無理だし……こうゆうことでしか欲求を解消できないの! 私だって悩んでるんだからねっ!」


 恥ずかしがり屋のツンデレサキュバスか……。

 なんというかちょっと同情しちゃうくらいかわいそうかも。


「そ、そうなんだ。まあなんていうか、また気が向いたら付き合ってやるよ」

 

「ほ、本当に!」


 それを聞いたキリカは嬉しそうに飛び跳ねた。

 純粋に喜ぶ彼女は特に悪いようには見えないし、俺を拐ったのも止むに止まれぬ事情があるのだろう。

 

「それでずっと気になってたんだが、ここってどこなんだ?」


「気になる?」


「そりゃ、まあお前の家ってことはわかるけど日本なのか?」


「残念! ここは異世界、ラルフド王国でした」


「い、異世界だとぉぉぉ!」


 かくして俺は今日初めて異世界の地に思わぬ形で足を踏み入れたのだった。

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