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26.勇者の息子、誘拐される

  俺は咲葉が挨拶を返してくれたその日に2人と約束を交わした。

 マリアと咲葉、どちらかを選ぶなんて今はまだできないし、好きな人がいるかと聞かれもはっきりと答えることはできない。

 ただ2人が俺の胸を騒つかせる存在になっているのは本当で、気になる奴といった方がしっくりくるかもれない。

 俺のわがままではあるが、2人には待ってもらうことにした。

 高校卒業までに、どうしたいのか、どうするのかをはっきりと決めるということだ。

 幸いなことに2人は納得してくれて、その時まで返事を保留にしてくれると言ってくれた。

 無論なにも決めることができない自分が悪いということは重々わかっている。

 ただこんな状況でもいつも通りの笑顔を見せてくれた2人に俺はすごく救われた。


 季節は梅雨に入り、夏の訪れをまだ見ぬ空は今日も暗雲が立ち込め、絶え間なく雨を降らせ続けている。


「はい、みなさんおはようございます。林間学校も終わり、もうすぐ中間テストがあります。雨続きで気分も盛り上がらないと思いますが頑張って勉強に励みましょう」


 テスト、それは学生たるもの裂けては通れぬ試練で日頃特に勉強していない俺にとっては難所とも言えるイベントだ。


 頭のいいマリアや晴人はもちろん楽勝でパスするだろう。問題は俺と彼女だ……。


「シド……。二次関数ってなんだっけ?」

 

「二次元的な関数みたいなやつだろ。多分三次元の俺達の世界には存在しないみたいな感じじゃないか」


「ほぉー! なんかオタクの人達が好きそうだねっ!」

 

「獅童くん。全然違いますよっ?」


「なっ……。そうなの? てか咲葉、それ1年の時の教科書だろ」


「へっ、そうなの!」


 こんな感じで俺と咲葉は勉強に苦戦を強いられていた。

 もっとも普段から勉強していないのが原因で自業自得ではあるのだが。


「シドと咲葉は今回もかなりやばそうだね」


「うぅ……。陸上部赤点取ったら坊主なんだよっ。やばいよハルちゃん。私尼さんになっちゃうよ……」


「いや、さすがに女子はないと思うよ。まあでも僕たち文系にとっては数学は一番鬼門だよね」


「晴人、勘違いしてるぞ。数学だけじゃない全教科鬼門だ」


 晴人は呆れたように頬を掻いて苦笑いすると思い出したかのように手を叩いた。


「みんなで勉強会しよっか。マリアちゃんもかなり頭いいし、僕も教えれるとこは教えるから」


 それは助かる、助かるぞ。

 マリアと晴人がいれば鬼に金棒。いや、勇者に聖剣といったところだろ。


「じゃあ、今週末に駅前のファミレスとかでどうだ? 家だと遊んじゃいそうだからな」


「確かにそのほうが勉強はかどるかもね。そうしよっか」


 こうして俺達は週末に勉強会をすることとなった。



 ──週末。

 

「桃奈、おはよう」


「マリアさんいらっしゃい。どうしたの?」


「今日獅童くんと勉強会することになってまして」


「あのバカ兄……。まだ起きてないから起こしてくるよ」


「あぁ、大丈夫。私が起こしてくるから」


「そう? じゃあお願いしちゃおうかな」



「獅童くん、起きてください。みんな来ちゃいますよ!」


「ん……っ。吉田、もう一回、もう一回勝負だ」


「おーい、起きてくださーい。んー、あっ、そうだ獅童くんならこうすれば……。よいっしょ、えいっ!」


 寝ている俺の顔に覆いかぶさったのは柔く、生温かい感触だった。

 そうこれはマリアと出会った時の……。って死ぬ死ぬ!


「んー、んー、んっー!」


「あっ……、だめですよ、獅童くん。そんな動いたら」


 俺はマリアの肩を掴むと腹筋に力を込め起き上がった。


「ぷっはぁ、ま、マリア! お前な……あ」


 白のブラウスのボタンを大胆にも3つほど外し、ピンク色のブラに包まれた豊満な胸の谷間が見えている。

 さっき俺に当ってたのはおっぱいなのか? ああ、おっぱいだな♪


「ご、ごめんなさい。大丈夫でしたか?」


「あ、ああ。なんていうかその、ご馳走さまでした」


「え? お、お粗末様でしたぁ」


 俺達はそう言うと、意味もなくお互い頭を下げてクスクスと笑いあった。

 マリアと出会って1ヶ月。

 これからも彼女とまだまだたくさんの思い出を作れるとおもうと無性にうれしく思えた。


「それより獅童くん、早く準備しないと待ち合わせに遅れますよ」


「あ? やべっ今日勉強会だったか。昨日吉田とゲームしすぎてすっかり忘れてた」


 俺は急ぎ準備を済ませるとマリアと一緒に待ち合わせの駅前に向かった。

 その途中に教科書やノートを丸々忘れたことに気付き、マリアを先に駅に向かわせると俺は家に取りに戻った。


「くっそ。やっぱり余裕ないと忘れ物するよな。ってマリアなんでこんなとこにいるんだ? それにその格好……」


「へっ? うわぁー!」


 家に戻る道中に不思議なことに駅に向かったはずのマリアに出会った。

 しかも服装は大胆過ぎる黒のビキニ姿だ。しかも先程は着けてなかった三日月の装飾を施したカチューシャを着けている。

 彼女は俺に気づくと驚いたように叫び声を上げた。


「し、獅童。どうしてここに」


「はぁ? さっき言っただろ? それよりマリアこそなんでここにいるんだよ?」


「道に迷って、適当に歩いてただけよ」


「そう……なのか。だが格好はまずいだろ?」


「ど、どこがまずいのよっ!」


「いや、そりゃ街中でビキニはダメだろ!」


「よくわからないわね。でも獅童に会えて良かった。あんたを連れ去る予定だったから」


「どうゆうことだ?」


「こうゆうこと」


 マリアはそう言って俺の手を取ると注射器を腕に突き刺した。

 それから視界は真っ暗にフェードアウトしていきその後のことは覚えていない。

 


 目が覚めると視界には見知らぬ天井が見えた。


「獅童、久しぶり」


「だ、誰だお前は……」


 この日俺は誘拐された。

 この見覚えのない女は一体誰なのだろう。

 

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