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25.咲葉の揺れ動く想いとそれから……

 林間学校から1週間が経った。

 私はあれからシドとマリリンとは話していない。

 

 混乱していた心は落ち着いて、また普通に話せればと思っているのにどう話かければいいか分からなくて日にちだけが無情にも過ぎて行く。

 一本杉で私があの場を立ち去った後にマリリンが部屋に来た。そこでシドが勇者の息子であること、マリリンが魔王の娘であることを教えてくれた。


 異世界だなんて正直信じられた話ではないけれど、マリリンの角と魔法を見せられて否が応でも信じることができた。

 そしてシドの小さい時の記憶が封印とやらで完全に戻っていないことも。

 きっと優しいシドはそのことで悩んで、罪悪感を感じているに違いない。そう心の中で分かっているものの受け入れることができなくて、どうすればいいのか分からなくて……。


「咲葉、お邪魔するよ」


「ハルちゃん、来てくれてありがとう。ささっ、入って」


 私は悩み事があると親友のハルちゃんに相談する。

 だいたいがシドのことで聞き飽きてると思うけど、彼は嫌な顔一つせずに真剣に相談に乗ってくれるのだ。


「もう1週間だよ。そろそろなんか話したら? マリアちゃんからも事情は聞いたんでしょ?」


「いや、どう話せばいいか分からなくて。てかハルちゃんは実際にマリアちゃんの角とか魔法見てないのに良く信じられるよね」


「僕はマリアちゃんってより、シドの方だね。いきなり昔みたいにすごく運動神経良くなったし、風呂を覗いた時、高いところから落ちてもピンピンしてたからね」


「そっかあ。唐突だけど結局私ってどうすればいいんだろ?」


「本当に唐突だね。んー咲葉はシドのこと好きだよね?」


「そ、そりゃもちろんだよっ! でもさ、私のアドバンテージなくなっちゃったんだよね。マリリンは許嫁でプロポーズされてるけど、私はプロポーズされただけなんだよっ。得点で言ったら2対1なんだよ……」


 そう私は完全にマリリンに負けている。

 今まではマリリンは許嫁で私はプロポーズの相手ってことで自分が少しだけ有利なんじゃないかと思っていたけど今回の一件で一気にその自信は崩された。


「そんなアドバンテージなんてあっても最終的にどうするのかはシドだからね。マリアちゃんは一夫多妻とか言ってたけど、そこはどうなの?」


「んー異世界では良くあることなのかもしれないし、この世界でもそいゆう国あるんだろうけど私にはわからないよ。だって好きな人が他の人といちゃいちゃしてたら嫉妬しちゃうし、傷つくでしょ」


「まあ確かにそうだよね。でもそれはマリアちゃんも同じなんじゃないかな?」


 ハルちゃんはそう言うと絵日記帳を取り出した。

 

「林間学校での日記なんだけど、バスや飯盒炊飯の時のマリアちゃんなんだけどシドのことずっと見てて、すごく悔しそうな顔してたよ。やっぱり嫉妬しない女の子なんていないんじゃないかな?」


 そうなんだ。マリリンはシドが私のこと好きでも構わないって言ってたけど、そんな嫉妬なんかも全て受け入れてシドと一緒にいたいと思ってるんだ。

 やっぱり私、負けてるのかな……。


「ハルちゃんはさ、好きな人とかいないの?」


「きゅ、急にどうしたの? ぼ、僕は、その、なんて言うか、叶わぬ恋だからさ」


「叶わぬ恋? き、気になるよハルちゃん! 教えてよ!」


「ええ、嫌だよ。恥ずかしいし、その、なんて言うか変だから」


「変? 人を好きになる気持ちに変とかそんなの無いよっ! もしかしてハルちゃんもシド狙いかっ!」


「……」


 えぇー、嘘! 冗談で言ったつもりだったのに。

 俯いて黙り込むハルちゃんは乙女そのものだった。

 私はバカだ。知らなかったとはいえ、ずっと好きな相手の相談をし続けていたのだから。ハルちゃんにとってもそれはすごく辛かっただろう。


「ハルちゃん、今までごめんね」


「いや、僕はもう無理だって分かってるし、踏ん切りも結構前につけて諦めてるから気にしなくていいよ」


 そう言って照れ臭そうに笑ったハルちゃん。

 諦めるって行為は私には想像できないくらいすごく辛かったんだろうな。

 考えるだけで胸が痛む。

 

「だからさ、咲葉は頑張ってよ。シドがどうゆう結果を出すのか分からないけど僕は自分の諦めた恋の分まで咲葉のこと応援してるからさ」


 この時、私は決めた。

 シドがどんな結果を出すかわからないけど、必ず彼に好きになってもらおうと。


「ありがとう。ハルちゃん」


──翌日の学校


「シド! マリリン! おっはよー」


「お、おう」


「咲葉ちゃん、おはようございます」


「今週から、改めてよろしくねっ!」


 こうして踏ん切りのついた私は一歩を踏み出したのだった。


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