24.修羅場に弱い俺はなにもすることができませんでした
「お、お前らどうしたんだ?」
「獅童くん。咲葉ちゃんに小さい時、プロポーズしてたって本当ですか?」
「あ、あ──」
「マリリン本当だよ! 保育園の年長の時にシドから、この髪留めと一緒に結婚しよって言われたの」
咲葉は俺の言葉を遮って強い口調で言った。
修羅場を感じさせるこの状況。
俺は何も言うことができずに、ただただ佇んでいた。
「そ、そうですか。獅童くんはそのことを覚えているのですか?」
「いや、プロポーズをしたことは思い出したんだけど、誰だかは正確には思い出せてなくて昨日咲葉に言われて初めて知ったんだ」
「じゃあ、プロポーズをした人がもう一人いるとしたら獅童くんはどうしますか?」
なっ、もう一人プロポーズをした人がいるだと……。
そうだとしたら俺はどうするんだ?
どうしたいと思うんだろう。
「すまない。分からない」
「私も、私も小さい時に獅童くんにプロポーズされたんです。そこでこの星型の髪飾りをもらいました」
「ほ、本当なのか!?」
まさか俺はマリアにもプロポーズをしていたとは……。
記憶がないとはいえ当時の俺はなんてことをしていたんだ。
「うっ、嘘だ! そんなの嘘だ! シドは私だけに……私だけにしてくれたんだっ!」
咲葉は体を震わせながら俯き、両拳を強く握りしめて叫んだ。
そんな咲葉に対抗するようにマリアも声を張り上げる。
「咲葉ちゃん。私は獅童くんが咲葉ちゃんのことを好きでも構わないと思っています。私のいた世界では一夫多妻と言うのは特別不思議なことではないので……。でも私は許嫁として獅童くんのお嫁さんになることだけは絶対に諦めたくないんです! 私も咲葉ちゃんが獅童くんを想うように、いやそれ以上に獅童くんのことが好きなんですっ!」
「わかんない、マリリンの言ってること全然わかんないよっ! ……くっ」
咲葉は泣いた声音で言うと涙を拭いながら走り出した。
「さ、咲葉! し、シド追いかけなくていいの!?」
晴人は俺のジャージを引っ張り必死の形相で伝えたが、俺はそれに応えることもできずにただ真っ暗な地面を見つめていた。
☆
どれくらいぼーっとしていただろうか。
その後、俺は宿舎に戻ると周りを遮断するように早々に布団に入った。
──林間学校最終日。
咲葉はどうやら体調を悪くしたとのことで最終日にある陶芸体験には参加しなかった。
これは俺にとっては幸いで、正直今はどんな顔して会えばいいのか分からない。
マリアと晴人も元気はなく、俺たち3人は一言も会話をすることもなく林間学校を終えたのだった。




