23.幼馴染の告白 〜絡まり始めた恋心〜
──林間学校2日目
今日は班に分かれて森林の間伐体験がある。
昨晩の女子湯覗き未遂でこっ酷く絞られた俺は一晩中正座を強いられ、一睡もすることができず寝不足気味のフワフワした気分で朝食に向かった。
「シド大丈夫? コーヒーあるよ」
「おお……ありがとう、晴人。まったく昨日は本当にバカなことをしたぜ」
「ははっ……。まあそれは否定できないね。白鳥くんもずっと一緒だったの?」
「ああ、ずっと一緒に正座してた。もっともあいつは器用なもんで正座しながら寝てたけどな」
俺は首を回しながら覇気なく言うと、まだ痺れの残る足を手で撫でた。
あぁ、なんかちょっとピリピリして気持ちいいかも……。
それにしても女子の軽蔑するような眼差しが絶え間なく突き刺さってくる。
自分でやってしまった事とはいえ、これはかなり辛い。早く飯を食べてこの場から立ち去ろう。
そう思い立つとパンを口に詰め込み、コーヒーで一気に流し込だ。
「くっはぁ! すまん晴人。俺はこれ以上残酷な視線に耐えることができない。もう行くわ」
そう言って席を立つと咲葉とマリアが手を振ってこちらのテーブルに向かってきた。
「おっはよー! シド、ハルちゃん。聞いたぞシド! 女子湯覗こうとしたんだって?」
「獅童くん、晴人くん。おはようございます。あの、私ので良ければ言っていただければいつでもお見せしたのに……」
「な、何言ってんだよ。マリア」
「わぁ! ず、ずるいぞマリリン。わ、わたしだって……」
マリアに対抗するように胸を張る咲葉。
真っ白な体操着から黄色のブラが薄っすら透けて見え、目のやり場に困る。
「二人ともシド寝てないみたいだから静かにしてあげよう。咲葉もマリアちゃんも準備とかあるでしょ」
助かったぜ晴人。やはりこうゆう時はブレーキ役の彼が頼りになる。
晴人は二人の背中を押して立ち去らせると俺に小さく笑いかけた。
☆
間伐体験の時間となり、各クラスで班に別れると林業組合のおじさん達にやり方を教えてもらう。
もっともイチ高校生がすべてをできるわけがないのでほぼほぼ見ているだけだ。
正直もう俺は眠たい。
「ねぇ、シド。バスのババ抜きの約束覚えてる?」
「あぁ、なんでも言うこと聞くってやつだろ? そういえばそれどうすんだ?」
「んーっとね。今日の夜にあるキャンプファイヤーの時に一緒に行きたい場所があるんだけど……」
「なんだ。そんなことか。別に構わないぞ」
「じゃあ、宜しくねっ!」
咲葉は小声でそう言うと林業組合のおじさんに絡みに行った。
「おじさん、おじさん! 私チェーンソー使いたいっ!」
「いやー、重いしちょっと危ないよ」
「明日は13日の金曜日だし、きっと大丈夫だよっ!」
何が大丈夫なのかさっぱりわからん。おじさんもずっと苦笑いしっぱなしである。
それにしても一緒に行きたい場所ってどこなんだろう。こんな山の中でそんなとこあるのか?
いや、待て。この状況はもしや今日俺、告白されるんじゃないか?
さすがに今告白されたとしても返しに困る。どうせマリアの時みたいに曖昧な返事しかできないだろう。だがそんなことでいいのだろうか。彼女はそれで満足してくれるのだろうか。
俺は決して決まることのない想いを無駄に巡らせながら、楽しそうにはしゃいでる咲葉を眺めた。
☆
間伐体験も終わり、その後にあった農業体験も終えると、すっかり山に日も落ち夜を迎えた。
光という光がないキャンプ場は漆黒のように暗く、森に立つ木々が巨大な怪獣のように見えてくる。
学年全員が集合すると、律儀にも点火式が行われ、ジェンガのように組み立てられた薪に火がつけられた。
そして学年主任の挨拶を終えるとみんなで『遠き山に日は落ちて』を合唱した。
「獅童くん、今日のわざをなしおえてってどうゆう意味ですか?」
「ん? 俺も知らないな。多分山籠りしてた武闘家かなんかが技を極めた、みたいな意味じゃないか?」
「そうなんですか! 修行的な歌なんですねぇ。なんかかっこいい」
「あ、ああ」
すまないマリア。めちゃくちゃ適当に言った。
そしてキャンプファイヤーは中盤を迎え、各クラスの出し物などが行われた。
俺は咲葉に後ろから肩を叩かれると、こっそり2人でその場を抜け出した。
「シド、ごめんね。もうちょっとあっちに居たかった?」
「別に出し物に興味もないしな」
告白のことを意識しすぎてか緊張して会話を続けられない。
無言の時間が続くも、心臓は今にも飛び出しそうな勢いで鼓動を刻んでおり、耳に聞こえてくるのは自分の心音と砂利を踏む音だけだ。
5分くらい歩くと大きな一本杉の下にたどり着いた。
「ついたぁー! ここに来たかったんだ」
「ここなのか? 来たかった場所って」
「うん。陸上部の先輩から聞いたんだけどね、ここでその、告白すると恋が叶うんだって……」
「そ、そうなのか」
やはり咲葉は告白をするつもりなのだろう。
俺の呼吸は少し荒くなり、心臓は速度を一気に上げて早鐘を打つ。
徐々に暗順応して来た視界には、前髪を撫でながら恥ずかしそうに俺から視線を逸らしている咲葉が見えた。
「あのね」
「はっ、はいっ! それで」
「まだ何も言ってないよシド」
咲葉は俺をそう言って少し笑うと大きく深呼吸した。
「私ね、ずっと昔からシドのことね────好き、だったの」
「そうか、あ、ありがとう」
ついに言われた好きという言葉。
その二文字の単語を言うのに彼女はどれだけの勇気が言ったのだろうか。
重く、深く、尊くい言葉だ。
「私ね、昔獅童に結婚しよって言われてね──」
──ドサッ
突然、森の中から大きな音がするとそこにはマリアと晴人2人の姿があった。




