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22.女子風呂を覗くのは定番ですね

 宿舎に到着すると早めの晩飯を済ませ、入浴時間まで自由時間となった。

 部屋割りは男子6人が1室に泊まり、エロい話をしたりトランプをしたりと騒がしい。

 幸いなことに晴人と同じ部屋になり、俺は畳の上に寝転ぶと絵日記を書いている彼に話しかけた。

 ちなみに晴人は絵日記を書くことが趣味で毎日欠かすことなく続けているそうだ。


「なあ晴人、咲葉の髪飾りって俺があげたのか?」


「急にどうしたの? あの太陽のやつだよね? 確か獅童がこっちに引っ越してきて少したった保育園の年長の時に咲葉がもらったって言ってたよ」


「やっぱりそうだったのか、プロポーズの相手か……」


「ぷ、プロポーズ!?」


「あ、いや何でもない」


 晴人がこんな反応をするということは咲葉はプロポーズのことに関しては誰かに喋ってはいないのだろう。

 許嫁とプロポーズの相手か……。

 マリアが知ったらあいつはどんな反応をするんだろうか。

 俺は今までに味わったことのない恋のもどかしさに深いため息を吐くと木目の天井をじっと見つめた。


「そういえばさっきドッチボールの時に咲葉のこと我らが太陽とか言ってたけどなんだあれ?」


「ああ、シドは部活やってないから知らないかもしれないけど、咲葉って運動部からはかなり人気があるんだよ。元気で明るいからかな? まあ僕もよくわかんないけどさ、ははっ」


「晴人は学園のアイドルって言われてたけどな」


「もうっ、やめてよ。シドのバカ……」


 そう言って真っ白な頬を朱に染めるとプイッとそっぽを向いて晴人は再び絵日記を描き始めた。

 まったくかわいいやつだよ、お前は。さすが学園のアイドルだ。


 そうこうしていると風呂の時間となり、俺たちは1階にある大浴場に向かった。その途中に先ほどドッチボールをした6組の白鳥に出くわした。


「ひ、聖獅童。貴様女子湯でも覗きに行く気か」


「なんだよ、俺たちのクラスは今から風呂なんだ」


「この白鳥誠一郎(しらとりせいいちろう)、貴様をこれ以上先には進ません!」


 白鳥は両腕を広げて俺を通せんぼした。

 全力で手を伸ばしているのだろうが廊下の幅は広く、容易に横を通り抜けることができる。

 さらば白鳥。


「ま、待てい! だいたい学園のアイドル晴人くんと混浴など許せぬ!」


「いや、晴人は男だろ」


「そ、そうだよ白鳥くん、僕、男だよ」


「男だとしてもだっ!」


「んな、バカなことあるか、行くぞ晴人」


「待て待てい!」


「なんだよまだなんかあるのか?」


「晴人くんが正真正銘、紛うことなき男だというなら女子風呂くらい覗けるよなっ!」


 白鳥はサラサラとしたキューティクルな髪をなびかせてキメ顔で言った。

 こいつの馬鹿さ加減に俺は後ろ頭を掻いて立ち去ろうとした時、


「で、できるよっ! 僕は男の子なんだもん」


「いや、晴人なに熱くなってんだよ」


「そりゃ僕は男らしくないし、なよなよして頼りないかもしれないけど、ちゃんと、つ、ついてる男の子だもん!」


「では晴人くん、いざ尋常に!」


 こうしてなぜか俺と晴人と白鳥の3人は女子風呂が覗けるかもしれない外にある外壁に移動した。

 

「なあ、普通に考えてこの高さ無理だろ。てっぺんに有刺鉄線もあるぞ」


「ふむっ、有刺鉄線デスマッチと言ったところか」


 いや、血だらけになりたくねーぞ俺は。


「なあ、無理そうだし諦めようぜ。てか俺たちの風呂の時間も無くなる」


「そ、そうだね。僕も熱くなりすぎたよ。普通に考えて覗くのは犯罪だし」


「聖獅童。見損なったぞ貴様! お前のモノは相当小さいんだろうな。ぷぷっ」


「な、なんだとお前! やってるよ、やってやろうじゃねーか!」


 この時の俺はどうかしていた。

 白鳥のくだらない挑発に頭に血が上り、なだめる晴人を余所に近くにあった倉庫をこじ開けると、偶然にも置いてあった脚立を取り出した。


「むふふ、さて軍師よ。これでも高さが足りないがどうする?」


「消火栓にあるホースの先にこの熊手を結んで、引っ掛けて登るしかねぇ」


「うむ。名案だ」


「ちょ、ちょっと2人とも本気なの?」


「晴人、今ここで逃げたら俺は根性なし、いや、性欲なしになっちまう。そんなのは嫌なんだよ」


「シド……何言ってるの……」


 俺と白鳥は晴人にサムズアップすると、うまく引っ掛けたホースを登って行く。

 長く険しい道のりだった。

 途中で白鳥が落ちそうになると俺はそっと手を握った。

 

宿敵(とも)よ、ありがとう!」


「さあ、もう少しだ白鳥。山頂に浮かぶ鮮やかな初日の出を一緒に拝もうぞ」


 こうして俺たちは山頂付近までたどり着き、邪魔な有刺鉄線を枝切り鋏で切り落とすと頂上によじ登った。

 絶景を拝もうと目を見開いた時、


「き、貴様らは、な、何をしてるダニ……。──変態成敗ダニ!」


「お、お前こそ何をしてるダニー!」


 俺は吉田の蹴りを受けると白鳥を庇いながら真っ逆さまに地面へと落下した。

 

「だ、大丈夫シド!」


「ま、まあ俺は大丈夫だ。白鳥は大丈夫か?」


「よ、幼女がっ……ダニ……」


 こうして俺たちの風呂の覗き作戦は失敗に終わったのだ。

 その後、俺と白鳥の悪事がバレてなんとか停学をまのがれると、俺たち2人は一晩中、正座の刑を受けたのだった。

 

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