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21.クラス対抗ドッチボール対決 〜無双するのは簡単です〜

 俺と咲葉は微妙な距離感を空けながら釜戸のあるキャンプ場へと戻った。

 正直プロポーズの相手が咲葉だったとは予想もできなかったが、それを知った今、いままでただの幼馴染って関係だけだと思ってた彼女を妙に意識してしまう。


 小さい時の事をちゃんと覚えててくれて、髪留めもずっと大事に持ってくれていたのだ。

 無論その意味を咲葉がちゃんと言葉にして伝えてくれなくてもさすがに察しがつく。

 マリアが許嫁とバレた時、教室を飛び出していったのも納得がいった。


 マリアと咲葉、好意を寄せてくれている子が二人もいる。

 俺の揺れ動く恋心をざわつかせるように、隣にいた咲葉はこちらを見てはにかんだ。

 


 キャンプ場に着き、同じ班だった武田君と南さんに頭を下げて謝ると、すでに完成していたカレーライスを食べた。

 二人っきりの時はなんだか気まずくて上手く話せなかったが、みんなに合流すると俺たちはいつも通りの感じに戻っていた。


「いやー、さすが私達が作ったカレーだねっ!」


「俺達なんもしてねーだろ。作ったのは武田君と南さんだ。感謝しろ!」


「なにシドが偉そうに言ってるの? なんにもしてないくせにっ」


「……っつ。まあそうだけど。元々はお前が松山先生を変身させなければだな」


「いやいや、シドが松ちゃんに独身術を使わせたんじゃないかぁ!」


 いつも通りじゃれたように言い合いをしている俺たちを見て、武田君と南さんはちょっと呆れたようにクスクスと笑った。


「もういいって聖。でもほんと、お前ら仲良しだよな」


「うん、前から思ってたけど夫婦みたいだよね」


「なになにミナミン! 私達新婚みたい?」


「いや、新婚ってより、その熟年夫婦みたいな」


 確かに咲葉とは付き合いも長いし新婚ってよりは熟年夫婦がしっくりくるかもしれない。

 いつも元気な咲葉は歳を取ってもやかましい婆ちゃんになるんだろうな。

 『佐山咲葉! なんとっ! 御年85歳だよっ!』ってな具合に……。


「シド、何笑ってるの? さてはピチピチした私より、熟女の私のほうがいいのかっ!? 熟女好きかっ!」


「聖、熟女が好きだったのか?」


「はぁ? 何言ってんだよ。85歳とか熟女ってより」


「聖くん、そんなに年上が好み……なの? 普通に引くわぁ」


 くっ、つい妄想に出てきた年齢を口走ってしまった。

 くそー85歳の咲葉め、覚えてろよ。

 

「シドと咲葉戻ってたんだね。いきなり居なくなったから、僕すごく心配しちゃったよ」


「お二人ともご無事で良かったです。なにか人ならざる者に追いかけられてたとか……」  

 

 晴人とマリアは戻ってきた俺達に気づくと駆け足でこちらに来て、胸に手を当て安心したように言った。

 確かにあの独身は人ならざる者だったかもしれない。未だにあの松山先生を思い出すと鳥肌が立つ。


「心配かけてごめんな、二人とも。そういえば松山先生はどこいったんだ?」


「松山先生はなんかさっき先生達に連行されてったよ。持病の病が……とかなんとかで」

 

 あれは病だったんですね先生。

 もう再発しないように心掛けていただきたい、切実に。


「この後って確かクラスでレクリエーションだったよな。先生いなくて大丈夫なのか?」


「多分委員長が聞きに行ってると思うよ。もしかすると他クラスと合同になるかもしれないね」


 その後、晴人の予想は当たり、俺達は他のクラスと合同レクリエーションをすることとなった。

 競技種目はドッチボール。

 俺達2年2組対6組の戦いだ。

 

 大きめのコートとはいえ、2クラス合わせて60名以上が入るとかなり窮屈に感じる。


「なあ晴人、なんか6組の男子、俺の事睨んでないか?」


「あはは、まあ多分マリアちゃん絡みのことだろうね。美少女転校生の許嫁ってことでシドは反感かってるし」


「俺何もしてないんだがっ……」


 俺は何故かボールじゃんけん役に相手から指名されるとコート中央に向かった。


「僕は白鳥(しらとり)。君があの麗しきマリア様の許嫁の聖獅童か?」 


「それがどうした」


「ナスが萎びたような冴えない顔をしているな」

 

 喧嘩売ってんのかコイツ。

 長髪のサラサラヘアーの男──白鳥は俺を見て薄ら笑うと握手を求めてきた。

 答えに応じ俺も手を差し出すと全力なのだろうか、白鳥は顔を真っ赤にして力いっぱい握ってくる。

 しかし封印の解けた俺にとっては呆れるほど非力に感じ、ムカつくのでちょっとだけ強めに握り返した。


「いたい、いたい、っ痛い!」

 

「すまん、ちょっと強かったか?」


「ふ、ふっはは。そんなことないぞ宿敵(ライバル)よ。さて、じゃんけんをしようじゃないか」


 白鳥は握手した右手をブラブラと振り、顔に渋面を浮かべながら言った。

 なんか面白いやつだなコイツ。

 じゃんけんを終え、勝った白鳥からボールスタートになった。


 ドッチボールで頼りになるといえばハンド部の連中だ。

 ここは彼らに頑張ってもらうとして目立ちたくない俺は逃げることに専念しよう。


「なあ、晴人。俺たちのクラスってハンド部何人いるんだ?」


「誰もいないよシド! それよりも逃げなきゃ、向こう8人もハンド部いるよ」


「くっはは! どうだ聖獅童! 我が軍は最強だ。さあ、みんな、やってしまえ!」


 白鳥は屈強な体をしたハンド部にボールを渡すと後ろに引き下がった。

 自分で何もしないのにあの自信。やっぱりあいつ面白いやつだ。

 ボールがビュンビュンと投げられ、どんどんとクラスのみんなが当てられていく。

 さすがにハンド部の投げる球は弾丸のように早く、取るのさえままならない。


「パワーバランス最悪じゃねーか」


「バンド部は4人いるんだけどね……」


「そうなのか、それはいい音を奏でそうだな」


 俺たちのクラスが残り人数半分を切り、さすがにみんなが負けを覚悟し始めた。


「獅童くん、私もう、疲れてしまいました」


「大丈夫かマリア。あんまり無理するなよ」


「はいっ。あの、獅童くん。私を守ってくれますか?」


「あ、ああ、いいぞ」


「わあ、マリリンずるいぞ! 私もシドに守ってもらうもぉーん!」


「し、シド。僕も当たるの痛そうだし、守ってもらっていいかな」


「しょ、しょうがねーな」


 そう返事をするとマリア、咲葉、晴人は密着するように俺の背中くっついて隠れ始めた。

 6組の男連中はこの光景に憤怒すると怒り狂ったように俺にめがけてボールを投げてくる。

 

「淫獣、聖獅童め! 女神マリア様だけでなく我らが太陽、咲葉ちゃんと学園のアイドル晴人くんまで毒牙にかけおって! ぶっ潰すのだ」


 なんだよ我らが太陽って。しかも晴人くん男ですよね。

 でもまあこんだけ敵意をむき出しにされるとなんだか負けるのも癪に触る。淫獣って言われたしな。

 少しだけ本気出してやってみるか。


 俺は投げられた速球を容易くキャッチすると力をなるべくコントロールして投げ、ハンド部連中を次々に一掃した。


「な、なんだと……我が軍の最強兵が、やられただと」


 苦渋の顔を浮かべて膝から崩れ落ちる白鳥。

 マリアと咲葉は大いに喜びながら俺の両腕にそれぞれ抱きついてきた。


「すごいよシド! なんか最近運動神経良くなってない?」


「ああ、まあそうなのかな?」


「獅童くん、ありがとうございます! また守ってもらっちゃいましたね。へへっ」


「お、おう」


 その後は外野にいた連中も内野に復帰していき。

 ドッチボールは俺たち、2組の勝利で幕を閉じたのだった。

 

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