20.林間学校初日は幼馴染のターンですっ!2 〜予想もしなかった事実に揺れ動き始める恋心〜
キャンプ場に到着すると班ごとに釜戸が割り当てられた。
机に並べられた食材を取りに行くと、それぞれ役割分担を決めてカレーを作っていく。
俺と咲葉は一緒に食材の下ごしらえをする事となった。
2人してシンクに並ぶと咲葉は人参を切り、俺はじゃがいもの皮を剥く。
「ねぇシド、なんか一緒にこうしてると新婚の夫婦みたいだねっ!」
「そうかぁ? 新婚だったら逆に奥さんが全部やってくれるんじゃないか?」
「むむっ、そうゆう亭主関白なのは今はモテないんだぞっ。シドは松ちゃんみたいに独身で人生を過ごしたいのかっ!」
「あら、佐山さん……ダレガ、ドクシンダッテ……!?」
ビシッと俺を指さして言った咲葉はその狂気に満ちた声に一瞬にして固まった。
斯く言う俺もあまりの怖さに後ろを振り返ることができない。
「読心術の話をしてたんだよなあ、咲葉!」
「あ、ああそうだねー! 心を読めるなんて素晴らしいよねぇー」
「ドクシン、ジュツ? フフッ、ドクシンジュツ……オモシロイナア、ワタシ、ドクシンジュツツカエルヨ?」
マジ怖いから勘弁してくれよ。
どうやら俺は火に油を注いでしまったようだ。とりあえずここは怒りが収まるまで──逃げるしかない。
「咲葉、撤退戦だ!」
俺はそう言うと咲葉の手を掴んで走り出した。
独身術の使い手──松山先生は首を振りながら全力で追いかけてくる。
「し、シド!」
「いいから走れ、振り返れば奴がいる!」
「な、何その昔のドラマ名みたいなセリフ! てかシド、早い、早いよっ! も、もう松ちゃん追ってきてないから大丈夫だって」
咲葉の訴えに俺は足を止める。
封印を解かれた俺の足は、手加減をしているつもりでも以前と比べものにならないくらい早く、陸上部の咲葉でもまったくついていけてないみたいだ。
「す、すまん。ちょっと早すぎたか?」
「はぁ、はぁ……。と、とんでもねぇー速さだよ! いつの間にそんなに早くなったの? さては実力を隠していたなっ!」
「いや、んなわけねーだろ。先生に追っかけられてたまたまいつもより早く走れただけだ」
俺はそう言って笑って誤魔化すと咲葉は眉根を寄せて俺の顔を覗き込んだ。
「な、なんだよ?」
「んーまあいっか。ってあれ? 髪留めがないっ!」
頭をわしゃわしゃと触り、青ざめた顔をした咲葉。
どうやら前髪にいつも付けていた太陽を模った髪留めを無くしたらしい。
「やばい、どうしようシド! 昔シドからもらった大切な髪留めなのに……」
俺が咲葉にあげた髪留め?
一体なんの話なんだ?
「俺が咲葉に髪留めなんかあげたか?」
「な、何を言ってるのシド。昔、小さい時に結婚しよって……その、指輪の代わりにくれたじゃん!」
俺が咲葉にプロポーズをしただと……。
ってことは、あの記憶にある少子はマリアじゃなく咲葉だったってことなのか?
別に咲葉は嘘をつくようなタイプでもないし、きっと本当のことなのだろう。
彼女の困惑と悲しみが入れ混じったような表情に、昔の記憶がまだ完全に戻ってない俺は歯がゆさを覚えた。
「そうだったのか。俺、今まで忘れてたみたいで何ていうかごめん……」
「いや、まあ、シドも私も小さい時の事だし。もちろん本気にはしてなかったけど……でも、今でもその無きにしもあらずといいますか、なんといいますか……」
咲葉は前髪に手のひらを当てると撫でながら、恥ずかしそうに言った。
そんな彼女の態度に俺も何故だか無性に照れくさくなって後ろ頭を掻く。
「じ、じゃあとりあえず髪留めでも探すか!」
「そ、そうだねっ! あれがないとなんだか落ち着かないし」
気を紛らわせるようにそう言うと俺達は妙によそよそしく髪留めを探し始めた。
☆
「あった、あったぞ! 咲葉!」
「本当にっ!? ありがとうシド!」
そう言って俺の片腕に無邪気に抱きつく咲葉。
マリアには及ばないが、程よい大きさの感触が右腕に伝わる。
「お、おうっ。そのあって良かったな」
「うんっ! シド、これからもずっとこの髪留め大切にするね」
咲葉は満面の笑みを浮かべてそう言った。
無邪気な風が吹き抜けると新緑の葉を揺らし、カサカサと葉音を奏でる。
そして俺の頬をいたずらに撫でると、青春の恋心を少しざわつかせた。




