18.林間学校の班決めは教師の陰謀!?
俺の封印が解けたあの日から1週間が経った。
異世界から帰ってきた吉田が『姫様を救ってくれてありがとうダニ、本当にありがとうダニ!』と泣きながら俺のつま先をグリグリと踏みにじったり、学校の下駄箱に『マリア様の許嫁へ。早く小指ぶつけて死ね ファンクラブ一同』と書かれた素敵なラブレターをもらったりといろいろあった。
未だに小っ恥ずかしくてマリアにプロポーズの事は聞けていない。しかし封印が解けて身体能力が大幅にアップした日常は、以前とは比べものにならないほどすこぶる快適だ。
それにどうやら過激派連中を一掃する作戦を人族と魔族、同時に行ったらしく当分は安心して日常を送れそうだ。
それにしても月曜日の学校はダルい。
それは古今東西、津々浦々の学生諸君は常々感じることだろう。
これから始まる長い1週間をどう乗り切っていこうかと頭で逡巡しては深いため息を吐くのだ
しかし今週の俺たちの学年はいつもと一味違う。
何故なら……。
「おはよーう! ねえシド、シド! 林間学校の班一緒になろー! 決定ねー」
茶色いショートヘアーに、前髪に太陽を模った髪留めをした幼馴染の元気っ子──佐山咲葉はサムズアップしながら言った。
「いや咲葉、班決めはくじ引きで決めるって先生が言ってただろ」
「そうなの? そんな教師の陰謀に私とシドの絆は引き裂かれないもんっ!」
まったく、どんな陰謀なんだか。
俺たちの学年は明後日から2泊3日の林間学校がある。
5月に入って新緑の季節となった今、気候的にも丁度いいし、中だるみの2年生にとっては10月にある修学旅行に次ぐ最高のスパイスとなる行事だ。
そして今日はその班決めを行うため1限目を使ってくじ引きが行われる。
「獅童くん、私も一緒の班になります! 私だって教師の陰謀には負けないんですから」
「いや、マリア。陰謀なんてないからな? 落ち着け」
「おーマリリンも仲間だねっ! 一緒に教師の陰謀を打ち破ろう!」
「はいっ! 咲葉ちゃん! くじ引きとやらに私は負けません!」
「「せーのっ、おー」」
こいつらどうすればいいんだか。
マリアと咲葉はこの1週間ですっかり仲良くなった。
席も近いし、俺という共通の友達もいたので時間もかからなかったのだろう。
「はははっ、シド大変そうだね」
「晴人、こいつらに効く鎮静剤とか持ってないか?」
「残念ながら僕は今バファリンしか持ってないよ」
「そうか、なら大変な俺に優しさを半分だけ分けてくれ」
「まあ、バファリンの優しさでよければ……」
俺の親友──高山晴人はそう言って苦笑いを浮かべた。
中性的で整った顔立ちに男とは思えない白く、柔な肌をした晴人はセミショートの髪型をしていて一見すると女の子に見えなくもない。
中学の時はテニス部キャプテンで校内美少年、美少女コンテストにて見事美少女の座に輝いた強者でもある。
「おおっ、ハルちゃんがシドを落とそうとしているっ! これも教師の陰謀かあぁ!」
「ひどいです晴人くん。そんなの、私……勝てないじゃないですか」
「ちょ、ちょっと2人とも落ち着いてよ。まあ僕もシドと一緒の班になりたいけどさ」
「むむっ、諦めない気か! さすが不屈の男、ハルトマンめ」
「咲葉、晴人に変なこと言ってないでそろそろホームルーム始まるから席につけよ」
ハイテンションな咲葉と涙目のマリアを席につかせるとチャイムが鳴り、ホームルームが始まった。
連絡事項が伝えられ、ホームルームが終わるといよいよお待ちかねの班決めくじ引きが行われる。
「さてっ、先生は男女別々の班を提案しましたが他の先生達に反対されたので仕方なく、班決めのくじ引きを行います。じゃあ名簿番号順にこのボックスからくじを引いてください」
担任の女教師──松山先生がそう言うと『恋愛禁止! ダメゼッタイ!』と書かれた手作りのくじ引きボックスをドンッと教壇の上に置いた。
独身アラサー松山先生の強い意思を感じる文面に、俺達生徒一同は先程のテンションの高さも忘れ、凍ったように一気に静まり返る。
「みんなどうしたの? くじ引き好きでしょ? ほらほら、相川くんからどーぞっ!」
「は、はいっ……」
先生の圧倒的オーラに気圧される犠牲者第一号の相川くん。
不憫だ……。
「し、シド、やはり独り身松っちゃんの怨念、いや陰謀があったじゃないか」
「あ、ああ、なんかくじ引くの嫌だな……」
俺たちの心配をよそにくじ引きは一応公平に行われていた。
クラス32人を男女の割合関係なしに4人の8班に分ける。
無論男子3人の女子1人と偏りの出る班もあるし、男子4人という悲惨な結果の班も生まれる。
晴人とマリアは同じ3班になり、咲葉は6班になった。
「次、聖くん」
教壇の前に行き、松山先生に刮目されながらくじ引きを引く。
正直かなり、怖い。
「はい、聖くんは9班です」
「はっ!? なにそれ!」
「9班は先生と同じ班になります!」
おいおいこの教師マジかよ……。
なんで俺だけ先生と飯盒炊飯やらなきゃならないんだ。
陰謀だっ!
「先生、冗談ですよね?」
「ちっ、冗談ですよ。6班です」
今舌打ちしやがったぞこの教師。
松山先生は俺から受け取った紙を逆さにして戻すと黒板に貼り付けた。
「わぁーシド同じだね! やっぱり私たちの絆はガッチガチだねぇ」
「獅童くんと同じ班になれなくてすごく残念です……くすん」
「ま、まあマリアのとこには晴人もいるんだし、楽しそうじゃんか」
こうして林間学校の班決めは幕を閉じたのだった。




