16.魔王の娘異世界に帰るってよ?/だが俺がそんなことさせない! 多分、本当に、おそらく……
剣を隠すように手で抱え、俺は焦る気持ちに後押しされながら急ぎ家に向って走ってる。
後から親父に聞いた話しでは聖剣とやらは聖なる力、通称、聖力(いやん、精力じゃないぞっ!)を具現化した武器であり、宿主の聖力が供給されないと手放して数分後には自動的に消えるようになっていたそうだ。
こんな便利機能があるとは当然この時の俺は知る由もなく、ビクビクとしながら電車に乗ると体を目一杯使って剣を隠し、冷え汗を流しながら急かせかと動き回った。
家に着くと桃奈のベッドで治癒を終えたマリアは寝息を立てていた。
「マリアは大丈夫なのか!?」
「大きい声ださないの。さっき寝たとこだよ。魔力抑制剤で体が不安定になってただけだから、多分1日くらい寝れば治るよ」
「そ、そうかぁ。良かった!」
ほっと胸を撫で下ろすと桃奈とリビングに降りた。
どうやら魔族というのは魔力を動力源として生きているらしく、魔力抑制剤を飲むと体に力が入らなくなり呼吸が不安定になるらしい。
ただそれだけで特段命に別状はないとのことだった。
本当に良かった。
「桃奈、マジでありがとう!」
「だから大きい声出さないの。獅童もボロボロじゃない、服脱いで」
「いや、俺はいいよ。ちょっと恥ずかしいし」
「な、なに妹に恥ずかしがってんのバカ。獅童の裸なんてそこらへんに生えてる草を見るようなもんだし」
「んーまあ確かにそうだよな、よし頼むわ」
俺はそう言うと服を脱ぎ脱ぎした。
足や股間付近も擦り傷があったため、もちろんズボンとパンツもだ。
「ちょ、な、なにパンツまで脱ごうとしてんのよ」
「いや、全身ケアしてもらおうかなって。もちろんあそこはタオルで隠すって」
「あほ、何が全身ケアよ! その、あ、あれに近いとこのキズは自分でマキロンでも塗って治してよ」
さっきそこらへんに生えてる草って自分で言ってたのに……。まったく恥ずかしがり屋な妹だ。
俺は腕や腹のキズを桃奈に治癒魔法で治療してもらうと少しまだ痛むキズ痕に時折悲鳴を上げながら風呂に入った。
くそっ、治癒してもらったとはいえダメージが大きかったのか結構まだ痛む。やっぱりあのルイスってやつ1発殴っておけば良かった。
☆
風呂から上がると桃奈と駆けつけたマリアの父──サタンが深刻な面持ちで話をしていた。
サタンは俺を見るなり深々と頭を下げた。
「獅童くん、今回はいろいろ迷惑を掛けちゃったね。本当にすまない! 娘を守ってくれてありがとう」
「ちょ、ちょっと頭を上げてください。逆に謝るのは俺の方ですよ」
「何を言うんだ。獅童くんはちゃんと娘を守ってくれたじゃないか。マリアをちゃんと強く育てていれば獅童くんがこんなことに巻き込まれることもなかったからね。私の考えが甘かったみたいだ」
サタンはそう言って唇を噛み締めた後、小さくため息をついた。
「今回は人族の過激派だったとのことだが、逆に魔族の過激派が勇者の息子である獅童くんを襲うかもしれない。私と圭吾も管理できるように頑張ってはいるんだが、すべてはなかなか難しくてね。だからマリアを異世界に戻そうと思う」
「お父さん! 嫌です! 私はここに、ここにいたいです!」
「マリア、もう起きて大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよお父さん。桃奈、治療してくれてありがとう。獅童くん改めて私を救ってくれてありがとうございます。あの時の獅童くんすごく、その──カッコ良すぎでしたよ」
そう言ってマリアは照れくさそうにはにかんだ。
タイミング良くリビングに入って来たマリアは先程のように言葉が吃ることもなく、顔色もだいぶ良くなっている。
「しかしだなマリア、また異世界から敵がやってくる可能性は十分にあるんだ。お前がこの世界にいるってことは獅童くんを含め、いろんな人を巻き込むことになるかもしれないんだぞ。お前にそれをどうこうできる力があるのか?」
「た、確かにそれは……」
「サタンさん。私はマリアさんにはここにいてほしいと思ってます。私もお父さんやお母さんと一緒に過激派の動向には注意しますのでお願いします!」
「桃奈! ありがとう」
桃奈もマリアと一緒にサタンの説得に参加するもなかなか首を縦に振ってもらえない。
そりゃ異世界の過激派という連中がどんな奴らなのか俺は知らないが、命の危険性があるから安易にサタンも承諾はできないだろう。
途中桃奈は何か思い出したかのように手を叩くと離れて見ていた俺に近づき背中を強く叩いた。
「痛ってー!! なんだよ俺まだ傷治ってないんだけど」
「あぁ、ごめんごめん強く叩きすぎた。じゃ、獅童お願い」
「へっ? 俺もなんか言うの?」
「当たり前でしょ、ばか。封印解いて聖剣出せたんでしょ。ならマリアさんを一番守れるのは獅童じゃん。ほらほら」
桃奈に背中を押されてそのままサタンの前に移動させられた。
「どうしたんだね、獅童くん? 君も反対なのかね?」
「はは、その……」
桃奈め、俺に期待しすぎだろ。
絶対に守れるなんて自信は全然ないぞ。だから眺めていたのに余計なことを。
だからまああやふやな言葉になっちゃうけど、
「サタンさん。俺は今日封印が解けて今までと比べものにならないくらい強くなりました。だから俺もきっと、多分、お・そ・ら・くマリアを守れる力になれると思います」
どうだ……。絶対と言い切れる自信のはないことをふんだんに使った俺の言葉。
曖昧すぎるだろ! と自分でツッコミたくなるほどだ。
怒られるかと思い俺は肩を竦めるとサタンは涙を流しながら手を握ってきた。
「ブラボー! マーベラスだよ獅童くん! 君の力強い言葉、いや、決意! この私に響いいたよ。さすが圭吾の息子、いや私の息子だ! マリアはこの世界に残そう」
あれ、なんか予想してたのと違う。
逆に強調しすぎて頼もしく聞こえてしまったのか?
俺はサタンに苦笑いで返し、後ろを振り返ると嬉し泣きしているマリアとサムズアップする桃奈がいた。




