15.異世界悪役と最強な獅童(足蹴にされた弁当の怒りを添えて)
──力が欲しい。
なんでも構わない。
あいつらから彼女を助けれる、力が欲しい。
勇者の息子。俺はそいつなんだろ?
すごい力があるんだろ?
なら今すぐよこせよ! 力をっ!
(汝、力を望むか)
ああ、俺はマリアを助けたい。
理不尽なことで泣いている女の子ひとり救えないで何が勇者の息子だ。
封印とか知ったこっちゃねえ。
てか誰だ?
なぜ俺に語りかける?
(もうすぐ会えるさ。望め! 力を。かざせ! 手を天に)
☆
なんだ今のは……。
夢か?
俺は手に握られた土を見て意識をはっきり戻した。
後ろを振り返ると先ほど俺を吹っ飛ばしたルイスがマリアを肩に担いで去ろうとしていた。
──望め! 力を。 かざせ! 手を天に。
その言葉を思い出し、思いを込めて天に向かって手をかざした。
何でもいい何か起こってくれ。頼む!
(封印抹消)
そう聞こえると心臓がドクンと大きく脈を打ち、手から光が溢れ出した。
光は徐々に集まると大剣の形を成し俺の手に収まった。
親父の聖剣を出した時と似ている気がする。
この時、俺の脳裏には少しばかり昔の記憶が思い出されたが今はマリアを救うのが優先だ。
(我を振るえ。意のままに)
我ってことはこの声は剣、お前だったのか。
しかし振るえと言われても俺、剣とか使ったことないんだが。
(第一の封印が解放された今、その心配はいらん。ゆけっ)
第一の封印?
よくわからんが今は考えても仕方ない。
俺は剣を両手で握ると去っていこうとするルイスを追いかけた。
いつもより異様に足が軽い。
そう気付いた頃にはすでにルイスの行く先に立っていた。
「なっ、お前いつの間に、それにその剣──」
「そんなのどうだっていいんだよ。──早くかかってこいよ、この三下!」
俺はそう言うと手のひらを返し、クイッ、クイッと挑発するように手招きした。
好戦的になった言葉と行動に自分自身で驚きつつも4人を見下すように一瞥する。
「て、てめぇ調子乗ってんじゃねーぞ。行くぞお前らぁ! 小僧をぶっ殺せ!」
ルイスはマリアを肩から降ろすと苛立った様子で仲間に叱咤した。
武器を構えだし、こちらに向かってくる連中。
不思議なことに相手の動きが異様にゆっくりに感じる。
剣を構えると俺自身の本能が自然とどうすればいいのかを教えてくれた。
まずは魔法を繰り出そうとしている魔術師の女に瞬足の速さで近づくと剣の柄頭で腹に一撃を与えた。
蹲っているのを横目で確認すると、弓と剣をそれぞれ構えていた2人の男の武器を破壊して、顔面を思いっきり殴った。自分が繰り出したパンチとは思えないほど顔面を殴られた2人は大袈裟に吹っ飛んで意識を失った。
残りはルイスお前ひとりだけだ。
「お、お前今何をした」
どうやら俺のスピードに彼はついていけてないらしい。
まあ自分でも驚くほどの早技だったことに違いないが。
「ああっ? マリアの弁当の仕返しだ。一応聞くがハゲ、てめぇーがこの連中のボスってことでいいんだよな?」
「……っつ。うるせーぶっ殺してやる」
「ああ、こいよ。死なない程度に遊んでやるからよ」
ルイスは重厚で頑丈そうな戦斧を振り上げて飛びかかると俺に向かって勢いよく振り下ろした。
俺は片手で持った剣でそれを受け止めてはじき返すと戦斧の柄を横一線に叩き切った。
武器を失ったルイスは腰を抜かして尻餅を付き、青い顔をしながら後退る。
「ち、近寄るなあぁ! 許してくれ、頼む」
「お前は知り合いの女の子を泣かせたやつを許せるのか? 手を切ってまで頑張って作ってくれた弁当を足蹴にしたやつを許せるのか? 俺は心の狭い男だから許せねーな、だから半殺しで詫びろ!」
「そこまでだ獅童!」
その声でハッとして殴りかかっていた手を止めると後ろを振り返った。
「お、親父、何でここに。それに桃奈まで」
「んなことより早くマリアちゃんを助けろバカタレ! 桃奈、マリアちゃんを早く家に!」
「お父さん了解!」
桃奈はそう言うとぐったりしたマリアを担いで箒に跨った。
やっぱり魔導師は箒で空も飛べるのか。魔法少女羨ましい。
「桃奈! 俺もマリアが心配だから一緒に乗せてってくれ」
「これ2人しか乗れないの。だから獅童は電車で帰ってきて!」
「獅童くん、心配しなくて、大丈夫、ですよ。魔力が抑えられて、力が出ない、だけですから」
「くっ……。わかった桃奈、マリアを頼む」
「頼まれなくてもちゃんと治癒するわよ、バカ兄」
桃奈はマリアを乗せて離陸するとそのまま大空に飛び立っていった。
残された俺は親父に歩み寄った。
「一体全体どうゆうことなんだよ」
「こいつらは魔王や魔族との戦いを望んでいる人族、つまり人間の過激派連中だ。詳しい話は後だ。俺はこいつらを異世界に連れてって国王と裁きを考える」
「ちょっと待てよ! このルイスってやつはまだぶん殴ってないんだが」
「お前の気持ちは分かるが落ち着け。こいつらのケジメは俺たちが必ずつける」
「だけどよ!──」
「どアホ! こいつへの復讐とマリアちゃんの体調とどっちが大切なんだ。早く行ってやれ」
確かにルイスを殴るよりもマリアの体調の方が大事だ。
でも俺はこいつを本当に許せない。
親父は腰を抜かして動けないルイスに近寄ると屈んで彼の顔を覗き込んだ。
「そんなに俺の息子が怖かったか? かわいそうにな」
「お、お前は勇者のひ、聖圭吾」
「おお、知ってくれてるなんて嬉しい限りだぜまったく。サインいるか?」
「……」
「ははっ、でっ! てめーら俺の息子はまあどうでもいいが、家の義娘に手出したんだ、死ぬって覚悟はできてんだよな? あん? この三下風情がぁぁ!」
おいっ! 俺のことどうでもいいって言ったぞ。
今日の俺かなり頑張ったと思うんだけど……クソ親父め。
しかしまあ今まで見たこともない親父の大迫力な脅しに俺はどこか安心した気持ちになると、出しっぱなしの剣を抱え電車に乗って家に向かった。




