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14.異世界悪役と無力な獅童(貴様ら手作り弁当をなんだと思ってるんだぁぁ!)

 異世界喫茶を出た俺達はアニメショップを堪能した後、近くの秋葉原公園を訪れた。

 春の日差しはとても心地よく、思わず体を思いっきり伸ばしたくなる。

 

「ん〜っ、昼時だけど飯どうしょっか?」


「えっと、その、実は獅童くんにお弁当作ってきたんです。昨晩桃奈に教えてもらって。うまくできてるか不安ですが……へへっ」


 そう言って、はにかんで頬を掻いたマリアの手には絆創膏が数枚貼ってあった。

 まさか妹以外の手作り弁当を食べれる日が来るとは、しかも慣れないことなのに一生懸命頑張って作ってくれたのを考えると感極まるっ!


「マリア、本当にありがとうな」


「いえいえ、ではどうぞ!」


 楕円形の2段の弁当箱にはごはんに唐揚げ、卵焼きと定番なものから桃奈に聞いたのだろうか俺の好きなポテトサラダも入っていた。

 これがまた旨い!


「本当に美味しいよ!」


「そ、そ、そういって、もらえると、う、嬉しい……です」


 マリアは少し顔を赤らめ、胸に手を当てると訥々と苦しそうに言った。

 はぁはぁと徐々に呼吸が荒くなっていく彼女にただ事ではない予感を感じる。


「おい、マリア大丈夫か!?」


「ちょ、ちょっと、変かも、しれない……です……」 


「おーやっと効いてきたみたいだな」


 唐突に聞こえた声に後を振り返ると鎧や甲冑に身を包み、手に各々武器を携えた男女4人がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

 その中には先ほど強引に俺たちを異世界喫茶に誘った客引きもいる。


「お前ら誰だよ! こっちは今大変なんだ」


「知ってるさ。俺達が仕掛けたことだからな。魔王の娘もこの魔力抑制剤には勝てないみたいだな」


 仕掛けた事? なんの事だ一体。

 それにマリアの事を知っている。しかもこの世界の人間とは思えない格好……。

 危機を感じた俺はマリアの手を取ると肩を抱いて公園の出口に向って駆け出した。

 すると連中の中心にいたスキンヘッドの巨躯な男が立ちふさがった。


「おっとお前、そいつは置いてけ。どっかの貴族に奴隷として高く売ってやるからな」


「そう言われて置いてくと思うのかよ。このハゲ!」


「……っつ! 何がハゲだ小僧! なめてんのか? こうなりゃ力づくで相談だ。悪く思うなよ」


 スキンヘッドがそう言うと地を蹴り駆け出し、俺とマリアの元に近づいてきた。

 なんかよく分からんがやるしかねぇ。

 マリアを地面に座らせると俺は拳を握り締めスキンヘッドに向け全力のパンチ放った。


 ──バシッ!


「なんだお前、弱いな。魔王の娘にくっついていたからやるものだと思ってたが、悲しいほどに拍子抜けだ。雑魚は引っ込んでろ!」


 全力のパンチは虚しくも容易く片手で受け止められた。

 俺はそのまま腕を捻られ、強烈な前蹴りをくらわされると金網に思っ切り激突した。

 

「う゛うぇ、ゴホッ、ゴホッ……」


 超マジ痛てぇ。

 俺の体がいくら普通のやつより丈夫だからと言ってもこれを何発も食らったらマジで死ぬ。

 周りにいた3人は派手に吹っ飛んだ俺を見てケラケラと腹を抱えて笑っている。


「うっわー痛そー。ルイスもうちょっと手加減してやれよ。ハゲって言われてぶちぎれてやんの」


「うるせっ! こうゆう頭が弱い奴には体で教えてやらねーとな。ほら早く立てよ」


 スキンヘッドの男──ルイスに俺は胸ぐらを掴まれると間髪入れずに、鉄球のように硬い拳で左頬を思いっきり殴られた。

 口の中に苦々しい鉄の味と共に血なまぐさい臭いが鼻を通り、思わず血液混じりの赤唾を吐いた。

 

「も、もう、やめ、やめてください……。獅童くんに、手を出さないで。言う通りにしますから。お、お願い……です」


 マリアの弱々しい涙声が薄れゆく意識の中ではっきりと聞こえた。

 彼女はそこまでしてなぜ俺のことを……。

 そして俺はなんで泣いている彼女を助けられないんだろう……。


「いいねぇ、そうゆうの感動しちゃうよ。よかったな小僧、魔王の娘に免じてこの辺にしといてやるよ」


「ルイス見てみろよ。これ手作り弁当だぜ! 魔王の娘が手作り弁当とか超キモいんですけどぉ」


「「ぎゃはは」」


 連中は弁当を地面に投げつけると楽しそうに踏みにじった。

 ぐしゃぐしゃに、砂まみれになった変わり果てた弁当の残骸が地面に広がった。

 頑張って作ってくれた手作りの弁当を……。

 俺のために作ってくれた弁当を足蹴にしやがって!


「て、てめーらマリアに謝れよ! 謝りやがれよぉぉ!!」


「お? 急に元気になりやがって面白いやつだな。あれだけ力の差見せつけられてもまだやれんのか?」


「し、獅童くん。だ、ダメです。逃げて、ください」


「うぉぉぉ!」


 俺は今まで出したことないであろう雄叫びをあげるとルイスに飛び掛かり、全力で拳を振り抜いた。──しかし虚しく空を切ると背中に再び蹴りを食らって派手に倒れこむ。

 腕は地面で擦り切れ、空気が一気に吐き出されたのか呼吸もままならないくらいに苦しい。


「……ぐはっ」


「まったくつまんね奴だな。武器持って来た意味が全くねーじゃねーか。ほらお前らそろそろ帰るぞ」


「ルイスが勝手に楽しんでたんじゃねーかよ。それにしても魔王の娘さんいい体してんじゃねーの。顔も可愛いし貴族に売る前に俺たちで楽しもうぜ」


 このまま、本当にこのままマリアは連れ去られてしまうのか。

 俺が不甲斐ないばかりに……。

 悔しさのあまり地面を強く引っ掻くと手に握られた土を力一杯握りしめた。



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