1.やってきました許嫁
今日もいつも通りの毎日がくると思っていた。
起きて、歯磨きをして着替えて朝食を食べ、学校に行く。
それ以外の日常は考えられないし、この先も変わらないだろう。──そう思っていた。
唐突に俺の日常を変えたのは、大きく、柔らかい、生温かい感触だった。
明け方、まだ熟睡している俺の顔に突如として覆いかぶさったそれは、ほんのり甘い香りがしつつも確実に俺を窒息へと誘おうとしていた。
「んんー、んんーんー」
「んぁっ、そんな、激しくしたらダメですよ。吉田ちゃん」
苦しい……。苦しいぞ。なんだ、なんなんだいったい。つか吉田って誰だよ!
「んーん゛ー!!」
残りの酸素が5パーセントを切って走馬灯が見えかけた時、俺は自分の上にのしかかっている何かを力いっぱい押し返した。
──ドテっ
そう大きな音を立ててベッドから転げ落ちた何かを俺は慌てて確認する。
そこにいたのは無防備な寝顔を見せるかわいい女の子だった。
年齢は同じくらい。金色に輝く美しい髪にぽてっとした色っぽい唇、身にまとった淡いピンクの浴衣からは今にも溢れ落ちそうな豊満な胸の谷間が見えている。
もしかしたら先程の柔らかい感触はおっぱいなのか? おっぱいなのか!?
大事なことなので心の中で2回確認するが童貞の俺に確証を得れる情報ない。
それより誰なんだこいつは。
一頻り考えたところで思い当たる人物は浮かばない。
立ち上がり近づいてみると頭からは2本の小さな角が生えていた。
俺に角の生えた知り合いなどもちろんいない。むしろ角の生えた人間自体いるのだろうか。
不思議に感じた俺は角を指で突いてみた。
「あーんもう、ダメですってば吉田ちゃん。角はダメって言ってるでしょ! ってうわぁ! 獅童くん、いつ起きたんですか!」
起きた。こちらがびっくりしてしまうほどの見事な飛び起き具合だった。
「お前誰だよ? それになんで俺の部屋にいて、あまつさえベッドで一緒に寝ていたんだ?」
「ご、ごめんなさい、驚かせてしまって。寝顔を見に来たらつい寝てしまいまして……。それより私のこと覚えてませんか!?」
「いや、覚えてないし会ったこともないだろ?」
「やっぱりお義父様が言っていたことは本当なのですね」
「オトウサマ? 何が? どうゆうこと?」
訝しがる顔で聞き返した俺に彼女は「なんでもありません」と言ってかぶりを振ると、いそいそと床に正座し、一礼して頭を上げた。
「私は第15代魔王の娘。マリア=サタミニア。聖獅童くん、あたなの許嫁です」
そう言って小首を傾げて満面の笑みを浮かべた。