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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

狂気、愛、百合

作者: 理緒

「夏と言えば肝試し!」

 十月の冷たい風が吹く放課後の帰り道で山本(やまもと)アリサは言った。

「というわけでやらん? いい感じの舞台いくつかネットで見つけたからさぁ」

 麻野(あさの)黒葉(くろは)はため息をついてから返す。

「あんたはこの風を感じないの? 今バリクソ秋なんだけど」

「まあまあ聞いておくんなま。あたし最近ホラー映画にハマっててさぁ、ふと思ったのよ。なんであたしはあーいうワクワクする目に遭えないんだろって」

「現実と創作は違うからっしょ?」

「でも現実にも怪奇現象はあるじゃん」

「で、むざむざ遭いに行こうと? 絶対痛い目見る奴じゃんそれ」

「痛くてもいいんだよ。とにかくなんか異常な事態に見舞われてみたいの」

 ガチで命知らずなのか、口だけの奴か……。黒葉にはわかる。前者だ。彼女と友人になったのは一年ほど前。この付き合いが長い部類なのかは知らないが、アリサの人間性は一応わかっているつもりだ。こいつには恐怖心が欠けてる。

「喜べ。あんたのその危機管理能力のなさがすでに異常だ」

「えー。あたしにとってはこれで普通なんで却下ー。幽霊とかそういうのに会いたいわ」

「幽霊ねえ。当てはあんの?」

 アリサは大きな瞳をギラリと光らせる。

「正直めっちゃあるんすわこれが。さっきネットで調べたつったざんしょ? このあとうち寄ってってよ」

「んー別にいいけど」

 承諾すると黒葉はスマホを取り出し妹にLINEを送る。寄り道をするので帰りが遅くなる旨だ。

小雪(こゆき)ちゃんに?」

「うん」

 四歳下の妹である小雪とは二人暮らしだ。二年前──黒葉が中学三年生だった頃、彼女たちの両親は離婚した。姉妹も親を嫌いになった。そこで、父、母、姉妹という三組に分かれ、黒葉と小雪は実家で父からの仕送りで生活することになったのだ。

「ごめんねー。時間は取らせないよって伝えといて」

「もうLINE閉じちった」

「おぅでーむ」

 その十分後、二人は山本家の門をくぐった。ちょうど玄関付近にアリサの母がいたので挨拶をする。

「こんにちは。アリサの友達の麻野です」

「あぁ、きみが黒葉ちゃん? 娘から話は聞いてるよ。アリサもおかえり」

 アリサの母は愛想良く歓迎してくれた。……自分の家もこうだったらと思わなくもない。

「ただいまっと。ほら黒葉、はよ」

「……お邪魔します」

 人ん家の匂いだわーと深呼吸をしつつ友達について行き、彼女の部屋へ到着する。

 アリサは客人を放置しソファに飛び込んだ。

「あ"ぁーーーい!!」

 ばっふんという音が響いた。実に気持ち良さそうにくつろいでいる。

「で、幽霊の当てとやらはよ」

「ごめちょいまって、これ帰宅後の儀式だから」

「……」

 しばらくソファに埋もれたままくつろぎにくつろぎ、やっとアリサはその重い腰を上げた。

「では本題に入ろうか」

「腹っっ立つわー」

 黒葉は悠々とマッキントッシュを立ち上げるアリサを苦々しく睨め付けた。

「えー黒葉もその辺に座ってればよかったのに」

「はあ、もういいわ」

 百合作品の壁紙に彩られたデスクトップからSafariを起動し、アリサはブックマークから目的のサイトを読み込む。ちらっとブックマーク欄にいかがわしい項目がズラリと見えたが、そこには触れないでおくことにした。

「ほら、千葉県内だけで二十件ぐらいあるでよ~」

 画面には様々な心霊スポットが並んでいた。

「どこがいい? あたし的には廃墟がいいかなー。風情的に。でも危険度が低いところじゃ意味ないし……選び甲斐があるねぇ」

 黒葉はそれほど乗り気ではないので同意しかねた。蛮勇極まる悪友と違って人並みの恐怖心は持っているのだ。

「こことかいんじゃない」

 そう言って指したのは、見た目は程よく不気味で危険指標は低めな廃墟だ。だがアリサはその後者を見逃すはずがない。

「駄目駄目全然駄目。よく説明読んでみ、多少ラップ音の噂があるだけの場所ですやん。ガチ幽霊なんて期待薄でごわ」

「幽霊がこの世に存在するとしてあたしはそんなのに関わりたくない」

 そう言ったとき、まるで背筋を撫でられるような気分を感じた。……そうか、これが怖いもの見たさってやつか。

「ブルッてるぜ黒ちゃん。ほんとはワクワクしてんでしょ? ん?」

「むー……どうかね」

「いや、黒葉がホラーに目覚めるのも時間の問題だと思うわ。そうだなー、今日は一旦引いとくかな。あとでこれのURLLINEで送るからさ、じっくり選ぼうか」

「……わかったわかった」

 そういう風に話はまとまり、黒葉は山本家をあとにした。

 帰路の最中に小雪へ電話をかける。

「もしもし? あたしだよ」

 スマホはすぐに姉を慕う妹の声を届けた。

『あー姉貴! もう帰って来るの? 思ったより早かったね』

「いや、寄り道ついでに夕食の材料も買って来ようと思うんだけどさ、何がいい?」

『え、それはいいから早く帰ってきてほしいよー。ご飯は一緒に買いに行こ?』

 小雪は姉にベッタリだ。離れている時間が少しでも長引くのを嫌がっているのだろう。

 そして黒葉も妹には甘い。

「小雪がそれでいいならそうするよ。じゃ今から帰るから待っててね」

『うん!』


「おっ! かえりぃいいぃっ!!」

 妹の声が耳に入ったのは姉の足が玄関に入ったのと同時くらいだった。

「あっは、こんなとこで待っててくれたの? ただいま」

 小雪の頭を軽く撫でつつ靴を脱ぐ。

「じゃ、着替えて来るからね」

「姉貴、着替え手伝おーか?」

「なんでよ」

 生意気にも『姉貴』なんて呼び方をするが小雪は小動物系な性格である。それに対比するように黒葉は背が高くボーイッシュで面倒見がいい姉御肌だからとか、『小雪』と『姉貴』で語呂が似てて互いに似たような呼び合いができるからとかで、小雪は姉を斯くのように呼ぶのだった。

 その後、予定通り二人は近所のスーパーで買い物をし、二人で台所と食卓を囲んだ。

 入浴や就寝も共にすることも珍しくない。今夜も小雪は姉のベッドに入り込んで来た。

「またなの? しょうがないなぁ」

「だってそろそろ寒くなってきたし一緒に寝たいもん」

「電気毛布あるっしょ?」

 と言いながら黒葉も満更でもない。彼女は小雪の小さな体を引き寄せた。




「♪こ○~ゆき~~ねえ、伏せ字のおかげで君の名を上手い具合に呼べたよ。じゃすらっくもたまにはいい仕事するもんだね」

「……誰?」

「会うのは初めてだね。あたしはおねいちゃんのお友達の山本アリサでござる」

「あ……初めまして。姉がお世話になってます」

「あはは、いい子いい子。そうだねえ、これからも黒ちゃんとはお世話になり合い続けるだろうねえ。それこそ姉妹の絆を越えちゃうぐらいまで」

 小雪は髪がピクンと逆立った気がした。

「えー、どういう意味ですか? 姉貴と一番仲がいいのは永遠に私ですよぉ」

「家族としてはそうかもねー。でもあたしと黒葉は……んふふ……子供には説明しにくいかなあ」

「私もう13歳ですよ。そんなに子供じゃないですからぁ」

「あっはは、あたしも13ときはそんな感じだったかなー? まあとにかく、おねいちゃんの幸せはあたしに任せて候」

 飄々と手を振って去り行くアリサの姿が、小雪の瞳孔には憎らしく映った。




『今朝午前7時頃、千葉県C町の元ホテル安寧館の廃墟付近で男性の遺体が発見され──』

「……」

 ある夜、何気なくつけたテレビはいの一番にそんな情報を聞かせて寄越した。ホテル安寧館。その名が黒葉の頭に引っかかった。

 そうだ。例の心霊スポット一覧にあった廃墟の一つだ。

「ねえ姉貴」

 いつの間にか居間にいた小雪もテレビを見ている。その顔は、死亡事件のニュースなどではなくアニメでも見ているかのような表情で彩られていた。

 なぜそんな笑みを浮かべているんだ……?

 妹の細い腕が首に巻き付く。

「C町ってお父さんが住んでるとこだよね?」

「……!」

 確かにそうだった。

「もしこの事件が無差別殺人だとして、お父さんも殺されたら私たち生活に困るよね? ということで今ちょーっとした妙案思いついたんだけどさー」

 小雪がますます体を擦り寄せてくる。

「この家引き払って東京の(あおい)姉のとこに行かない? そこでお世話になればいいよ」

 蒼というのは父方の親族一家の娘で、つまり従姉妹だ。彼女の一家には何度か遊びに行ったことがある。確かに彼女らは黒葉と小雪を快く迎え入れてくれるだろう。

 だが、家を引き払うとなると色々と面倒だし、学校も別のどこかへ編入しなければならない。そもそも父が殺されるというのは勝手な推測に過ぎない。

「んん……もし仮に父さんが死んだら母さんを頼ればいいんじゃ?」

「あの冷淡おばさんが今っさら私たちの面倒を見てくれるような心境変化を迎えてくれたらね」

 それもそうか。戸籍的には黒葉たち姉妹は父方を選んだということもあるし、母との繋がりにもはや血の温度はないと言っていい。

 もし今回の事件が自殺や私怨による殺人でなく、小雪の言う通り無差別殺人だとしたら……そして父もその被害者になったら……確かに困る。今の時点でここまで心配するのは明らかに不安を飛躍させ過ぎているとは思うが……。

 しかし、日を経るにつれ、不安は『飛躍』という表現からだんだん『急ぎ足』へと緩んでいった。またしてもC町で死亡事件が起きたからだ。それも数件。ニュースによるといずれも他殺で、被害者たちの共通点は男性という点くらいしかない。

 クレイジーサイコレズが暗躍でもしているのだろうか。

 心がずくずくと不安に侵蝕されかけているある日の夜、アリサから実に不謹慎な電話がきた。

『ばんこんわーっす! 最近の安寧館付近の連続死知ってるよね? あれすげくね? 殺人鬼がうろついてるかもしれないし、はたまた被害者の亡霊がうろついてっかもしんないし、肝試しの舞台はあそこで決定といきたいんだけど』

「…………」

 本来ならわざわざそんな場所へ遊びに行く趣味はないが、自分と妹の家がかかってると言ってもいい事案だ。殺人犯の顔を拝みに行くのは蛮勇ではなく勇敢というものだろう。

「わかった。いつ行こうか?」

 素直過ぎる返事が意外だったらしい。

『えええ? そんな簡単に諒承してもらえるとは思わなんだ……。よーし、じゃいつ行く? あ、時間帯はもちろん夜ね。日中に肝試しとか言語道断な愚行よ』

 早い方がいい。

「明日の夜でどう? 時間は──」

 ──確か例の連続殺人の死体群の状態によると、犯行時刻の平均は──

「23時出発でいい?」

『おけおけ。つーかなんか妙にノリノリだね? どういう風のパラダイムシフトよ?』

「あんたに比べりゃだいぶ落ち着いてんわ」


 翌日の夜、小雪には「肝試しに行く」という部分だけ素直に伝えて家を出た。武器としてこっそり包丁を忍ばせたバッグを肩にかけ、自転車に跨がる。

 駅に到着するとすでにアリサが待っていた。

「遅いよ相棒。さ、行こうか」

 安寧館への距離は自転車で約20分。電車はまだあるが、帰りが何時になるかわからないので、終電を逃して徒歩で帰るという事態を危惧して自転車で向かおうというわけだ。

 秋の夜はさすがに冷える。かきわけられた空気が体に冷たく当たる。その上今から目指すは殺人多発現場だ。パーカーの下で鳥肌がぶつぶつ立つのを感じた。

 まだ深夜というほどの時間でないため街は息づいているが、宵闇はどうしても本能的な恐怖を喚起せずにはいられないたちらしい。

 そんな道中を終えれば待っているのは安息ではなく更なる恐怖だからやってられない。いや、安息ではあるかもしれない。Rest in p(安らかに)eace(眠れ)的な意味で。

「うんうん、それっぽい空気はあるね。探索のし甲斐ありっそ」

 アリサは安寧館の禍々しい姿を見て心躍らせている。殺人鬼という確実に存在する敵を警戒している黒葉としては、アリサにはもっと緊張してほしかった。

「気をつけてよ? ここは例の事件の舞台なんだから」

「うへへ、だから面白いんじゃんか」

「もうお前ただの死にたがりか!? いっそビルの屋上から飛び降りれば話早くね?」

「いや、それは単純過ぎてつまらん」

「わっかんねえええええ」

 みんな違ってみんないい──そんな格言を無理矢理飲み込んで黒葉は度せぬ友と廃墟に踏み入った。

 まず閉口させられたのはその汚さだ。廃墟だから当然だが、懐中電灯の光は朽ちた惨状しか照らさない。

「うっ」

「どした?」

「……あ、いや……」

 視界の端に動くものを見たのだが、ただの蜘蛛だった。

「足下には気をつけた方がいいね。色んな虫いそう」

「りょー」

 サク……サク……と響く自分たちの足音すらも不気味で、なるほどこれはまさに肝試しだった。夏にやりたかった。

「そろそろ二階行こか」

 ちょうど階段が見えたところでアリサが言った。

 階段は崩れたりしていないので上れる。……が、途中で思わぬ物体が眼前に現れ、不覚にも悲鳴を上げてしまった。

 青紫に変色した人間の腕が上からぶら下がっていたのだ。

「うおっ、びっくりしたぁ……何これものほん?」

 大胆にもアリサは腕を指先でつんつんと突ついている。上を見上げると、腕は紐で天井から吊るされていた。

 悪戯なんて次元の甘いものじゃない。ところで次元の度合いはどうであれ、これは明らかに人工的な仕業だ。誰が何のために?

 ……いや、まさかね。

「アリサ、ずいぶん平然としてるね?」

「いや、内心ちょいビビったけど……この程度で逃げ出しはせんよ」

 唾液が酸味を帯びてきた黒葉はすぐにでも逃げたかったが、例の殺人犯の手がかりを掴まなきゃ──という義務感を思い出しては、そもそもそんなの無謀な試みじゃないかという冷静な反発が起きたりして、どうしていいかわからなかった。

「大丈夫? ゆっくり深呼吸して」

 アリサが背中をさすってくれた。

「……ありがと……だいじょぶ、落ち着いてきた」

 結局、探索は続けることとなった。青紫の腕から目を背けて階段を上がり二階に到着する。

「…………」

 床や廊下には大小様々な赤黒い跡が見られる。

 血じゃないよな。そんなベタなことがあってたまるか……。

「しっかし不気味なのは結構だけどもこうも汚いのはね……もし潔癖性の人間なら発狂……うわ、なんだ?」

 そのとき近くで何かが崩れる音が響いた。

「……ラップ音?」

 黒葉は精一杯冗談めかした口調で言ったつもりだ。

「どっちかってゆーとポルターガイスト感があるね……でも普通に瓦礫が崩れただけかも。ボロッボロの廃墟だし」

 そう言いつつも彼女は黒葉の体に片手を回して抱き寄せる。一瞬安堵したと思った。思ったそばから不穏な匂いがつんと鼻をついた。

 なんだか生臭くて生理的不快感のある匂いだ。

 ……ついさっきも嗅いだ気が──

 そこまで考えて黒葉は足を止めた。

「…………行きたくない」

「黒葉?」

 死体やその欠損部位だ。それも、匂いの濃度と音の重さからして、結構な量があるに違いない。そんな物が、数歩歩けば目に入るほど近くに転がっている──

「っ……ごめん……もう帰らせて……」

「…………」

 アリサはがっかりするだろう──と思ったが、突如差した月光が暴いたのは、アリサの満足げな顔だった。

「いい……いい……いい……いい……いい……!! あああ苦労した甲斐あったわあぁ」

「へ……っ?」

 異様な表情を顔面にベットリくっつけている親友をまじまじと見つめる。

「可愛いよ黒葉ぁ……大丈夫だよ、あたしがついて………………あ」

 今度はその顔に『まずった』と書かれた。

「あ……りさ? 苦労した甲斐があったってどういうこと?」

「──────」

 質問は形骸でしかない。沈黙と時間が真実を垂れ流してくれる。

「あ……アリサ、この匂いとかさっきの腕って、作り物だよね? あたしを脅かすために作ったんでしょ? あはは……ど……どうやってあんなリアルなの作ったの?」

「……」

 アリサの口角はすっかり下がっている。

「ねえ……本物じゃないんでしょ?」

「……」

 その通りならすぐに肯定すればいい。そうしないということは、答えは『いいえ』だ。

「ごめん……あたしはほんとにただ黒葉が好きなだけで……あのほら、吊り橋効果っつーのであたしになびーてくれればなって……」

 吊り橋効果で気を引くためだけに大量殺人を犯す神経には世の中の広さを思い知らされる。

 ああ、そういえばこいつは希代の怖いもの知らずだっけ。目的のためならこんなことも平気でできるんだろうな……。

「ほんとにそれだけで……ただ、あたしもサイコパスじゃないからさ、いざ殺ってみると思ったより精神的にキたけど、後に引けなくて……ねえ、あ、あたしのこと怖い……?」

 月はまだ雲を退けている。彼女の様子ははっきり見て取れた。

 怖いに決まってる。ところで、なんだろうこの違和感は。

 ん。そうか。怖い。アリサが、あたしに嫌われるんじゃないかと怖がっている。あのアリサが、本気で恐怖という感情を露にしている。

『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』……。


 まずい。


 だめだ。


 可愛い。


 可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。

 可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。

 可愛い。可愛い。

 可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。

 可愛い。


 可愛い。殺人者に惹かれるなんてだめだ。でもこいつは悪意を持った殺人者じゃない。恐怖を知らなさ過ぎる故にズレてるだけなんだ。

 そうだ、あたしがこれから社会でのちゃんとした生き方を教えてやりゃいいんだよ。人生をともにして……。


「んぅ………………?」

 それがどちらの声なのか、どちらにもわかりはしなかった。いつの間にか二人は唇を重ねていた。────あれ……どっちから仕掛けたんだっけ? キス。それより……アリサの唇柔らかいな……。

 受け入れてもらえたことに安堵してか、アリサは嗚咽を漏らしていた。




 C町無差別連続殺人はこうして止んだ。よって蒼の一家へ引っ越そうという小雪の計画は破綻した。

『姉貴をあの泥棒猫から遠ざけたかったのにいいいいぃ……』

 どうやらシスコンな妹はあの事件を利用してそんなことを目論んでいたようだ。実に気の毒だが、かけてやる言葉も教えてやれる事実も見つからなかった。

 とりあえずアリサと付き合うことになったのは言わんでおこう。




      了


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