表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光と土の狭間にいる僕  作者: 二十四時間稼働中
8/49

第七話 『七』

 僕は意識を取り戻した。自分の体も取り戻していた。だが、土のなかにはいなかった。一体、ここはどこなのだろうか?僕がいる場所は人で溢れている。人の数に対応するように建物も高くそびえ立っている。空を見た。そこには一面の青い空。目線を戻せば、たくさんの人たちが街を行き交っている。車のエンジン音が鳴り響く。僕がいる街は騒音で溢れていた。どこかで見た風景だ。ああ、思い出した。ここは地上だ。

 だが、少し引っ掛かる部分がある。それは東京タワーと東京スカイツリーがあるということだ。そのような建造物があるのなら、ここは東京なのだろう。ならば、僕はここには相応しくない。いや、居てはならないのだ。僕が埋められた場所は〇〇県〇〇市という名の知れない田舎だ。そこから、東京までの距離は一体何キロあるのだろうか?それは調べないと分からない。とにかく、歩いて行ける距離ではないのは確かだろう。それに土を下に掘り続けたら、ブラジルに辿り着いてもいいはずだ(そこまで、掘ることはできないけど)。それなのに、僕は東京にいる。

 ということは、僕は違う世界に飛んだんだ。きっと、そうに違いない。やはり、土のなかにいると不思議なことばかりが起こる。こんなに精神を錯乱させるなんて。今、僕は興奮しているのだろうか?今まで、東京という都会に行ったことがない。それが実現したんだ。今この瞬間が幻覚だったとしても、東京という街の全貌を見れた気がした。僕はこの人込みの中に混ざろう、と思った。街中を歩くのは楽しかった。誰も僕のことを気付かない。僕は自由気ままに生きれるんだ。そう思えた気がした。

「歩こう、歩こう、わたしは元気、歩くの大好き、どんどん行こう」

 こんなに唄っても誰も気付かない。ほとんどの人がイヤホンをしたり、携帯をいじったりしている。僕は興奮していた。僕は何でもできる気がしていた。ここでなら、僕が何をしても許される。誰の邪魔もされない。僕はもっともっと大きく唄う。

「歩こう!歩こう!私は元気!歩くの大好き!どんどん行こう!」

 皆が僕の方を振り向いた。さすがに大声を出しすぎたせいだろう。僕の方を見る皆の眼は冷たかった。その眼はこの都会でも変わらない。今回は僕のせいだ。自業自得だ。自分で自分の首を苦しめてしまった。何も言わなければ、誰も僕を見ない。誰も僕のことを知らない、それがこの世界のはずだ。今も僕を見ているあいつらはただの他人だった。だからこそ、見られてしまったら、こんなにも苦しくなるし、こんなにも生きづらくなる。

「すいません」

 僕はその一言を残して、走っていった。一体、どこへ向かえばいいのだろうか?僕は東京を知らない。だから、どこへ向かえばいいのかなんて分からない。

「走る、走る、俺たち」

 僕は唄いながら走る。誰も聞こえていない。いつのまにか、人が溢れていた街から抜け出していた。

「走る!走る!俺たち!」

 誰も聞こえていない。僕は声の大きさで自分の気持ちを誤魔化そうとした。でも、無理だった。僕は小心者だった。それがつらくて、つらくて、今も走り続けている。一体、僕はどこへ向かっているのだろうか?もう一度、その問いを呟いた。やはり、僕には分からなかった。僕は人のいないところに行きたい、と思っているのだろうか。それが一番分かりやすい答えのような気がした。だけど、合っているかどうかなんて分からなかった。誰にも分からない。だって、僕自身にも分かっていないのだから。

 僕はやっと走るのをやめた。ここは地上だ。そして、僕の埋められた場所と同じような

山だ。僕は土を掘り始める。何故、そんなことをしているのかは分からない。ただ、掘り続ける。ここに何かあるのだろうか?たぶん、何かがあるから今も掘っているのだろう。とにかく、僕は掘り続ける。爪が割れそうだ。それでも、僕は掘り続ける。一体、何があるんだ?分からないから、僕は掘り続ける。掘る。掘る。掘り続ける。掘る。掘る。掘り続ける。どこまで?知らない。掘る。掘る。掘り続ける。そこに何があるんだ?だから、分からないんだって。掘る。掘る。掘り続ける。一体、どこへ向かおうとしているんだ?分からない。掘る。掘る。掘り続ける。何を探しているんだ?僕の大事なもの。掘る。掘る。掘り続ける。

 あった。そこには一人の少年がいた。僕の求めていたものだ。ずっと探していたんだ。もう、君を見捨てない。僕は少年を抱き締める。だが、彼は何の反応も示さない。抵抗もしない。僕は自分の耳を少年の唇に近づける。息をしていない。次に脈を確認する。動いていない。死んでいる。少年はもう死んでいた。僕はもっと強く抱き締めた。

 嘘だろ?嘘だ、と言ってくれよ。お前はまだ死んではいけないんだ。生きなければならないんだ。死ぬな!生きろ!生き返ってくれ!ここで死ぬな!お前はやらなければならないことがあるんじゃないのか?ここで死んでいいのかよ。

 僕は人工呼吸をした。ファーストキスなんて知るか。僕はこの少年を助けなければならなかった。少年は僕にとって大切な存在なんだ。人工呼吸をした後、心臓マッサージをする。そして、また、人工呼吸をする。人工呼吸、心臓マッサージ、人工呼吸、心臓マッサ

ージ、人工呼吸、心臓マッサージ、人工呼吸、心臓マッサージ、人工呼吸……息を吹き返しては来ない。もう駄目か。僕は少年を諦める。大切なものを失った僕はどうすればいいのだろうか?もう分からなくなってしまった。目標が消えてしまった。結局、僕は誰も救えなかったんだ。自分自身すら救えない。何にもできない。

 やはり、ここでもそうなのか。ここは夢のようで夢ではないんだ。現実と大して変わらない。なのに、何で僕はこんなにもこの場所をこだわっているのだろうか?分からない。いや、分かっているんだけど、上手く言えない。僕には確実な自由が存在していない、としか言いようがない。その確実な自由がなかったらこそ、僕は少年を救うことができなか

った。

 いくら、僕が創っている夢のなかだとしても、その外側には誰かがいて、その誰かがこの場所の枠組みを創っていて、僕が勝手にそんな世界に入り込んでしまったのだ。いや、少し違う。それは僕の意志で入っているわけではない。それは別の誰かであり、僕でもある誰かだ。

 少年は生き返らない。ここには魔法なんて存在していない。何故だろう?僕は疑問に思う。この場所は東京のはずだ。東京には何でも存在していないのか?僕は愕然とする。どこにいても、意味がない。ただただ、現実に近づいている気がする。僕は少年が生き返ってくれるように、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。意味がない。何をやっても、復活しない。どうすればいいのか?僕は医者ではない。僕にはどうすることもできない。僕はそういう分野ではない。僕は考えるのが仕事だ。こんなもん、考えても仕方がない。どうすることもできないのだから。

 僕は少年を地上に置いて、少年が埋まっていた土を掘り始めた。一体、僕は何をしたいのだろうか?分からない。それでも掘り続ける。そこに何がある、というのだろうか?分からない。それでも掘り続ける。それが僕なのだ。変わらない。僕はいつも同じ幅で同じ歩調で歩いている。変わらない。単調すぎる。僕は走らなければならないのだろう。だけど、肉体的には走れたとしても、精神的には走れない。僕はいつも同じ精神のまま、進んでいる。強くなんかなっていない。僕はただ掘り続ける。この先に何かがあっても、なくてもいい。ただ掘り続けたいんだ。その掘るという行為に意味付けされるだけで。それだけでいいんだ。僕はそのためだけに生きているようなものだった。

 掘る掘る



   何のために?


            掘る掘る

            


          死ぬためにか?

                        掘る掘る


  意味があるのか?

             

 

               掘る掘る


 何でもいいのか?

     掘る掘る

 

              悲しみを載せていくのか?


 

 掘る掘る

            

         そこに行っても変わらないとわかっていてもか?



 掘る掘る

          掘る掘る掘る掘る


      掘る掘る


          そこが世界になるかもしれないんだぞ?



 掘る掘る

                    

             君の望むものはないんだ。


          掘る掘る。この世界を全て掘り尽くす。


        

 壊すのか?


   分からない、壊しているのかもしれない。

        

            内部に閉じこもっているだけなのかもしれない。



 掘る掘る



           掘る掘る


掘る掘る掘る

              掘る掘る掘る掘る


                  掘る掘る

  全て掘る


   

      掘る掘る

                       掘る掘る


        掘る掘る掘る掘る掘る掘る


       

     一体、どこへ進むんだ?


             一体、何を掘るんだ?


 僕は深く深く、土を掘り続けていた。もう、あの青い空は消えてしまった。紅い空も通り過ぎていた。黒い空だけがこの世界を支配している。僕は恐ろしくなった。高揚感を覚えた。それでも掘り続ける。空の方を向くたびに、空は小さくなっている。不思議と落ち着いてくる。不安になる。今の僕は不安定になっているのかもしれない。どれが本当の自分なのか、どれが偽者の自分なのか、分からなくなってくる。いや、もともと、本物の自分と偽者の自分なんて存在しないのかもしれない。だが、僕がもっとも恐れているのはその可能性があるということだ。一回、そう感じてしまったら、僕のなかで存在してしまうんだ。それが一番僕が恐れていることだ。真実なんてどうでもいい。そんなものを知ったとしても、僕の不安を取り除くことはできない。僕はその真実を真実として受け止められない。それが真実だと思い込ませようとしても、やはり、その存在を全否定することができないのだ。

 そこでふと思う。自分が存在している、と思っても、思ってなくても、それが存在しているか、存在していないか、そう論じた時点で、それはもう存在している、ということになるのではないか?

 僕は掘り続けていた。もう空なんかほとんど見えない。こんなに小さかったんだな。土の偉大さを感じさせる。いや、これは僕の夢だからこそ、そういう風に見えているだけなんだろう。本当の世界では土が空に勝ることなんてないのかもしれない。現実で僕はこんなに深く掘ってなどいない。いや、そんなことはない。僕は今も掘り続けているんだ。僕はただ現実で空を見ていないだけだ。もし、現実に戻ったら空を見よう。お前は現実に戻りたいのか?誰かがそう囁いた。僕は黙々と掘り続けた。それでいい。もう考えるのが面倒になってくる。今言ってる僕は本物だろうか、それとも偽者なのだろうか?面倒だ、と思いながらも結局考えてしまう。

 本当のところはどうなのだろうか?僕を僕だ、と認識できているから、今の僕は本物の僕に違いない。だから、この行為は僕の意志でやっているのだ、と思う。これ以上、こんなことを考えていたら、気が狂ってしまいそうになってしまう。僕は無心になって、土を掘り続ける。爪が剥れているが、痛みはない。僕は掘り続ける。僕は掘り続ける。一体、どこまで?ゴールはあるのか?また誰かが僕の頭のなかで囁いた。そんなもんなんてあるもんか。ゴールがあるんなら、それはどこにある?僕はそんなテープを切った記憶なんてないぞ。死んだらゴールなのか?まさか、それだとつまらなすぎる。

 僕の体が宙に浮いた。誰かが僕を持ち上げたんだ。いや、これはただの機械なのかもしれない。ウイーンウイーンと僕の耳元に機械音的なものが聞こえてくるのだから。一体、誰が僕の邪魔をしたんだ。僕は掘るんだ。掘らなければならないんだ。そんな声は機械には届かない。ただ、誰かの指示に従いながら、僕を持ち上げる。ああ、機械だな。僕と一緒のような気分になる。僕も機械だな。僕は動けなくなる。機械と自覚してしまったせいだろうか?いや、僕は機械ではない。それでも、動けない。やはり、機械なんだ。違う、機械じゃない。動かない。機械じゃないか。ち、違うんだ……。

 一体、僕はどこまで持ち上げられるんだろうか?雲の上はすでに通っているはずだ。このままだと大気をぶっ壊し、宇宙に行ってしまう。いや、その前に僕は燃え尽きているだろう。どこまで、進むんだ?僕は視線を地上へと向ける。どうやら眼球だけは動けるようだ。

 そこにはあの少年がいた。いるのは当たり前なのだが、少年は立ち上がって僕に向けて手を振っていた。要するに少年は生きていたんだ。何だ、この世界は僕を騙していたんだな。はははははは、酷いな。そんなことしなくてもいいじゃないか。こんな残酷なこと、しなくてもいいじゃないか。つらいよ。僕は動かない体を動かそうとした。だけど、上手く動かない。この世界もあの世界と一緒だ。僕とは関係なしに動いているんだ。僕が動けなかった、としても、この世界は動き続ける。僕は涙を流す。そのせいなのか、僕の視界は狭くなる。このまま、意識がなくなってしまうだろう。これで終わってしまうのか?僕の東京巡りは?早かった。もう少しだけ堪能したかった。でも、仕方がない。この世界に僕の意志などではなんてどこにもないのだから。これにて終わり。僕の世界は揺らぐ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ