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光と土の狭間にいる僕  作者: 二十四時間稼働中
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第四話 『四』

ここはどこ?僕は辺りを見回す。物しかない。人もいない、動物もいない、植物もいない。生き物と呼ばれているものはここには存在していない。いや、一人だけいる。それは僕だ。僕だけが生き物として、ここに存在している。

 冷蔵庫、エアコン、ラジカセ、テレビ、パソコン、扇風機、ヒーター、ゲーム機、電子レンジ、カッターナイフ、本、CD、ゲームソフト、スピーカー、アニメのポスター、雑誌、時計、ぬいぐるみ、本棚、クローゼット、瓶、缶、空の弁当箱、ライトノベル、イラスト集……全てが物だ。僕はその周りにいた。どこまでも囲まれていた。いや、ただ単に床に散らばっているだけだった。それを僕はあえて不規則に囲まれていると感じていた。その囲んでいる物たちは、全部使い物にならなくなっていた。全部、故障している。僕は治そう、と思った。だけど、できなかった。僕にはそれを治す技術が備わっていないからだ。僕は諦める。いつもの僕だ。結局、僕は誰も救うことができない。大事な物を救えない。何をやっても、駄目なんだ。生きる意味がない。死にたい。それでも、僕は死なない。そういう風にできているから。人間は脆くても強いから。一体、どうやったら人間は死ねるのだろうか?

 僕は死にたい、といくら思っても、その願いは自分によって否定された。

『大丈夫だよ、死んでない今はまだ。僕はまだ死なない。死ねない。つらいだろう。それでも大丈夫だよ。今はまだ生きているから。だからこそ、僕は前に進まないといけないのだろう。こんな苦痛など味わいたくなくても、生きるために』

 それでも、僕はこの土にいたい。

 僕は今までの自分を否定した自分を否定した。それでいい。僕は変化しているんだ。人間なんてなかなか変わることなんてできない。だが、僕にはそれができた。これは凄いことではないか。褒められるようなものだ。そう思っても、僕を褒めてくれる人なんてどこにもいない。僕は自分で自分を褒めることにした。それでいい。それが僕なんだ。結局、僕は何にも変化していないのではないか?自分を否定した、としても僕の根底は何ひとつも変わっていなく、ただ見た目だけの変化なのかもしれない。それでもいい。それを変化と言ってもいいじゃないか。僕はまだ進まなければならない。これから僕がどうなるかなんて誰も分からない。いや、僕だけが分からないかもしれない。それならそれでいい。とにかく、前に進もうと思う。これが僕の変化だ。見かけだけの変化だとしても、それでも僕は進む。死へと向かう道を。

 そんなことを考えていたら、物が僕の周りをさらに囲んだ。今度は規則的に。この規則性のある囲みは、壁と言ったほうがいいかもしれない。壁が作られたことにより、僕は逃れられなくなった。

 何て奴らなんだ。この瞬間を狙っていたのか。僕が油断している瞬間を。痛いところを突かれてしまった。僕が前向きになったときはあまり周りを見ていない。これは直すべき点であった。こんなことなら、もう少し真剣に直しておけばよかった。囲まれてしまっては、仕方がない。この物を壊すしかない。それが一番、手っ取り早い選択だろう。だが、僕はあえてそれを選ばない。どうせ、壊したって意味なんてない。壊れたとしても、またその壊れた物はそのまま僕を囲み続けるだろう。それに、よく言うではないか。物に当たるな!って。それは僕の親だけなのかな。他人のことなんか分からない。何にも分からない。何にも知らない。

 僕はそのまま立ち止まって、囲まれてない上空を見た。そこに僕たちの空はなかった。ただ、銀色の空があった。僕は思った。きっと、あの銀色の空を壊せば青い空があるのだろう。結局、僕はどこまでも物に囲まれていた。いや、これは僕が望んだことなのかもしれない。僕はあの空が嫌いだったのかもしれない。いつまでも続き、いつまでも変わり続けているあの空を。青くなったり、紅くなったり、黒くなったりする空を。たぶん、この銀色の空はいつまで経っても、変わることはないだろう。壊さない限り。いや、いつか錆びていくのかもしれない。この銀色の空は人工的なものであり、金属的なものだから。人が作ったのなら、それはいつか壊れてしまう。壊れてしまうから、また新たな物を作ったりする。壊れてはならない物は、それを治すための道具を新たに作ったりする。人間はそうやって物を作っている。僕はまだ子供だからよく分かっていないが。

 子供と言うのは逃げだ。それさえ言えば、僕は阿呆、と認知される。だから、間違えてもいい、ということになる(場合にもよるが)。もうやめよう。子供なんて言うのは恥ずかしい。それを使うのは自分に自信がないということだ。僕は自分の意見が合っているかなんて分かっていない。いや、そのことが問題じゃない。ただ、それに対する周りの反応が問題なんだ。彼らの答えと僕の答えは常に違う。だから、僕が発言をするたびに彼らは冷たい眼で見る。彼らが納得する答えを言わなければならない。だけど、僕はそれに答えることができない。分からないからだ。彼らの求めている答えが分からないからだ。どれほど考えても思いつかないからだ。

 一日かけても分からない。一週間かけても分からない。一ヶ月かけても分からない。半年かけても分からない。一年かけても分からない。一日かけても分からない。一週間かけても分からない。一ヶ月かけても分からない。半年かけても分からない。一年かけても分からない。一日かけても分からない。一週間かけても分からない。一ヶ月かけても分からない。半年かけても分からない。一年かけても分からない……。

 誰も教えてくれなかった。誰も答えを教えてくれなかった。僕は求めていた。それでも教えてくれなかった。どうすればいいのか?僕は悩んでいた。その答えが子供だった。子供だから分かりません。それだけだった。それを言ったら彼たちは馬鹿にした。だけど、あの冷たい眼よりはマシだった。人間はいつもマシな方ばかりを選んでいる。結局、僕は彼ら人間と何の変わりもなかった。どこまでも一緒だった。僕は人間だったんだ。

 僕は涙を流していたのか、頬がやけに冷たくなっていた。手で頬を触る。やはり、僕は涙を流しているんだ。銀色の空を眺める。さらに涙が出る。何で今僕は涙を流しているのかは分からない。もしかしたら、自分が人間だったことを喜んでいるのかもしれない。本当にそうなのだろうか?あいつらが嫌だったから、僕はここにいるじゃなかったのか?なのに、僕は人間でありたかった?あんな醜い生き物に?僕は普通の人間でありたかったのか?お前の望んでいるものは何だ?何のために創ったんだ?この世界は何のためにあるんだ?いくつもの問いが僕を支配していた。

「ポチャン、ポチャン」

 水滴の落ちる音がする。

 その水滴の音で気付く。頬を冷たくさせているのは涙などではなかった。冷蔵庫の水が僕の頬に当たっているだけだった。僕は自分が涙を流しているのか、いないのかすら、分かっていなかった。何だよ、僕は何にも知らないのかよ。やはり、僕は無知なんだ。自分のことを無知だ、と知っているから、凄いんじゃないのか?僕は他の人よりも優れているんじゃないのか?いや、そうじゃない。僕は他の人よりも優れていない。僕は無知すぎるんだ。何にも知らないんだ。世界中の人が知っている問題を僕だけが解けないんだ。僕はソクラテスにはれない。哲学者なんかにもなれない。僕は何にもなれない。僕はいつまでも僕なんだ。それなら、それでいいじゃないか。僕だけが隔離されているままでいいじゃないか。お前は常に一人だ。周りには誰もいない。まあ、物はあるかもしれないが。それでも、生きているものなんていない。生物はここにいない。お前がずっとお前のままでいるから、こんな世界も創れるんだ。よかったじゃないか。お前は自分だけしかできないことをしているんだ。誇れよ。そういえば、誇れる相手がいないのか。残念だな。まあ、そんなに落ち込むことではない。あいつらみたいな奴に誇っても何の意味もない。自分のなかだけで誇ればいい。それだけでいい。ほら、いくらか心が楽になっただろう?それでいいんだよ。お前はそれで。

 僕はもう一度、銀色の空を眺めた。何だか別にどっちでもいい気がした。青い空でも紅い空でも黒い空でも銀色の空でも。


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