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光と土の狭間にいる僕  作者: 二十四時間稼働中
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第四十一話 『四十一』

 お腹が空いていた。喉が渇いていた。さっきから、お腹が鳴り続けていて、何度もつばを飲み込んでいた。腹に収められるものを探すため、ずっと歩き続けているのだが、空白で足に力が入らず、一歩一歩が重くて今にでも倒れそうになる。もし、このまま倒れてしまったら、二度と立ち上がることはないだろう。それほどまでに疲労していて、お腹が空いていた。掠れる視界の中で僕はある場所へ辿り着いていた。そこには大きな木が一歩だけあって、囲むように周りは緑の草が生えていた。

 やっとの思いで、僕は見つけたのであった。食料の前で、先ほどよりも一層にお腹を大きく鳴らした。その木に実っていた赤い果実を何の迷いもなくもぎ取った。その瞬間、誰かの声が聞こえた気がしたのだが、食事の前にそれ以上は深く考えられなかった。そもそも、今の僕に考える力がなかった。そうして、僕は初めての食事を赤い果実で終えた。その食事は最悪なものであった。赤い果実を齧るたびに、爛れるように外側から崩れ始めた。身の毛もよだつような光景だった。何週間も放置された死臭のような臭いがさらに僕を不快にさせた。だけど、腹を空かしている僕はそんなものしか食すことができなかった。

 さっきから、妙に頭が重くなっていた。先ほどまでは、何も感じないくらいの重さだった。それなのに、今では誰かに押さえつけられているような重さを感じる。果実を齧るたびにそれは増していく。いつしか、この重みで脳が破裂してしまうのではないか。だが、その寸前に僕のお腹は満たされていた。

 僕は次に過去のことを考えていた。昔の僕は誰に対しても優しく人を傷つけよう、と考えたことなんて一度もなかった。それなのに、そのはずなのに、僕の周りには誰もいなかった。僕が近付こうとするたびに、誰かが遠ざかり、それに合わせるように周りの奴らも遠ざかっていった。僕の心はいつまでも孤独だった。空いた穴がいつまでも埋まらずに、ひとりであることを嘆き続けていた。どうしてこうなってしまったのか、と自分にも分からなかった。そんなに醜い顔をしていただろうか?そんなに僕の行動は可笑しかったのだろうか?僕は普通の人間でありたかった。学校で馬鹿なことをして友達と笑い合ったり、休日では追いかけっこして遊べるような友達がいて、ひとりでいたいときには誰にも邪魔されない……そんな学校生活を過ごしたかったんだ。それなのに、誰も僕に寄り添ってくれない。

 陰鬱な気分になっている、と急激に吐き気が襲ってきた。喉を絞めて、必死に吐瀉物を抑え込もうとしたのだが、胃から次々と押し寄せてくる。そうして、今まで食したものを吐き切った後、あの重くなった頭も空気のように軽くなった。胃の中身が空っぽになったせいなのか、またお腹が空いていた。木を見てみると、まだあの赤い果実はたくさん残っていた。僕はまたそれをもぎ取って、噛り付いた。

 両親のことを考えていた。兄と姉のことを考えていた。僕はあの人たちの家族で会ったのだろうか?誰も僕の顔に似ていなかった。考え方も違っていた。もしかしたら、僕は取り間違えられた子だったのではないだろうか?そうだったら、どれほど良かったのだろうか。あの人たちが家族でなければ、逃げ場はあった。僕の居場所はあった。どこにいるかも分からない本当の両親のことを考えられることができた。だけど、仏壇の部屋に立てかけている写真に写る祖父は僕の顔にそっくりだった。それを見た瞬間、自分は絶望していた。結局、あの人たちの家族であることは間違いなかった。僕の逃げ場なんてないんだ。僕の居場所はどこにもないんだ。

 僕はまた赤い果実を吐いてしまっていた。そうして、また空腹を感じて、木に実っている赤い果実をもぎ取る。食しては吐く、を何度も繰り返していると、妙に周りが明るくなっていることに気が付いた。よく見ると、そこには花畑ができていた。いつのまにか、赤い果実があった木は枯れていて、どこまでも続いている花畑ができていた。


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