第三十三話 『三十三』
眼を覚ます。一体、今の映像は何だったのだろうか?僕は高校生のはずだ。なのに、なのに何故?僕は大人になっていたんだ?いや、あれは僕とは別の誰かではないのか?きっと、そうに違いないんだ!僕の頭のなかに住むあいつだ!おい!お前がこんなもの見せたんだろう?一体、お前はどっから来たんだよ?お前は東京出身なのか?それとも、僕と一緒で田舎で生まれたのか?なあ?教えろよ。いるのは分かっているんだよ。答えろよ。いいから答えろよ。何、躊躇しているんだ?自分のことを話したくないのか?勝手に僕の頭のなかに住んでいるくせに?なあ?教えろよ?教えろってば。なあ?なあ?聞いてんいるんだろう?なあ?いい加減にしろよ。教えろよ?教えろ!いいから答えろよ!何でもいいか言えよ!いるのは分かっているから。おい、いないのか?
『……』
まさか、いないとか言うんじゃないだろうな?そ、そんな冗談は通じねえよ。なあ?いるんだろう?なあ?何か言ってみろよ?僕が怒鳴ったりしたから、出てこないのか?もし、そうなら謝るよ。ごめん。なあ、許してよ。何も言わずにいなくなるなんて酷いじゃないか。僕の邪魔ばかりして、勝手に消えるのかよ。なんて無神経な奴なんだ。お前なんか大嫌いだ。お前なんかいなくなってしまえばいいんだ。なあ、何か言ったらどうだ?それとも聞こえないのか?
……僕は物々と頭のなかで呟いていた。だが、そこには誰もいない。皆、消えてしまったんだ。いや、元々彼らはいなかったんだ。僕が勝手に創ったんだ。僕はその存在があることによって満足していたんだ。だけど、もう必要じゃなくなった。
秋になってしまった。秋といえば読書。僕は読書欲が増えたのだ。僕はいつのまにかあの世界から離れていたのだ。もう頭のなかの住人はいない。彼らはあの世界にしか存在できないんだ。一回、離れてしまったら、彼たちがここに戻ってくることはない。彼たちはそのまま消滅していくんだ。僕は離れてしまったんだ。あの世界が必要じゃなくなったんだ。もういらないんだ。僕は本によってこれとは別の世界を創っていくだろう。さようなら、表装だけの世界。僕はやっと最終駅を見つけた。




