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光と土の狭間にいる僕  作者: 二十四時間稼働中
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第二話 『二』

 僕はまだ掘り続けている。今まで使っていた道具は使い物にならなくなってしまっていた。何故、土のなかにあるはずのないものがあるのか?一体、この道具はどこから出てきたのか?いくつもの疑問が次々と浮かんでいくであろう。決して、僕の傍にドラえもんがいるわけじゃない。ここにドラえもんはいない。この世界のどこにも。現実の世界、マンガの世界、それが僕とドラえもんの差。僕は嫌だった。この差を埋めたかった。だけど、そんなことはできない。ここからは逃れられない。僕は現実にいて、ドラえもんはマンガにいる。

 この道具は誰かが置いて、忘れていった物。もしかしたら、僕を埋めるときに、暴力団みたいな奴が使った物なのかもしれない。こんなちっぽけなスコップで?そんなの不可能だ。たぶん、子供がたまたまここに置き忘れただけだろう。そして、たまたま僕を埋めるときにこいつも一緒に埋められたのだろう。そうとしか考えられない。そうとしか考えてはいけない。

 そして、僕は必然的にそのスコップを使った。ただ、それで掘り進めていた。どこまでもどこまでも続く、地中に。僕は少しずつ進める。そして、また掘り続ける。ただの鉄の棒で掘り続ける。削れる。鉄の棒?土?どっちだ?どっちもだ。初めよりも深く掘ることができない。もう使い物にならない。スコップの先はいつのまにか壊れていた。捨てる。その辺の適当なところへ。ただのゴミだ。使えない物はただのゴミだ。僕は手で掘り進める。爪が割れた。痛みを感じる。鉄の棒のほうがまだマシだったかもしれない。僕はまた鉄の棒を取り出す。ただの鉄の棒で掘り進める。

「ビリッ」 

 紙が破れたような音がした。

 ここで?地中でそんな音がするははずがない。掌で土を擦って、その音を探る。そうすると、ノートが露わになった。どこにでもある大学ノートだ。僕は開く。何にも書かれていなかった。最後のページまで開いたら、そこにはある文字が書かれていた。

『光と土の狭間にいる僕』

 どこかで聞いたことがある、と思った。たぶん、これは何かの小説のタイトルだろう。僕は何故かそのタイトルに不思議と親近感があった。

「ふっ」

 僕は唐突に笑い出した。 

 最後のページから書き出す物語。僕は興味が湧く。少しだけ読んでみたいと思った。だけど、この続きなんてない。あるのは、たったひとつのタイトルだけ。一ページ、一ページ、丁寧に注意深く読んだが、それ以上のことは何も書かれていなかった。それで、いつまでもここに留まる必要はなくなった。

 僕はそのノートを捨てて、鉄の棒で掘り進める。割れた爪が痛い。それでも進まなければならない。一体、どこへ?さっきからどこへ進んでいるんだ?外に出たいのじゃないのか?外に出たいのならそこへ進むのではないだろう?お前は進む場所を間違えている。そこじゃない。お前は逆方向に進んでいる。いいんだ。これでいいんだ。僕は間違っていない。このままでいいんだ。僕は掘り進める。ただの鉄の棒で。外に出なくてもいい。何で外に出なくていいのだ?何でだろう。ここを居心地がいい場所、とでも僕は思っているのだろうか。分からない、それでも掘り進める。ここはどこ?知るかそんなこと。どこでもいいじゃないか。僕は掘り進める。何がしたい?別に何でもいいだろう。僕は僕なんだから。それでいいじゃないか。何か問題でもある、と言うのか。僕は掘り進める。お前は生きたくないのか?僕は掘り進める。お前は死にたいのか?僕は掘り進める。ただただ、掘り進める。

 穴が開く。僕は構わずに土を掘ろうとした。だが、その小さな穴から光が見えた。懐かしい光。人々を照らし続ける光。どういうことだ?何故、ここにあるのだ?僕は間違ってしまったのだろうか?ここじゃない。僕はここに行きたくない。

 僕は引き返そうとする。だが、もう遅い。僕が開けた小さな穴は段々と広がっていく。光は土を溶かしてしまうのだろうか?そう思った瞬間、僕の下半身はその光に包まれる。必死に抵抗するために、僕は周りの土に掴もうとする。だが、硬くて掴めない。僕は爪を立てる。割れた爪がギシギシと鳴って、爪が剥れそうになる。僕は恐ろしいことになる前に爪を土から剥がす。僕は完全に光に包まれた。僕はその目映い光の中で痛む爪を押さえることしかできなかった。このまま僕も溶けてしまうのだろうか?ある意味、そのほうがいいのかもしれない。僕は諦めて、その身をまかせる。


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