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光と土の狭間にいる僕  作者: 二十四時間稼働中
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第二十六話 『二十六』

 何十個もの重りを背負っているような気がした。体が鉛のようになって、動くことができない。このままでは脱水症状を起こして、この場で倒れてしまうかもしれない。死、という言葉が一瞬ではあったが、頭によぎった。その度に頭を振って、何とか堪えようとした。

 暑い、今年一番の暑さだ。この日に外へ出る奴なんているのだろうか?僕は辺りを見回した。街に溢れるのではないか、と思うほど、多くの人が歩いていた。こんな日ぐらい休みにして欲しいものだ。僕は溜め息を吐きながら、自分の仕事場へと向かった。

 僕は今年の四月からある工場に通うことになった。あれから、三ヶ月が経って、大分仕事内容にも慣れてきた。

「一体、どういうことなんだ!どうして……どうして、こんなことになっているんだよ。嫌だ、こんなの見たくない。こんな人生なんて……」

 工場のプラントオペレータという仕事をしており、プラントの操作を任されている。

「やめろ!聞きたくない、そんなこと何ひとつ聞きたくない。喋るな!僕にこんなを見せるな!」

 上司や先輩はとても優しく、右も左も分からないような僕に親身に接してくれている。時々、失敗して怒鳴れらてしまうことはあるけど。まあ、それに関しては僕のほうに落ち目があるから、仕方がない。同僚も高校生のときの同級生で、話し相手に困ったりはしない。

「一体、何を言っている?一体、何が言いたい?やめてくれ、これ以上進めないでくれ。本当に頼むから……」

 初めて給料明細を貰ったときは、とても感動した。一ヶ月間、死に物狂い働いた甲斐があった。早速、銀行から一万円を下ろし、その手で本を何十冊か買った。これで、今日も生きていける、と思いながら。

「やめろ!」

 あまりにも残酷すぎた。こんな世界なんて、この土のなかにあって欲しくなかった。この世界は、現実で本当に起こり得るからだ。僕は工業高校に通っており、ほとんどの人が卒業したら就職である。もちろん、僕もその中の一人である。作家という夢を諦めるしかなかった。もうチャンスなんてほとんど残っていない。いや、もう最後のチャンスだ。就職先は決まっている。その間に残された学生生活の間に一作品、書き上げなければならなかった。絶対に無理だ、と思った。投稿しよう、投稿しようと何度も思っても、また来年でいいや、と言って、結局のところ諦めてしまう。それがこの結末だ。就職しなければならない状況に陥った。地獄のような人生だった。もう、僕の人生なんて終わり、と言っても、過言ではない。

「それでも、諦めるわけにはいかない。この最後のチャンスに全部をかけるんだ。これまで受けた仕打ちを。これまで考えていたことを。十八年間の全てを書き続けるんだ。そうすれば、ずっと夢だった作家になることができるかもしれない」

 僕はたったその僅かな可能性にしがみつくしかなかった。そうしなければ、自分の身が持たなかった。誰だって、針山に向けて身を投じたい、とは思わないだろう。だが、僕に一刻の猶予もなかった。僕の足場は段々と不安定になっていて、いつしか地獄に落ちてしまうだろう。もう、下にある地獄しか見れなくなっている。昔のように、上を見ることは許されていない。僕はその中で小説を書いている。極限な状態だった。いつ壊れても、不思議ではなかった。何で僕はこんな風にしか生きることができないのだろうか?

「そこにいるのは僕なんだろう?そんな生活をして、本当に幸せなのか?」

 誰とでもなく、そう話しかけた。僕は早く終わらせて欲しかった。このあまりにも残酷すぎる世界を。誰もこの土のなかで現実を求めたりしない。現実から逃げた結果、僕はここにいるのだから。今までは過去に起こったことを見ていた。だが、今回の世界は今までの世界よりも残酷で、なかなか立ち直ることができない苦痛を味わった。まだ、起こっていない現実を見てしまったのだ。それは未来の自分だった。決定事項になってしまった未来の自分だった。それが、どれほど悲惨なことなのか分かってもらえるだろうか?もう抗うことのできない未来が見えてしまうことに対して。

『……』

 結局、あいつは一言も喋ることはなかった。ただ、黙って僕の声を聞いているだけだった。いや、もしかしたら、無視をし続けているのかもしれない。もしかしたら、僕のことを認知できていないのかもしれない。

「おい、何か言ったらどうだ?黙っているなんて、あんまりにもせこすぎる。そんなのただの逃げだ。まあいい。どうせ、お前が今の生活に満足しているのか、していないのかの問いの答えなんて、初めから分かっていることだ。別にわざわざここで聞くことではないのかもしれない。それでも、喋ってくれないか?このまま、終わらせたくないんだよ。いや、君がこっちに加わるまで、終わらせることはできないんだ。一言だけでもいいから、喋ってくれないか?」

 その願いが叶うことなんて、結局なかった。時間はやがて過ぎていき、俺はいつしか社会人になってしまった。作家になるために、色々と努力してきた学生時代とは違い、今は働くことで精一杯だった。もう、自分が夢を叶える時間なんてどこにもない。定年を待ってから、と言うのなら、できるのかもしれない。だが、自分はそこまでして長生きしたくなかった。短命な人生を送っていきたい。だから、夢を叶えるために学生時代にしか残されていなかった。それを過ぎってしまった、僕はもう生きることができなかった。

 僕はプラントの操作をしていた。時に失敗して、先輩や上司に怒られたりした。それでも、普段は優しく親身に接してくれた。あれから、三ヶ月経ったが、大分仕事にも慣れてきた。

『一体、どういうことなんだ!どうして……どうして、こんなことになっているんだよ。嫌だ、こんなの見たくない。こんな人生なんて……』

 頭のなかで誰かがそう呟いていた。

『やめろ!聞きたくない。そんなこと何ひとつ聞きたくない。喋るな!僕にこんなものを見せるな!』

 ……

『一体、何を言っている?一体、何が言いたい?やめてくれ、これ以上進めないでくれ。本当に頼むから……』

 ……

『やめろ!』

 ……

『それでも、諦めるわけにはいかない。この最後のチャンスに全部をかけるんだ。これまで受けた仕打ちを。これまで考えていたことを。十八年間の全てを書き続けるんだ。そうすれば、ずっと夢だった作家になることができるかもしれない』

 ……

『そこにいるのは僕なんだろう?そんな生活をして、本当に幸せなのか?』

 ……

『おい、何か言ったらどうだ?黙っているなんて、あんまりにもせこすぎる。そんなのただの逃げだ。まあいい。どうせ、お前が今の生活に満足しているのか、していないのかの問いの答えなんて、初めから分かっていることだ。別にわざわざここで聞くことではないのかもしれない。それでも、喋ってくれないか?このまま、終わらせたくないんだよ。いや、君がこっちに加わるまで、終わらせることはできないんだ。一言だけでもいいから、喋ってくれないか?』

 僕はただ何も言えずに、黙々と仕事をこなしているだけだった。

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