第一話 『一』
僕は捨てられた。両親に捨てられた。違う言い方をすれば、両親の陰謀によって捨てられたのだ。僕をこんな誰も行き着かない山奥に捨てたのはどっかの暴力団の顔をした奴だった。どのような経緯で、僕はここに捨てられたのかは分からない。ただ、その暴力団みたいな奴に殴られ、気絶して、気付いたときにはここにいた。
そんないかにも誘拐まがいのことをされたにも関わらず、両親の陰謀だと断言できるのはなぜか?
僕はいくらか頭を巡らせて、考えてみた。
『こんな子産まなければ良かった』
『わしを失望させるな』
『何度言えばわかるんだ!』
『お前なんか家の子じゃない!』
『出て行け!』 『別にお前が嫌いだからやっているわけじゃないぞ』
『愛している』 『可愛いね』
『何だ!この点数は!』 『おい!また人様に迷惑をかけただろう!』
『もう二度と帰ってくんな』
『お兄ちゃんを見習いなさい』
『お前だけだぞ!』
何で、皆はこんなにも人と比べたがるのだろうか?
僕は僕なんだ。他人なんて知らない。家族なんて関係ない。家族だって他人なんだ。血が繋がっていたとしても他人なんだ。血なんて関係ない。能力なんて関係ない。ただ、僕はここにいる。皆とは違うところにいる。他の皆も違うところにいる。皆、他人なんだ。
関係ない。何にも関係ない。何の繋がりもないんだ。そうだ、きっとそうに違いない。他人の評価なんてどうでもいい。僕は僕らしく生きればいい。それでいいんだ。他人がどんなに咎めたとしても、僕には関係ないんだ。僕は僕なんだ。それでいいんだ。僕らしく生きて何が悪い。自分らしく生きて何が悪い。誰にも迷惑かけなければ、それでいいのだろう?それさえ、しなければいいのだろう?僕は何にも悪いことをしていないから、何の問題もないじゃないか。
悪いのは全部あいつらだ。勝手に僕を創ったあいつらが悪いんだ。勝手に自分の思い込みを押し付けるな。お前らが思っているような奴に僕はなれない。そんな僕の気持ちを分かってくれるか?分かって欲しい。だが、他人の言葉なんて全部嘘になるのだろう。今、言っていることも結局他人からすれば、嘘なんだろうな。
本物って何だろう?教えて欲しい。誰も教えてくれないだろうな。教えてくれたとしても、僕が他人の言葉なんかで納得することができるのだろうか?きっと、納得しないだろう。世の中の人間ってそんなものだろう。
何で、お前はそんなに偉そうなんだ?
誰かが僕の頭のなかで問うた。
勿論、僕は世の中のことなんてほとんど知らない。まだ子供だし、阿呆だし。でも、僕だってつらい思いをしている。だから、別にいいじゃないか、少し偉そうにしても。誰かに迷惑をかけているわけじゃない。このことを口外しているわけじゃない。僕はただ頭のなかで嘆いているだけだ。ただ、それだけのことなんだ。それだけじゃ、駄目なのか?駄目なら、どうすればいい?教えて欲しい。
もう、何もかもが分からなくなる。いや、元から何ひとつ理解し得ていなかった。だから、少しだけ分かったようなフリをしていたかった。そうすれば、自分は何かを語ることができる。どんなにつまらないことでも、どんなに間違ったことでも、どんなに独りよがりだったとしても。
世の中に信頼という言葉は存在しない。誰も信じていない。誰一人として。自分すらも信じていないかもしれない。たぶん、きっとそうに違いない。皆、そうなんだ、と思う。皆も同じような経験をしているのだ、と思う。
もう、滅茶苦茶だな。一体、自分は何が言いたいんだろう?何ひとつ分からなかった。だけど、何でもいいんだ。とにかく、まだまだ話そう。僕は馬鹿だけど、何の知識もないけど、それでも話そう。僕はできるだけ頑張っていきたい。自分らしくやりたい。それが僕なんだ、と思いたい。誰にも持っていないものなんだ。これは僕だけのもの。誰のものにもなれない。僕は自分らしく話す。それがくだらなくても、耳を塞ぎたい話でも、それでも……それでも、話すよ。僕は話し続ける。ただ、自分らしく。