謝罪
ブクマありがとうございます。
翌日、ケンは約束通り探索者ギルドへと向かう。
昨日は半日以上も歩いていたせいか、少し足が筋肉痛を起こしている。
まぁ、歩けない程じゃないし。と、開き直ってはみるものの、ここ一年主な移動はバイクだった事を思い浮かべ、ちょっとした筋力の低下を嘆いてしまう。
回復魔術が使えれば、すぐにでも痛みは引くのだろうが。
ケンが使えるのは、鍵に関すると思われるもの3つだけ。その事実も、ケンの気持ちを下げる要因の1つとなっている。
無いものねだり。そんな言葉が頭に浮かび、ケンは1人自嘲気味に笑うのであった。
ー・ー・ー
「あ、ケンさん!お待ちしてました!」
ギルドの中へ入ると、見覚えの有る職員が声を掛けてきた。
昨日の朝に応対してくれた女性職員だ、ケンは認定証を取り出し女性職員の元へと向かう。
「おはようございます、今日も鍵開けの仕事がしたいのですが有りますか?」
「はい、有りますよ!」
そう言って、女性職員は昨日と同じくギルドの奥へと案内してくれた。
途中物置に寄り、箱を2つ取る。
今度は小箱では無くみかん箱位の木箱だった、それを纏めてひょいと持ち上げる女性職員。
どうやら、この女性”も”ケンよりも力があるようだ。
作業台へと箱を置くと、スッと離れる女性職員。
ケンは、早速解錠に取り掛かった。
「『解錠』」
「「カチャリ」」
と、昨日と同じようにすんなりと解錠は終わった。
女性職員に声を掛け、確認して貰うとすぐに箱を持って出ていった。
そして、すぐに戻って来る。手には金貨1枚と銀貨8枚、昨日に比べてかなり迅速な対応だった。
「8級8,000ウェン、7級10,000ウェン、合計18,000ウェンです」
そう言って、笑顔で報酬を渡してくる女性職員。
やっぱり、昨日と比べて少し様子が変だ。
そう思い、早々にギルドを後にしようとした。
ーーーのだが。
「あ、ケンさん。この後お時間よろしいでしょうか?」
そう言って、笑顔を崩さずに引き留められた。
特に特徴の無い顔立ちでは有るが、笑顔が様になる程には美人な女性職員。
この後お食事でも…と言った内容ならば、ケンにとっても喜ばしいものでは有るのだが、そんな訳が無いと言うのはケンにも理解出来る。
案の定…
ー・ー・ー
「キミが、魔術師のケン殿で間違いないかな?」
女性職員に連れられやって来た部屋、そこで待ち構えていたのは巨人であった。
いや、人間だとは思うのだが…見上げる程の身長で、ケンが横に2人並べそうな程に巨大な人物を見てしまうと、そう言った感想も自然と出てしまう。
髪は所々に白髪が混じっており、それなりの年齢だと言うのは分かるが、鍛えあげられた身体は張りに張っており、肉体的な衰えは見て取れない。
ただ、左目の所に深い傷が有り、そちらは常に閉じられている。所謂『隻眼』というやつだ。
「は、はい」
「おお、そうか!リリアナから聞いた時は、何の冗談かと思ったのだが。その若さでこれだけの技量、驚嘆に値する」
そういって巨人は、箱を2つ右手に乗せて差し出してきた。
その箱はさっきケンが解錠した物で、ケンでは1つ抱えるので精いっぱいの大きさの物。
それを片手に2つ、ケンは自分の頬が引き攣るのを感じた。
「さぞ、魔力値が高いのであろう。ワシとしては、それだけ優秀な人材が鍵開けしかしないと言うのは勿体なく思う。どうだろう?探索者として迷宮に潜ってみては」
どうやらこの巨人は探索者ギルドの長らしく、優秀とみなした魔術師にこうやって声を掛けてスカウトしているらしい。
特に決められて無いとはいえ、神殿に所属していると言ってもいい魔術師をスカウトして問題は無いのだろうか?
巨人が言うには『探索者としてでは無く、魔術師として迷宮に潜って貰うので問題は無い』そうだ、鍵開けをする時と同じく”臨時”での探索者契約となるそうだ。
なるほど、スカウトは問題無いとしよう。
ーーーしかし。
「申し訳ないですが、オレは優秀な魔術師なんかじゃ無いんですよ」
「ふむ、それはどう言う事かな?」
ケンは苦笑いを浮かべ、断りの文句を入れる。
「オレは、鍵開けに使う3つのスキル以外は使えません。初級魔術すら使えないんですよ」
「なんと…!」
巨人は驚いた表情を浮かべ、それが事実なのかの確認をする。
ケンは言われるがまま、掌に魔力を集めそれを風に変換しようと強くイメージする。
しかし、いつまで経っても風は生み出されず、やがて集めた魔力は霧散していく。
「こういった具合です」
「なるほど…うむ」
巨人はそれを見て、何やら難しい表情を浮かべた。
そのまま数秒程考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「おそらく…特化型、だろうな」
「特化型、ですか?」
「うむ、魔力量自体はそれ程少なく無い。いや、むしろ中堅どころと比べても何ら遜色は無いだろう」
巨人は、ケンを射抜くかのような鋭い視線を送る。
「偏に魔術師と言っても、そこには個性が出る物だ。例えば砂漠に住む者にとって、砂は身近な物でイメージし易いが逆に水には馴染みが薄くイメージしにくい、と言った感じだ。結果として、大量の砂を操る事が出来ても、水を生み出すのはコップ1杯分がやっと…という魔術師も存在する」
「それが特化型…?」
「いや、この程度ならばそれは『個性』の範疇だ。しかし…ごく稀に、身体に纏っても火傷1つしない程習熟している火の魔術”しか”使えない者や、空を自由自在に飛び回れる程にコントロール出来る風の魔術”しか”使えない者など、1つの物に『特化』した魔術師も居る」
「オレの場合、それが『鍵』だという訳ですか?」
「おそらくは。ちなみに、特化型は職業として魔術師からも独立した物になる」
それを聞いて、そう言えば、とケンにも思いあたる節が有る。
認定証に魔力を流した時に浮かび上がる情報。
JOB:鍵魔術師
元の世界でも、同じ称され方をしていたので特に気にしていなかったのだが。
なるほど、称号がそのまま職業となったというわけか。ケンは心の中で納得した。
「その顔はどうやら心当たりが有りそうだ。…ああ、安心してほしい。特化型とはいえ、魔術師で有るのは変わりは無い。登録抹消とはならないし、こちらとしても根掘り葉掘り聞くつもりは無い。しかし、まぁ…そういう事情では迷宮に潜るというのは難しいか」
巨人は少し残念そうな表情を浮かべ、しかし鍵開けに関しては期待出来ると思ったのか、また翌日以降もよろしく頼むと固く握手をした。
その時ケンの右手が潰されかけたのは、言わずとも分かるだろう。
ー・ー・ー
少し話が長引いたせいか、ギルドのロビーに戻るとそこそこの人が居た。
その中に見覚えの有る2人ーーー
「お、いたいた!おーい!」
「あ、あの、声が、大きい…」
素通りしようとして、ケンは失敗した。
昨日の昼間食事処で絡まれた、スキンヘッドの男と地味目の女がケンを見つけて声を掛けてきたのだ。
昨日の今日で、正直この2人…というよりスキンヘッドにはあまり近寄りたくはない。
しかし、そんな事知るかと言わんばかりに、スキンヘッドはずんずんとこちらへ近付いてきた。
今度はどんな言い掛かりをつけられるのか、とケンは少し身構えた。
「昨日はスマンかった!」
が、スキンヘッドは開口1番に謝罪を口にし、ケンの目の前で深く頭を下げた。
急な出来事に呆気に取られてしまい、構えていたケンの緊張もスッと取れてしまった。
その後も何度か謝罪を繰り返し、スキンヘッドに抱く悪感情は殆ど消えて無くなっていた。
評価&ブクマよろしくお願いします。
後3〜4話くらい主人公の戦闘描写無しです