扉探し
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この街に出入りする為の門は、大門4つと小門4つの計8つ有る。
街を十字に区切った時、その対角線上に存在する大門は、方角に基づいてそれぞれ『北門』『東門』…といったふうに名付けられている。
大門が開かれている時間は、特に定められている訳では無い。
慣習として日の出から日の入りまで、つまり太陽が見えてる間だけ大門は開いている。
そして一度閉まると、外から開ける事は実質不可能だ。
大門は、内側から閂を掛けて戸締まりするタイプで錠は存在しない。
魔術師による『アン・ロック』や、ケンが得意とする『ピッキング』が全く役にたたないのだ。
それでも無理に開けるとするならば、物理的な行動で門を破壊する以外無いだろう。
だがそれを行うと言う事は、鎧姿に必ず気付かれる。
門を破壊しきる前に御用となるのは、火を見るより明らかだ。
だが内側から大門を閉めて、鎧姿が夜番をする時どうやって外に出るのか。
その為に、各大門の横に小門が設置された。
設置当時は一般的な錠(2級相当)を利用した扉であったが、熟練した魔術師にとってはその程度の錠は無いに等しかった。
幾ら実力を神殿に保証されてるとは言え、街民の安全を考えると勝手に小門を開かれるのは困る。
そこで、はるかむかし迷宮の深部で発見された、魔術師の『アン・ロック』では開ける事が出来ない程複雑な構造の錠を利用し、小門を開ける事が出来るのは『鍵』を持った者のみが開閉出来る様に造り変えたのだった。
ーーーその様な背景など、ケンは何1つ知らないが。
ー・ー・ー
白い鎧姿の女性と別れ、ケンは『西門』へとやってきた。
不審者として拘留されていた『南門』以外ならどこでも良かったのだが、街の外に出て時計回りで外壁を調べて『東門』から中へと入る。
開門時間なども考えると、ちょうどいい探索範囲になるんじゃないだろうか。等と、結果論で考えているケン。
認定証を門番として立っている鎧姿に見せて、特に問題なども起こらずに外へと出ることが出来た。
西門の外は、沢山の木が生えていた。
森…と言うには無理が有る程しか生えていないが、人によって管理されているとも思えない程、好き放題に木々が生えている。
中へと足を踏み入れるのは、やや躊躇してしまうが、今回の目的はそちらでは無い。
ケンは視線を右側へと移し、外壁から離れないように『北門』方面へ歩いていった。
そうして歩いて3時間程。
扉が見つからないまま、ケンは『北門』へたどり着いた。
更に『東門』へ…と向かう前に、一度『北門』から街の中へと入る。
太陽は時間経過と共に徐々に移動し、やがて中天へと差し掛かりその勢いが強くなる。気温はそこまで高い訳では無いが、3時間も歩き通せばそれなりに汗もかく。
つまり…疲れた、喉が乾いた、お腹が空いた。と、言う事で『北門』から1番近い食事処へ向かい、昼休憩をとる事にした。
ー・ー・ー
「てめぇ、ふざけんな!!」
ケンが店に入ると同時に、そんな叫び声が聞こえてくる。
その後『ドゴン!』という大きな衝撃音が聞こえて来て、店内は一瞬の静寂に包まれた。
音のした方に目を向けると、スキンヘッドの男が顔を真っ赤にして対面の人物を睨みつけている。
右手は握りしめた状態で、テーブルの上に有る。
先程の音は、この男がテーブルを殴った音なのだろう。
喧嘩か何かか、周りの客は特に気にした様子も無さそうだ。
静かになったのもほんの僅かな時間で、今はもう店内は喧騒に包まれている。
良くある事、なのだろうか。ケンも極力気にしない様に、そして目立たない様に店へと入った。
気にしない様に…と思いつつも店員に注文をしてそれを待っている間、自然と先程の男達の方へと意識を向けてしまう。
男達は、男2人と女1人の3人組のようだ。
スキンヘッドじゃない方の男性は、こちらに背を向ける様に椅子に座っていてどんな人物かは分からない。
スキンヘッドの筋肉質な体躯と比べ、かなり細い華奢な感じなのは見てわかるが。
そしてその間に挟まれる様にして、二人の顔を交互に見返してるのはかなり地味目の女性。
肩よりやや長い位の茶色い髪を三つ編みにし、大きめの丸い眼鏡を掛けている。
忙しなく顔と手を動かし、何やら困った様子で二人に話しかけている。おそらく喧嘩を仲裁しようとしているのだろう。
この世界にも眼鏡って有るんだ。なんて、どうでも良い事を考えながら料理を待つケン。
そのあいだスキンヘッドよく通る声が、否応なしにケンの耳に入っていく。
「だから、報酬はすでに支払ってるだろうが!」
「『金額分は仕事した』って、お前との契約は出来高じゃないだろ?!」
「お前が『3級錠を開けられる』って言うから、オレは高い金払って…って、おい!どこへ行く!話はまだ…くそっ!」
ぼーっとその様子を眺めていたら、座っていた男が席を離れ店の外へと歩いていった。
スキンヘッドが追いかけるか、と思っていたがそうはしないようだ。悔しそうに、拳をテーブルを叩きつけていた。
「お待たせしましたー」
成り行きを見守っていたケンに、店員から声が掛かる。
視線を自分のテーブルに戻すと、料理がすでに並べられていた。
並べられた料理から、いい匂いが立ち昇ってきてケンの鼻孔を刺激する。
ぐぅ、と腹がなり、いざ食べようかと手を伸ばす。
が、何やら視線を感じ、伸ばした手を止めてそちらへと向く。
すると、先程まで悔しそうな表情をしていたスキンヘッドが、今度は怒りの表情でケンの方を睨みつけていた。
何かあるのか、とケンはあたりを見回すが、特にそれらしき物は無い。
再度スキンヘッドに目を向けると、今度は立ち上がってこちらに向かって歩き出していた。
「おい、お前も魔術師か?!」
ケンの元までやってくると、対面の椅子に座り話しかけてきた。
一度ケンの胸元にある認定証を見やると、表情を更に険しくした。
「あ、あの、その人は関係ない…」
「うるせぇ!お前は黙ってろ!」
慌てて地味目の女性が止めに入ったが、スキンヘッドはそれを一喝して黙らせた。
「あの…オレが何か?」
「…お前じゃねぇよ、魔術師に文句があんだよ!」
「はぁ」
どうやら、魔術師なら誰でも良かったらしく、先程帰った男の代わりにされてしまったようだ。
何様のつもりだ、勘違い野郎、魔力が有ればオレだって、など、まぁ愚痴のような事ばかり聞かされた。
刺激して長引かれても嫌なので、はぁ、すいません、など、気の無い返事を返しておく。
そんなことよりも、早く昼食を摂りたいと言うのがケンの気持ちだろう。
「とは言え、オレはまだ登録して日が浅いので。魔術師がどうとか言われても良く分からないんですけどね」
だから、早く話を終わらせてくれ。と続けたい。
「ああ?!…チッ!何だよ、アイツの代わりに開けさせようと思ったのに」
と言って、懐から手のひらサイズの鉄箱を取り出した。
どうやら、魔術師の文句を言って罪悪感を持たせ、代わりに開ける様に交渉をするつもりだったようだ。
「3級錠を開けるには、錬度の高い魔術師じゃ無いと無理って話だしな。見た目も若いしダメ元だったが…やっぱり未熟者か」
鉄箱の鍵穴を見ると、確かに3級錠のようだ。
今まで開けてきた宝箱に比べると、やや複雑ではあるが…
「なぁ、代わりに誰か紹介してくんねぇか?例えばお前の師匠とか…」
「いえ、師匠と言うのはいません」
とは言え、元世界の錠に比べるとかなり簡単な構造だ。
ピックを2本使えば、おそらく秒で開けられる。
「あぁ?!普通魔術師っていったら、師匠の一人や二人いるもんだろ?!」
その、普通…と言うのは良く分からないが。
と言うか、いつまで絡まれるのか。料理が徐々に冷めていっているのだが。
ケンは、段々と苛立ってきた。
「なぁ、ケチケチしないで…」
「『解錠』」
もう、これ以上は空腹を堪えられない。
咄嗟に、頭の中で解錠手順を組み上げ『解錠』を放つ。
カチャリ、と言う音が聞こえたスキンヘッドは言葉を途中で止めた。
「これでいいでしょう?これから昼食なんですよ、もう勘弁してくれませんか?」
「………」
苛立った声で、ケンはスキンヘッドに言い放つ。
だが、その言葉に返事をせず、ただ手のひらを見つめている。
正確には、その上の開いた鉄箱だが。
「………ああ」
しばらく反応が無かったので、もう勝手に食事を始めるケン。
半分程食べた所で、スキンヘッドは小さくそう呟き、ケンのテーブルから離れていった。
そして食事を終え、再度『北門』から外へと出る。
残念ながら、午前中同様『東門』にたどり着くまでに扉は存在しなかった。
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