相反する立場との遭遇
ブクマありがとうございます。
本日2話目。
女性職員に付いて歩いて行くと、やや薄暗い物置部屋の様な場所に着いた。
かなりの広さがある様に思えるが、そこかしこに詰め込まれている雑多な物達のせいでむしろ狭く感じる。
女性職員はその中から、少し古臭そうな木の小箱を3つ手に取ると更に別の部屋へと移って行った。
その部屋の扉を開けると、部屋の左右に長テーブルが設置されているのが見える。
そのテーブルの上は衝立の様な物で間仕切られ、その区切られた数の分の椅子が用意されていた。
女性職員はブース化されたテーブルの上に、手に持っていた箱を置く。
「それでは、作業に取り掛かって下さい」
テーブルの前の椅子に座らされ、どうぞと言う風に女性職員は離れて行く。
扉の外へは行かないようなので、監督…もしくは監視するつもりなのだろう。
気を取り直して木箱へと目を向ける、テーブルの左側に2つ…右側に1つ有る。
2つまでしか解錠出来ないと聞いたのだけど。
などと考えながら、取り敢えず木箱を1つ手に取る。
鍵穴に目を通し、他の箱も同じように目を通す。
なるほど、どうやら10級が2つと9級が一つの様だ。
10級の解錠に成功したら次は9級の…という事だろう、取りに戻る手間を省く措置と言う訳だ。
見たところ、どちらも単純な構造でピックを使えば2秒と掛からなそうだ。
しかしせっかくなので、スキルの練習も兼ねて『解錠』を使う事にする。
10級と9級を1つずつ並べ、解錠するつもりの無い10級はテーブルの奥へと離して置く。
両手を前に突き出し、鍵穴へと視線をやり集中する。
鍵穴に薄い光が浮かび上がり、ケンの脳内で錠の構造が浮かび上がる。
先程、目視で確認したのと寸分変わらない構造だったので、二種類同時に解錠までの手順を脳内で詰り。
「『解錠』」
と、唱えると。
「「「カチャリ」」」
全ての錠が開いた。
「…え?」
開けるつもりが無かった、奥の木箱の錠も一緒に開いてしまい額から冷や汗が垂れてきた。
しかし開いてしまったものは仕方ない、と正直に謝罪する事にした。
「あの、すみません。錠が開いて…」
「ああ、10級が開けばそのまま9級に移ってもらって構いませんよ」
「いえ、あの、全て…」
「もうですか?幾ら低級錠とは言え、もう少し時間が掛かると思うのですが」
女性職員は、少し怪訝そうな表情になっていた。
「アン・ロックを極めた魔術師の方でも、ここまで早く2つの錠を開ける事無理だと思いますが」
「いえ、すみません。開けるつもりは無かったんですが、3つとも…」
「……………はい?」
ケンのその言葉を聞き、怪訝な表情のまま固まってしまった女性職員。
しかし、すぐに復帰しケンのもとへ近付き木箱を確認すると。
「本当に、全部、開いて、ます、ね…」
「すみません…」
ケンとしては、ルール違反をしてしまい怒られる物と思っていたのだが。
どうやら女性職員は、それどころじゃないとばかりに驚いた表情で木箱の開閉を行っている。
「しょ、少々お待ち下さい…」
しばらく、パカパカと開閉を繰り返していた手を止め、木箱を3つとも何処かへ持ち去って行く。
何のお咎めも無かった事に首を傾げ、部屋から出ていく女性職員の背中を見送るしか出来なかった。
ー・ー・ー
しばらくして女性職員は戻って来た、手に金貨を1枚持って。
10級4,000ウェン+9級6,000ウェン、合計で10,000ウェンだから間違いではない。
間違えて開けてしまった10級の分は、罰則は無いが規定により支払う事が出来ない。
と、引き攣った笑顔で女性職員が説明してくれた。
金貨を受け取り、部屋を出る。
女性職員に『明日も同じ時間に来てください』とお願いされ、それを了承しておく。
いつ来るかは自由だったのでは?と後で思ったが、すでに了承した後だったので何も言わずにおいた。
ギルドを出る前に、受付で所持金を預けて認定証に『入金』してもらう。
全店舗で認定証払いが可能なのならば、このように全額入金しておく方が身軽だし安全だからだ。
もう出来る事は何も無くなり、ギルドを後にした。
ー・ー・ー
思った以上に仕事が早く終わり、暇を持て余す事になったケン。
まだ昼になっていない。
街中で仕事を探しても良いのだが、それよりも帰る為の方法を模索する事にした。
お金は探索者ギルドで稼ぐ事が出来る、今日は10,000ウェンだったが明日は多分18,000ウェン稼げるだろう。
宿代は確保できたし、無駄に使わなければ今後お金に困る事は無いと判断した。
帰る方法で1番可能性が高いのは、蔵にあったのと同じ『扉』を探す事だろう。
街の外に出た事を考えて、外壁沿いを探す事に。
探索者ギルドから出て、門へと向かうさなか。
ドン、と誰かとぶつかる。
その衝撃で、ケンは後ろへ躓いてしまった。
「む?すまない、余所見していたようだ。怪我は無いか?」
と、向こうから謝罪をもらい手を差し伸べられる。
ぶつかった相手は、全身を白系の鎧に包まれた女性だった。
「こ、こちらこそすいません。街に不慣れなもので」
「よい。警邏中にも関わらず、周囲への警戒を怠った私の責任だ」
ケンはその手を取ると、グイっと物凄い力で引き起こされた。
女性とはいえ、ケンの数倍以上の力は有りそうだ。そもそも、当たり負けしてる時点で力量の差は歴然であろうが。
立ち上がって、再度その女性を注視する。
腰の辺りまで真っ直ぐと伸びた髪は、紅い色をしていて異世界感を強く強調している。
目はやや鋭く、髪色と同じく紅い瞳はまるで燃えているかのよう。
身長はケンと同じ程だが、何処にそんな力が有るのかと疑問に思う程に細身だ。
神殿にいた修道女とは別のベクトルだが、間違いなく美人と言える。
特に真っ直ぐと射抜かれた視線に、気付けば吸い込まれそうになる。
「ふむ。黒髪黒目とは珍しい、東方の出身か?」
ケンが観察している間、どうやら向こうもこちらを観察していたようだ。
「あ、その…」
「すまないが、身分証を見せて貰えないだろうか?」
ケンが言い淀むと、即座に身分証の提示を求める女性。
ケンは素直に認定証を出す。
「おお…魔術師殿であったか、これは失礼。最近不審者の報告があったので検めさせてもらった、どうか気を悪くしないで欲しい」
「いえ、とんでもないです。何も気にしてませんよ」
では、とケンは再度歩き出す。
不審者…間違いなく自分の事だろう、何かボロを出す前に離れ無ければと逃げるように別れてしまった。
今は魔術師として身分を確立できたが、もとは『不法入国者』と誹りを受ける立場だった。
気付かれた素振りは無かったとは言え、門へたどり着くまでの間ケンの心臓は張り裂けそうな程高鳴っていた。
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「魔術師、黒髪黒目。まさか、な…」
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