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異世界の街

本日3話目です


ブクマ&評価、ありがとうございます。

ケンが街へと入ってから数時間、早朝になって街は賑やかな様子を見せていた。

あちらこちらの家から人が出てくる、露天を開いている者は仕込みの為に忙しなくしている、宿屋らしき建物の前では少女が掃除をしている。


徐々に増えてくる人の視線を避けながら、ケンはある場所へ向かう。

それは服飾店、鎧姿からして面妖と言わしめたこのライダースーツから着替える為だ。

服の絵が刻まれた看板を目にし、中へと入る。


この世界の金銭は持ち合わせていないが、この服を売ればそれなりの金になるだろうと期待していた。

異世界での金策に、服や所持品の売却と言うのはすでにセオリーと言って良いと思っているケン。

所持品は大事な商売道具なので、必然的に服を売る判断になった。


が、結果は”買い取り不可”だった。

ライダースーツがというよりも、一体化してあるプロテクターの素材が不明な為だ。

衝撃吸収用のウレタンやプラスチックなどが存在していない世界では、考えて見れば納得の結果だった。


商売道具であるキーピックを売るしか無いのかと逡巡している所で店主から声が掛かる。

服としての買い取りは不可能だが、見事な裁縫技術で作られた物なので、情報提供料として幾らかの金銭はお渡しできますとの事。


それを聞いて安堵したケンは、下着なども含め数着見繕ってもらい、着替えをしまっておける大きめの肩掛け鞄と一緒に購入する。

店の奥で着替えさせてもらうと、店主にライダースーツを渡す。

研究の為に数日預かるが、後日返却すると言われ、購入代金を差し引いた金貨4枚を受け取った。



ー・ー・ー



無事に服を購入し、街民の中に紛れ込む事に成功したケン。次に向かった先は宿屋だった。

今晩の寝床の確保と、宿泊料から物価・通貨価値の確認。それに異世界の情報を少しでも得る為、自身の身の振りを考える為だ。


ケンは元の世界で、鍵魔術師キー・ウィザードなどと持て囃されていたが、その技術がこの世界でどう活かされるかは分からない。

需要は有るのか、つまり…職として成り立つのか。徐々に不安になっていくケン。



「いらっしゃいませ!」



そんな事を考えながら宿屋の扉を開くと、見覚えの有る少女が元気よく迎えてくれた。

たしか早朝に店前を掃除していた娘、ケンはその子に近づき声を掛ける。



「1泊したいのですが、部屋は空いていますか?」

「はい!お一人様ですね?素泊まり5,000ウェン、2食付きで6,000ウェン、浴室付きならば7,500ウェンとなっております!」

「…浴室付きでお願いします」



見た目10歳くらいの少女なのに、随分としっかりした接客だ。ケンは少し驚いたが、鞄から金貨を1枚取り出し、少女へと渡す。



「10,000ウェンからのお預かりで、2,500ウェンのお返しです!」



そう言って、銀貨2枚と銅貨5枚を返される。

銅貨1枚100ウェン、銀貨1枚1,000ウェン、金貨1枚10,000ウェン。料金から考えて1ウェン=1円くらいだと判断したケン。

お釣りと共に食券の様な物を2枚貰い、部屋へと案内された。


少女から部屋の鍵を受け取り、中へと入る。

その部屋に先程買った着替えや、元々持っていたボディバッグ等を鞄から取り出して中身を軽くしておく。

もちろんキーピック等のツールは鞄に移し替えておいた。


そして再度受付へ、今度はこの街で就く事が出来る職についてたずねる為だ。

部屋の鍵を閉め、受付へと向かう途中で何やら怒号が聞こえてくる。


受付では先程の少女が、40代くらいの恰幅の良い男性から叱られていた。

薄情にも周りの人はそれを遠巻きに眺めているだけ、かく言うケンも面倒事に関わるつもりは無かったのだが…


男性のあまりの剣幕に萎縮してしまっている少女、流石に見逃せ無くなって止めようと近付いて行くと、ケンにとって耳に馴染む単語が聞こえてきた。



「どうされました?」

「…ああ?!誰だおめえ!」

「ここの宿泊客です、何やら凄まじい声が聞こえたものでして…」



ケンのその言葉に男性はバツの悪そうな表情を浮かべ、謝罪してきた。どうやらこの男性はここの店主らしく、従業員でも有る実の娘を叱りつけていたようだ。



「何かお困りでしたら力になれるかもしれません、良ければお聞かせ願えませんか?」

「…ああ、実は」



そう言って話し出した内容は、どうやら娘が簡易金庫の鍵を無くしてしまったとの事だ。

受付に据え付けてる簡易金庫は4つ程あり、当日分の売上を入れて置く物の様だ。その中の金貨を入れて置く金庫の鍵を紛失してしまったらしい。まだ昼にもなって無い程早い時間なので幾らも入って無いのだが、それでも数枚は入っていて数万ウェンの損失になったのだと。


それを聞いてケンは、店主の許可を取り鍵穴を見せて貰った。

その様子に店主は訝しげな表情を浮かべたが、ケンは気にせず鞄からツールを2本取り出し鍵穴に差し込む。

すぐにカチャと言う音が鳴り、ツールを鞄へとしまいこんだ。



「開きましたよ、中身を取り出して新しい金庫に変えて下さい」

「なに?!」



ケンにそう言われて、店主は驚愕の声をあげた。

慌てて金庫に駆け寄ると、金庫の蓋を開けて中身を確認する。言葉通り鍵は開いていて、中の金貨も無事回収できた。

ケンは近くで泣きそうになっていた少女の頭にポンと手を置くと、次から気をつけてね、と優しく言葉をかける。



「…お客様は、魔術師だったのですか?」



金貨の回収を終えた店主がケンにそうたずねてきた。

鍵魔術師キー・ウィザードと呼ばれていたけど、それはただの称号であり自分は魔術師では無い。

ケンは苦笑いを浮かべながら、ゆっくりと首を振った。

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