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最初の関門

本日2話目です。

ケンがゆっくりと目を開くと、目の前に広がっていたのは草原であった。

ただ草が生えているだけでは無く”見渡す限り”一面に広がる草原。


山のほぼ頂上付近に位置し、古家や蔵は木々に囲まれていた筈だ。この様に開けた所も無かったし、あれほど鬱蒼と茂っていた木々が見当たらない。

違和感しか存在しないその光景に、ケンは首を傾げた。


そしてそのまま後ろに振り返ると、そこにあったのは先程までいた蔵…では無く、大きな壁であった。

城壁、とでも形容すべき程の巨大な壁を目の当たりにし、ケンの混乱はピークに達した。



「え??なんで?…ってか、扉は?!」



ケンが見ている壁に、先程の扉は見当たらない。

一頻り喚いた後、扉を探すために壁に沿って歩き出す。

5分程歩き、今度は反対側に10分程歩く。しかし一向に扉が見つかる気配は無かった。

近くには存在しなかったが、それでも諦める事が出来ず、更に進む事にした。


そしてその5分後、今までずっと変わりの無かった壁に新しい光景が追加される。

それは扉…では無く、門だった。高さが10メートル以上は有る壁に相応しい、巨大な門。その前には数人の鎧を着た人と、その鎧に何かを見せている人、後ろには馬車が列を成して並んでいる。


その光景を見て、薄々感じていた事が確信に変わったケン。



「やっぱり…ここ異世界だわ」



異世界転移、ライトノベルや漫画やゲーム等でよく見かける題材。ケンも僅かながらそういった『フィクション』を娯楽として目にしている。

最初に草原が目に入った時、真っ先浮かんだ言葉。いやいやあり得ないだろ、とすぐに頭の隅に追いやった物。そして扉が無いと確認して再度浮かび、それが今確信に。


どうしよう、とその場で立ち尽くす事になり、しばらくして意を決して歩き出す。

何故?どうやって?帰る方法は?など、色々思う事は有るが、今は答えが出ない事だった。

ならば次に考える事は生き延びる事、その為には人の営みに交じる事、情報を得る事だと門に向かって歩き出す。


少し行くと向こうもこちらに気付いたのか、鎧姿の人がこちらを指差して隣の鎧姿と何やら話し合っている。

敵対心を煽らない様に、両手を上げて笑顔を浮かべて近づく事にした。



「そこの者!止まれ!」



が、あまり効果はなかったようで、鎧姿の数人のうちの一人が槍を構えて警告を発してきた。



「何者だ!!そのような…面妖な格好をして!」



面妖、と聞いて自分の服装を見直す。

真っ黒なレザーの”つなぎ”で、所謂ライダースーツと呼ばれる物だ。裏切り癖が強い某ヒロインの様なピッチリしたものでは無く、ツヤが無く各所にプロテクターの着いた男性用のゴツゴツした物で、仮面をつけたら怪人とでも戦えるんじゃ無いかって感じだ。

バイクに乗るときは転倒した時の為にいつもこれを着ている。


ちらりと門に並んでいる人達に目を向けると、皆が麻の様な素材の落ち着いた色の服を着ていた。



「何処から来たんだ!?…まずお前は人間なのか?!」

「人間ですよ!!」



どういう風に説明しようか悩んでいると、心外な質問が来たのでそれには即答する。

だったら身分証を見せろと言うので、ケンはボディバッグにしまって有る財布から免許証を出そうと手を伸ばすと、鎧姿達に緊張が走る。


そして免許証を取り出し、鎧姿に渡すと怪訝な表情を浮かべた。



「…なんだ、これは?随分と精巧な姿絵が書かれているが、どこのギルドの身分証だ?」



鎧姿の呟きを聞き、異世界によくあるギルドはこの世界にも存在する事を確認した。その事に少し感慨深く思っていると、徐々に鎧姿の表情が険しくなっていく。



「見た事も無い文字だ…一体何処の国の物だ!?それともやはり魔人の類か?!」



渡した免許証を放り捨て、再度槍を突き付けてくる鎧姿。

必至になってそれを否定したが、次に、ならば他国の間者か、と疑われケンの身柄は拘束される事になった。


2人の鎧姿に両脇を固められ、抵抗する事も出来ず拘置所へと連れられてしまうケン。



「一晩ここでおとなしくしてろ」



門外に建てられた詰め所らしき施設、そこの地下には鉄製の檻が並んでた。

その中の1つに放り込まれ、鎧姿から説明を受ける。


今日中に不審者報告を挙げて、翌日に取り調べを行うそうだ。

それまでに身元の保証が出来れば見事釈放となるらしいが、それが出来ない場合は取り調べ結果に基づき処罰をされる。最悪は極刑もあり得るらしい。


この地下牢にはケン以外の者は居ない様で、説明を終え鎧姿が去って行くとその場は静寂に包まれた。

ボディバッグは取り上げられ、両手は手錠の様な枷で自由に動かす事が出来ない。異世界においてケンの身元を保証する者など誰も居ない。

異世界に転移して1時間弱、ケンは早々に詰んでしまったようだった。



ー・ー・ー



その日の深夜、ケンは目を覚ました。

どうにかして枷を外せないか、無実を主張して出してもらえ無いだろうか。そんな試行錯誤を繰り返し、やがて疲れて眠ってしまってた様だ。


どれも効果は無く、半ば諦めの境地だったのだが、不意にケンの視界の端に光が見える。

通路には篝火が焚かれているが、薄暗く殆ど暗闇に近かった為それは余計に目立った。


なんだろう、そう思って確認する為そちらへと目を向ける。

檻の外で光るそれは、どうやら”鍵穴”の様だった。今ケンがいる牢の対面、同じ構造の牢の扉の鍵穴。それが僅かに光って見える。


不思議に思いその光を観察していると、スッと頭の中に情報が流れ込んでくる。

それはケンにとっては見慣れた物で、慣れ親しんだ物…錠の構造だった。

どうやらかなり単純な構造らしく、ケンにとって玩具も同然。


原理はよく分からないが、構造を知る事が出来たケンは早速扉の解錠へと移る。

両手で扉自体を軽く持ち上げ、前後に揺する。カチっと言う音が聞こえたら、両手を離して扉の下部を思いっきり蹴る。


ガチャ、と言う音がしてゆっくりと扉が開いていく。

通路を覗きこみ、誰も居ない事を確認した後、牢から出た。


地上へ出る階段へと向かう途中、取り上げられたボディバッグを見つけ中を検める。

一度中身を外に出して調べたのか、随分と散雑に入れられていたが、幸い中身は全て無事だったので安堵の息を吐く。


そしてバッグからツールを1本取り出し、くるっと手首を返すとそのまま枷の鍵穴に差し込む。

1〜2秒こちょこちょとツールを動かすと、カシャ、と言う音と共に枷が外れ数時間ぶりにケンの両手は自由になった。


枷とツールをバッグにしまい、肩に背負って階段を登っていく。

徐々に明るくなっていく視界、階段登りきったケンは1階の様子を窺った。

中は鎧姿が一人、椅子へと腰掛けて寝息を立てている。


今が好機とみたケンは、鎧姿を起こさぬようにゆっくりと部屋を横断すると、そのまま詰め所の外へと出ていった。


そして捕まった門へと向かう。しかし昼間は開いていた大門はしっかりと閉じられ、どうやら外からは開く事が出来なくなっている。

辺りを見回すと、大門の横に人一人通れる程の扉が有るのを発見する。

恐らく、鎧姿が夜間の出入りに使っている扉だろう。ケンはそちらへ向かい、扉を確認する。


どうやら鍵が掛かっている様だが、幸い鍵穴はこちら側に有る。すぐさまツールを取り出し解錠を行うと、扉を開け街の中へと入っていった。

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