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迷宮踏破

1年以上ぶりの更新です。

すいませんでしたm(_ _;)m

「残念ながら、大した儲けにはなってねぇな…」



ケンが解錠した宝箱、その中身を検めたスキンヘッドが表情を曇らせてそう言った。

入っていた物は薬瓶や篭手など、よく価値を知らないケンからみても『高そう』には見えない物ばかりであった。



「ちっ、しゃあねぇ。こうなったら、主を狩って帰るしかねぇな」

「主…ですか?」



スキンヘッドから事前に軽く説明はされていたのだが、迷宮の最深部に居る魔物の事を『主』と呼ぶそうだ。

階段を降りてすぐに大きな扉が有り、中へと入ると大きな広間に主が待ち構えているらしい。

扉の手前、その脇には地上へと戻る為の転移陣が有りわざわざ主を倒さなくても帰る事は出来る。

だが今回は稼ぎ的に心許ない為、主の魔石も回収して行きたいそうだ。



「いくら一番若い迷宮だといえ、主まで一人で倒せるんですか?」

「なぁに、その辺は心配しなくても大丈夫だ。第六までなら、ソロで攻略した事があるぜ」



不安そうな表情を浮かべるケンに反し、スキンヘッドはなんて事も無いかのように笑う。

第六と言うのは『第六迷宮』の事で、3番目に若い迷宮だ。

今ケン達が居る『第八迷宮』の三倍の規模が有り、それをソロで踏破出来ると言うのだから何の憂いも無いのだろう。

ケンは改めて、スキンヘッドの強さに感嘆した。


しばらくの休息を終え、地味目の女性が【収納】に宝箱から出たアイテムを仕舞っていく。

最後に椅子と机を仕舞い、最下層へと降りる準備は整った。



「じゃあ、足元に気をつけて着いてきな」



そう言ってスキンヘッドは、二人を先導するように階段を降りていった。




――――――――――



「グルゥ……!」



大きな扉の中に入ると、そこには1匹の狼が居た。

低層階で見た個体よりも遥かに大きく、四足で立っているのにも関わらず視線が同じになる程だ。

今までスキンヘッドは一刀の元に魔物達を切り伏せて来たが、流石に今回はそうすんなりと行くはずが無い。



……そう、ケンは思っていたが。



「ガァ…!!」

「よっ、と」



こちらに気付いた大狼が、威嚇の咆哮をあげようとしたのだろう。

だが次の瞬間には、スキンヘッドが大狼の首を刎ね飛ばしていた。

大狼の体が徐々に光に包まれ、大きな魔石へと姿を変えた。

それを拾い、こちらへと戻ってくるスキンヘッド。

返り血すら浴びず、汗の一つもかいていない。

その顔には、文字通り余裕の笑みを浮かべていた。



「瞬殺かよ…」



驚愕の顔をしているのは、この場ではケンただ一人。

地味目の女性はとっくに慣れた光景の為、眉一つ動かさず【収納】の空間を開けてスキンヘッドの戻りを待っていた。



「お疲れ様です」

「おう。これで何とか、黒字…いや、ギリギリか?」



魔石の売値を予想し、大体の収益を計算し始めるスキンヘッド。

これが日常の光景なのか…と、ケンは諦めにも似た感情で深く溜息をついた。



「まぁ、どっちにしても今回の探索はここまでだ。ケン、世話になったな」

「いえ、こちらこそ。鍵開けに特化してる自分が、迷宮に潜るなんて無いと思ってましたよ。いい経験をさせてもらいました」



まだ迷宮から出た訳では無いが、最下層には主以外の魔物は出てこない。

実質、探索終了と言っていいだろう。


しかし、一つだけケンには気掛かりがあった。



「…それにしても、あの先はどうなっているのでしょうか?」



主が居た大広間、その入り口の反対側にもう一つの大きな『扉』がある。

スキンヘッドも地味目の女性も、一切の気を払っていない事が逆に気になってしまう。



「ん?ああ、その扉な。各迷宮の最深部にあるんだが、先に行くことは出来ねぇんだ」

「出来ない?」



スキンヘッドが、まるで興味無いとばかりに素っ気なく答える。



「はい。どうやら鍵が掛かっているようなのですが、今まで誰もアン・ロックに成功した事が無いんですよ」



と、地味目の女性が補足してくれた。

今まで誰も、と言うのは文字通りの意味らしい。

一級錠のアン・ロックが出来る魔術師ですら、開ける事が出来ないそうだ。



「そういった開錠不可な錠は『魔法錠』と呼ばれ、旧時代の『聖遺物』の一つとされています」

「魔法錠…聖遺物…」



初めて聞くワードを、自分の中へと落とし込んでいくケン。

ちらりとその『扉』を見ると、なるほど確かに。

いつもは『光って』見えるはずの鍵穴が、この扉に限りそれが無い。


アン・ロック不可、誰にも開けられ無い錠。


そういった言葉が脳裏に浮かび、ケンは静かに目を閉じた。



「だったら、解錠アン・ロックじゃなきゃいいじゃん」



次に目を開いた時には、ケンは悪戯を思いついた子供のような笑顔を浮かべる。



「…え?」

「えっと、どれどれ…」



物を知らない子供に、優しく教えるような。

そんな気持ちになっていた地味目の女性が、ケンの言葉を聞いて固まる。

いったいコイツは何を言っているんだ?

そう、内心で思っているのかもしれない。


しかし、そんな事はお構いなしとケンは扉へと向かった。

身に付けていたボディバックから、向こうの世界から持ち込んだピッキングツールを取り出す。

ペンライトのような物で鍵穴を照らし、中を覗き込む。



「んー?見たことない構造だな、やっぱ魔法錠って言うだけあって向こうに無い…いや、待てよ。そういやこっちで…」



ブツブツと言いながら数秒鍵穴を覗き込んだ後、数多有るツールの中から三本取り出す。


そんなケンを見て、地味目の女性は呆れた様子で息を吐く。

その隣でスキンヘッドは、地味目の女性を慰める様に肩を叩いた。



「まぁ、初迷宮ってことだし。魔術師としては、挑戦したくなるもなるんだろうよ」

「だからといって、あの説明の後に躊躇も無いってのは凄いわ。悪い意味でね」



ここ『第八迷宮』は生まれてまだ100年ほど、しかし『第一迷宮』まで行くと数千年と経っている。

全ての扉が今まで開けられなかったと言うのは、つまり『数千年の間で一度も開かなかった』と言う事。


少し考えれば、挑戦しようと思う事自体が無謀だと分かる。



「大体、いくら特化型とは言え…「カチャッ」…え?」



あまりの呆れっぷりに、少しオドオドしたいつもの態度すら無くなって苦言を呈していた女性。

しかし、その言葉も先程の『音』によって中断された。



「……なんか、普通に開いたんですけど」



申し訳無さそうな表情で、二人へと振り向いたケン。

スキンヘッドと地味目の女性は、目を点にし口を開いて呆けている。



「えっと、どうしよう。この先に…行って見ます?」



そう言って、扉を押し開くケン。

少し錆びついているのか、少し力を込める度に『ギィギィ』と音が鳴った。



「「ほ、本当に開いてるぅぅぅぅ〜〜!!!」」



ようやく言葉を出した二人は、綺麗にハモって叫んでいた。

ブクマ&評価お待ちしております。

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