実力
遅くなりました。
筆が遅いくせにもう一作品書き始めたせいです、すいませんm(_ _;)m
もし宜しければそちらの方も併せて読んで頂けると幸いです。
『戦闘に関して心配は要らねぇ、オレ1人で充分だ』
迷宮へと誘われた時、スキンヘッドは自信気にそう言い放った。
戦闘能力が皆無なケンは、それを理由に断ろうと思っていたのだが…そこまで言われてしまえば、断る理由も無くなってしまう。
そして探索2日目、スキンヘッドの言葉は真実であったと知る。
次々と現れる魔物を、鎧袖一触切り捨てて行くスキンヘッド。
洗練された…とはお世辞にも言えない、素人目に見ても乱雑に振るわれているのが分かる剣筋。
ただ…切れ味もたいして良く無さそうな剣で、どうやればそんな風に軽々と切れるのかは予想もつかない。
「首とか脇の下とか『柔らかそうな所』を狙って切ってるだけだぜ」
時間が空いた時に聞いてみると、そんな風に軽く答えてくれた。
なるほど、道理だ。
皮や筋肉の薄い所、骨の関節や繋ぎ目、確かにそこを狙えれば幾らかは楽に倒せるだろう。
所謂、急所を突いた攻撃と言うわけだ。
ただ…スキンヘッドはその後出て来た『ロックゴーレム』とでも形容すべき、岩で出来た人形型の魔物に胴切りを放ち真っ二つにしていたが。
柔らかそうな所…ケンは再度頭を悩ます事になった。
ー・ー・ー
2日目も昼に差し掛かる時間帯、探索は順調に進んでいた。
元々規模の小さい迷宮だというのもあり、最下層まで後半分程だ。
このペースで行けば、明日には最下層に着くだろう。
戦果としては、大小様々な魔石が約50個程と10級錠〜8級錠の宝箱が6つ。
3人(実質1人)でこれだけの収穫というのは本来あり得ないらしく、如何にスキンヘッドが優秀な探索者であるかという証明になるだろう。
本当なら、ここの様な規模の小さい『第8迷宮』を拠点にしているべき人物では無い。
と、地味目な女性は申し訳無さそうな顔で説明してくれた。
おそらく『自分が足を引っ張っている』と思っているのだろう。
一人で高難度な迷宮を探索するのと、優秀な運搬人を連れて低難度の迷宮を探索するのとでは、どちらが良いのかケンには判断がつかない。
でも…スキンヘッドの様子を見ている限り、特に不満も無さそうなので問題無いのでは、と思う。
その後も探索は順調に進んでいき、最深部と思わしき階層に入る前に最後の休息を取ることにした。
ー・ー・ー
「ーーー万物に宿りし事象の楔よ、我が魔力によって解きほどけ『アン・ロック』」
最深部に入る前に宝箱の錠を開けておきたいとスキンヘッドが言い、最後の休息を少し長めに取ることになった。
最深部には地上に帰る為の魔法陣と厳重に施錠されている扉が有り、魔物は存在するが宝箱は存在しない。
つまり、ここで中身を確認して儲けになっていればそのまま帰還。
なっていなければ魔物から魔石を収集してから帰還…と、この後の予定を組む為に今解錠しておきたいのだと。
10級の錠は、修練の意味も込めて地味目の女性が。9級以上の錠は、ケンが開ける事になっている。
先程『アン・ロック』を使ったのは地味目の女性。
目を瞑り鍵穴に手を当て、5分程何やら呟くとカチャりと開く。
それを10級錠の個数分繰り返し、全部開けるのに20分程かかった。
次はケンの番だと、9級・8級・5級・4級とバラバラな階級の錠がかかった宝箱が並べられた。
多様な種類の錠を前にして、流石に少しは時間がかかるかとケンも少し身構える。
鍵穴をじっと見つめると、いつもの様に頭の中に構造が浮かび上がった。
それも4種とも同時にだ、普通の人ならそれでパニックになってしまうだろう。
だがケンにとっては、この程度の錠は”子供の玩具”程度の物でしかない。
4種同時進行で解錠までの道筋を浮かべ、それと同時に言い放つ。
「『解錠』」
「「「「カチャリ」」」」と同時に錠の開く音が聞こえ、スキンヘッドは目を見開き黙り込む。
それとは打って変わって、やや興奮気味なのは地味目の女性だ。
「凄い!無詠唱で遠隔同時発動なんて、まるで師匠みたい!」
「師匠?」
そう言えば、スキンヘッドに師匠がどうのとか言われた記憶がある。
地味目の女性に尋ねてみると、案の定彼女に魔術の手解きを行った人物の事の様だ。
話を聞くと、彼女の師匠は『右手に火の魔術を出した状態で左手に氷の魔術を展開する』といった器用な真似をこなし『指先を鳴らすと遠く離れた敵が燃え上がったり氷ついたりする』無詠唱で遠隔発動も出来るらしい。
それ何てチート?と聞き返したくなったが、誇らしげに語る口調とは裏腹に表情が暗い地味目の女性。
どうやら、そんな凄い魔術師の弟子なのになぜ大した魔術が使え無いのだと自己嫌悪に陥ってるのだろう。
しかしそれは逆なのでは?とケンは思う。
先程の【収納】の魔術を見た感じ、ケンと同じ特化型の魔術師なのでは無いだろうか?
それなのに、僅かとは言え他の魔術も使える様になるなんて、女性の努力は凄まじい物だったろうし、その師匠が如何に有能かと言うのが分かる。
それを伝えてみると、少し頬を染めて目が潤んできてる様に見えた。
「そんな風に言われたのは初めてです、ずっと私、役立たずの落ちこぼれだって・・・」
「馬鹿野郎!いつも言ってるだろうが、お前は役立たずなんかじゃ無いって!」
運搬人としていつも助けられているスキンヘッドは、ケンの言葉を聞いて「落ちこぼれでも無かったんだ、良かったじゃねえか」なんて泣き出した女性の背中をバンバンと叩いている。
強く叩きすぎなんじゃ…と心配になるが、スキンヘッドの目尻に光る物があり、二人共嬉しそうに笑っているのを見ると、これで良いんだと頬が緩んでいくケンであった。